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掃除

 蒼乃は仕方なく、何もしていないのもなんなので、掃除を始めた。

「ねえ、箒ってないの」

「箒?」

「雑巾とか」

「雑巾?」

「うん、もういい」

 蒼乃は、ちひろに常識を求めても無駄だと悟った。

 蒼乃は掃除道具を買いに再び商店街に出かけた。ビン入りコーラを買いに出かけた時、なかなか見つからずあちこち探しまわったので、商店街の様子は大分分かってきていた。だから、商店街の中ほどで金物店はすぐに見つけることが出来た。

 部屋に戻ってきた蒼乃は、さっそく掃除を始めた。そんな蒼乃をちひろは、何ごとかと不思議そうに眺めている。

 蒼乃はまずリビングを箒で掃き、雑巾で床板を拭いてゆく。リビングは、掃除をしてみると、思っていたよりもかなり広く大変だった。

「それにしても・・」

 掃除をしながら改めて蒼乃は、部屋があまりに生活感が無さ過ぎることに気付いた。根本的な生活に必要な物が何一つない。というか生活の常識がない。

「・・・」

 ちひろはどういう境遇で生きて来たのだろうか、今までどういう生活をしていたのだろうか。蒼乃はとても気になった。

 しかし、当のちひろは、ミーコ―を抱いたまま、ガムを噛み、それを巨大な風船にしては、ボケっとテレビを見ている。 

 一通りリビングと台所の掃除が終わると、蒼乃はお風呂に入りたいと思った。昨日はそのまま寝てしまったのでもちろん入っていない。

「お風呂ってないの」

 蒼乃は相変わらずテレビを見ているちひろに訊いてみた。

「あるよ」

「あ、あるんだ」

「うん」

 蒼乃は少しほっとした。常識外れの生活環境に、お風呂がないのではと不安になっていた。

「こっち」

 ちひろは玄関まで行くと、今度はそこからリビングとは反対の方へと歩いて行く。

「ここ」

 その廊下の奥まったところの扉をちひろが開ける。

「わあ」

 中を覗いて蒼乃は驚いた。そこは本格的な石造りの豪華なローマ風呂の広い湯船が広がっていた。

「すごい」

 一介のマンションの部屋にあるお風呂とは思えない、まるで旅館か温泉施設のような風呂場だった。

「・・・」

 しかし、まったく使っていないのか、廃墟のように汚れたままだ。

「よしっ」

 蒼乃は一人気合を入れた。そんな蒼乃をちひろがぽかんと横から見つめる。 

 蒼乃は再び商店街に出かけて行って、風呂用の掃除道具を一揃い買ってくると、風呂場に入った。

「よしっ、やるぞぉ」

 蒼乃は気合を入れて腕をまくった。蒼乃は水垢とほこりの堆積したタイルを、たわしでごしごし磨き上げてゆく。そんな蒼乃を風呂場の入り口でちひろがアイスを口に運びながら、大人が何をやっているのか分からない子供のように見つめている。

「ふぅ~、こりゃ大変だ」

 掃除は風呂場が広い分大変だったが、この湯船に入る自分を想像すると、蒼乃は興奮せずにはいられなかった。

「おおっ」

 風呂場で格闘すること、三時間。改めて風呂場を見回し、蒼乃は自分で呻いた。

「我ながらすごい」

 風呂場は見違えるようにきれいになっていた。タイルは元の色に光り輝き、湯船は本来の姿を取り戻していた。風呂場は正に輝くほどにきれいになっていた。

「お湯は出るのかな」

 そう考えた時、蒼乃は急に不安になった。

「お湯が出なきゃ意味ないよね」

 これだけ使用していないということは、ボイラーが壊れている可能性は十分にある。

「ここかな」

 ボイラーのスイッチらしきボタンがあり、それを押してみる。

「・・・」

 押してしばらくすると、何かゴゴゴッという音が壁の裏側辺りから鳴り出した。

「おおおっ」

 どうやら、とりあえずボイラーは動いているらしい。蒼乃は風呂場に戻ると、お湯の蛇口をひねった。

 しかし、お湯は出てこない。

「やっぱり・・、あ、出た」

 しばらくすると、温かいお湯が出て来た。

「やった」

 お湯はどんどん熱くなっていく。

「でも、これを満たすのは時間かかりそうだな」

 湯船は広い分、お湯で満たすのは大変だった。しかし、蒼乃は待っているその時間でさえなんだかわくわくした。

 蒼乃は、リビングに戻り、相変わらずソファでテレビを見ているちひろの隣りに座った。ちひろは、そんななんだか鼻歌でも歌いそうにわくわくしている蒼乃を不思議そうに横から見つめた。

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