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何か足りないもの

「ま、こんなもんかな」

 蒼乃はあらためてリビングを見回す。

 蒼乃が様々生活必需品を買い込んで、リビングも見違えるようになっていた。窓にはカーテンが揺れ、キッチンの近くにはテーブルと、向かい合って二人が座れるように椅子を二つ置いた。

「うん、我ながらなかなか」

 蒼乃は一人頷きながら、自分に感心する。

「しかし・・」

 だが、相変わらずちひろが見ているテレビは、旧型の箱型テレビでその下はただの木箱。そして、ちひろの座っているソファはあのいつものピンクの使い古されたソファだった。買い替えようと、蒼乃は提案したが、ちひろはそれを頑なに拒んだ。いくら、もっといいものがあり、お金があるのだから、そっちの方がいいと説明してもダメだった。普段のちひろは、わりと子どものように素直なのだが、一方、何か他人には分からない独特の深いこだわりがあって、そのスイッチに触れると、全く頑として訊く耳を持たなくなる。

「でも、ちひろは色々こだわりがあるけど、お金に関しては大らかなんだよなぁ・・」

 蒼乃は竹かごを覗く。蒼乃は生活用品を買い揃え、竹かごの中のお金をたくさん使ってしまったが、ちひろは何も言わない。その辺の感覚がまた人と違っていた。

「ちひろはよく分からん」

 蒼乃は腕を組み、首を傾げた。

「それにしても・・」

 蒼乃は再びリビングを見回し一人呟く。

「う~ん、何か足りないんだよなぁ~」

 生活用品など必要な物は一揃い揃ったのだが、何かが足りない。

「なんだろう」

 蒼乃は、さらに部屋を見回す。

「う~ん」

 それはとてもありきたりなもので、当たり前にあるもののように感じるのだが、どうしても思い浮かばない。

「あっ、そうだ」

 その時、蒼乃は突然気付いた。

「緑がない」

 蒼乃は叫ぶ。

「そうあまりに殺風景なんだわ。生きている感じがない」 

 それは、蒼乃がこの部屋に来てずっと感じていた違和感だった。

「そうよ、そうだわ」

 蒼乃は思わず興奮して大きな声を出す。テレビを見ていたちひろが、その声に反応して、そんな蒼乃を何事かと見上げる。

「よしっ」

 蒼乃は、一人気合を入れると、そのままいそいそと外へと出かけていった。そんな蒼乃の背中をちひろはぽかんと見送った。


「あれっ?」

 蒼乃が、商店街のお花屋さんで適当に観葉植物や花の鉢植えを買って帰ってくると、ちひろは部屋からいなくなっていた。ミーコ―だけが一人リビングにいて、蒼乃の足元にやって来る。

「ちひろ、どこかへ出かけたのかな」

 首を傾げながらも、さっそく、蒼乃は買ってきた植物を部屋に飾り付け始める。

「うん、やっぱりいい感じ」

 蒼乃は一人、得心する。ちょっと緑があるだけで、殺風景な部屋が生まれ変わったように、生き生きとした雰囲気になった。

 そこへ丁度ちひろが帰って来た。

「?」

 ちひろがすぐに部屋の変化に気が付いた。

「なにこれ?」

 ちひろがテーブルの上の小さな花の鉢植えを覗き込む。

「マーガレット」

「?」

 ちひろが蒼乃を見る。

「かわいいでしょ」

「・・・」

 しかし、ちひろは不思議そうに鉢植えの花を覗き込む。ミーコ―もテーブルに乗り、ちひろと一緒に鼻を近づけ覗き込む。

「生きてるの?」

 ちひろが蒼乃を見た。

「もちろん」

「・・・」 

 ちひろは部屋のあちこちに飾られたその観葉植物や花の鉢植えを、まるで別の星から来た生物でも見るみたいに不思議そうに眺めた。

「何もないでしょ。この部屋。だから、飾ってみたの。どう?」

「変」

「変じゃないよ。すぐ慣れるから、ね」

「うん・・」

 あまり納得している感じではなかったが、ちひろは別に文句は言わなかった。そして、すぐに関心を失い、いつものようにテレビ見始めた。

 それから蒼乃は、毎日のように大小さまざまな新たな観葉植物を買って来た。しかし、それは少し度が過ぎていた。

 気付けばリビングは、観葉植物やらサボテンやら、花々やらで埋め尽くされていた。リビングだけではない。ベッドしかなかったあの寝室も緑で覆われていた。

「・・・」

 ちひろは、昼寝をしようと入ったそんな寝室を茫然と見つめた。

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