目覚め
「う~ん」
蒼乃が目を覚ます。
「あれ?」
蒼乃はいつの間にかちひろのベッド脇で、顔をベッドに突っ伏し、寝てしまっていた。蒼乃は顔を上げる。そして、ちひろを見た。
「あっ」
蒼乃は驚く。
「ちひろ」
ちひろが目を開けていた。
「ちひろ、大丈夫」
「・・・」
ちひろは首と目だけを動かして、自身の体に巻かれた包帯を見つめた。
「何これ」
「お医者さん呼んで治療をしてもらったの」
「・・・」
ちひろは再び自分の体に巻かれた包帯を見つめる。
「どうしたの?」
蒼乃がちひろに訊く。
「寝てれば治ったのに」
「絶対、治ってないと思うよ・・汗」
「治るよ」
「・・・」
その自信はどこから来るのか分からなかったが、ちひろは断固として言う。
「う~ん、まあ、そうかもね」
またいつものちひろの変なこだわりだと思い、蒼乃は適当に受け流した。この辺は蒼乃もだいぶ、ちひろの扱いに慣れてきていた。
「ちひろ、お腹空かない?」
そして、うまいこと話題を変える。
「うん、空いた」
ちひろは昨日の昼から何も食べていなかった。
「じゃあ、おかゆ作るね」
「ハンバーガーがいい」
「ダメだよ。治療したばっかりなんだから。しかも朝からハンバーガーって」
「チーズバーガー」
「だからダメだって」
「やだ、チーズバーガー買って来て、コーラも」
「ダメ」
「駅前のダノンのチーズバーガー」
「ダメ」
「うううっ」
ちひろは幼い少女のようにふくれっ面をする。
そこで、突然、蒼乃がちひろを抱きしめた。ちひろが何ごとといった顔で蒼乃を見る。
「よかった」
「・・・」
「ちひろ死んじゃうかと思った」
蒼乃は涙目になっていた。
「蒼乃・・」
「うわぁ~ん」
「なんで泣く?蒼乃」
蒼乃は泣き出した。
「だって、だって」
蒼乃は顔をくしゃくしゃにして泣く。
「だって、ちひろが死んじゃうかと思ったんだもん」
今になって、不安、恐怖、悲しみ、寂しさ、心細さ、色んな感情が蒼乃の中に一気に溢れてきた。
「うわ~ん」
蒼乃は恥も外聞もなく、子どもみたいに泣く。
「ちひろ死んじゃやだよぉ」
蒼乃は泣き叫ぶ。
「あたしは死なないよ。蒼乃」
ちひろがやさしく言った。
「うん」
蒼乃が涙をいっぱい溜めた目でうなずく。そして、二人はお互いを求め合うように抱きしめ合った。
「ずっとそばにいてちひろ」
「うん」
二人はしっかりと抱き合った。そこには確かなお互いの温かな愛情があった。二人はお互いを全身で感じ、その存在を心の底から愛おしんだ。温かくかけがえのない存在。二人はお互いをしっかりと抱きしめた。
「ちひろ大丈夫?」
そこに目覚めた愛美がドアを開け、ふいに部屋に入って来た。
「あっ」
だが、すぐに、抱き合う二人の光景に気づき、愛美は慌てる。
「あっ、お邪魔だったわね。はははっ」
愛美はそう誤魔化すように言い、慌てて踵を返し、部屋を出て扉を閉めた。
「・・・」
二人は、固まったようにその光景を黙って見ていた。
「ふふふっ、あはははっ」
そして、二人はどちらからともなく笑い始めた。
「あはははっ」
二人は思いっきり笑った。
「あははははっ」
腹の底から笑った。幸せだった。なんだかよく分からないけど二人は幸せだった。
「愛美、いいよ。愛美」
そして、蒼乃は出ていった愛美を呼びに行った。




