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いじめっ子

 ちひろは一人駅前にいた。

 そこへ剛史君がやって来る。剛史君はいつもの縦ノリで、ちひろの前を通る。そして、そのままノリノリで通り過ぎて行った。

 ちひろの手には、いつの間にか小さな紙片が握られていた。


 突然、授業中の教室のドアが開いた。全員が一斉に前方のドアの方を見る。そこにはド派手な格好をした白髪の少女が立っている。ちひろだった。

「!」

 全員驚く。その格好と、突然現れた少女の両方に、何がどうしたのか一瞬思考停止になる。教室は一瞬、時間が止まったみたいになった。

「中川って子いる?」

 ちひろが机に座る生徒たちに向かって言った。

「あ、あなた、誰ですか。いま授業中ですよ」

 突然入ってきた白髪のド派手な服をまとった少女に、若い女教師は度肝を抜かれ、言葉を失っていたが、はたと我に返ると叫んだ。 

 しかし、ちひろはそんな女教師など無視して教室を見まわした。

「私だけど・・」

 教室の中ほどで、色白で長いストレートの髪を薄っすらと茶色にした、ひときわ顔立ちの整った女の子がおずおずと軽く手を挙げた。

 ちひろは中川の座る机の前までスタスタと無言で歩いていくと、その前に立った。

「あなたが、中川?」

「そ、そうだけど・・」

 ガンッ

「ぐがぁ」

 ちひろはいきなり中川の顔面を思いっきりぶん殴った。中川は、顔面を抑えて後ろにぶっ飛んだ。

「うああぁ、うああ」

 ぶっ飛ばされた勢いで椅子から転げ落ちた中川は、床の上を顔面を押さえながら転げまわる。

「蒼乃の痛みよ」

 ちひろはその脇にしゃがみこむと、床に倒れ呻く中川の耳元で囁いた。

「あたしが何を言ってるか分かるわよね」

 中川は呻きながらうなずいた。

 教師も生徒たちも、突然のことに動くことも、声を上げることも出来ず、茫然とその光景を見つめていた。

「矢川って子は?」

 ちひろは立ち上がり、また教室を見回す。教室は静まり返ったままだ。

「私だけど・・」

 今度は教室の左端の席に座っていた短めの髪の、鼻のデカい女がおずおずと手を上げた。

 ちひろは今度は矢川の座っている机の前まで行くと、その前に立ち、椅子に座る矢川を見下ろした。

「あなたが矢川?」

「そ、そうよ」

 ガンッ

 ちひろは、またいきなりその顔面を思いっきりぶん殴った。

「がぁああ」

 矢川は地鳴りのような叫び声を上げ、顔面を押さえ机に突っ伏し、そのまま崩れ落ちるように、床に倒れた。

「ううううっ」

 あまりの痛みに矢川は床を転げまわりながら呻く。

「蒼乃の痛みよ」

 ちひろは床に倒れ、転げまわる矢川の脇にしゃがみこむと、呻く矢川の耳元で囁いた。

「あたしが何を言ってるか分かるわよね」

 矢川は呻きながらうなずいた。

 ちひろは、再び立ち上がると、そのまま黙って何事もなかったように後ろのドアから教室を出て行った。

「・・・」

 教室に取り残された教師も生徒も全員、しばらく、ちひろの出ていった教室の後ろの出入り口を茫然と見つめたまま、誰も口を利くことも、動くこともできなかった。


「どこに行ってたの」

 突然帰ってきたちひろに、夕飯の支度をしていた蒼乃が台所から訊ねる。

「うん」

 ちひろは返事だけして、それには答えようとはず、そのままリビングに行ってしまった。

「?」

 蒼乃はそんなちひろに首を傾げる。

 ちひろはソファに座るミーコ―を抱き上げると、そのままいつものごとくだらしなくソファに寝そべるように座り込み、テレビをつけ、食い入るように見出した。部屋には、暴れん坊将軍のクライマックスの切り合いの時にいつも流れる、なんとも緊迫感を煽る軽快な音楽が流れる。

「変なの」

 蒼乃は訳も分からず首を傾げ、そんなちひろを見つめたが、すぐにまた料理に戻った。

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