野菜サラダ
「・・・」
ちひろは左手にフォークを握りしめたまま、蒼乃の作った目の前の野菜サラダを、珍妙な物でも見るように、食い入るように見つめた。サニーレタスで周囲を飾り、真ん中にキャベツやキュウリ、トマトなどを彩りよく配したオーソドックスなサラダだった。
「・・・」
ちひろは、目の前のサラダを見つめ、渋い顔をして眉間に深い皺を寄せ、そしてそれがまた戻るという動きをピクピクと繰り返した。
「これ食べ物?」
ちひろが隣りに立つ蒼乃を見上げた。
「そうだよ」
蒼乃は即答する。
「・・・」
ちひろは、再び野菜サラダを見つめた。そして、しばらく野菜サラダを見つめた後、ゆっくりとフォークをサラダへと伸ばした。
ちひろは、フォークの先に刺さった野菜を何度も裏返したり近づけたりしながら様々な角度で見つめた。そして、恐る恐るゆっくりと口へと近づけていった。そして、ちひろは一瞬口の前でためらった後、それを勢いよく口の中へ入れた。
「・・・」
ちひろの渋い表情は更に渋くなり、眉間の皺はさらに深くなった。
「まずい・・?」
蒼乃は恐る恐るちひろの横から訊いた。
「・・・」
ちひろは渋い顔のまま、黙ってもぐもぐとゆっくり口を動かしていく。
「やっぱりおいしくなかった?」
蒼乃は不安になる。やっぱりジャンクフードばかり偏食している子にいきなり生野菜は合わないよな。蒼乃は思った。
「やっぱ・・」
「うまい」
「えっ」
その時、ちひろは突然顔を輝かせて叫んだ。そして、バクバクとものすごい勢いで野菜サラダを食べだした。蒼乃はその勢いに、ただ驚き茫然となった。
「まずいのかと思った・・」
蒼乃はそんなちひろを、驚きながら見つめ、一人呟いた。
皿の上のサラダはあっという間になくなった。ちひろは物欲しげに蒼乃を見た。
「分かった。すぐにおかわり作るわ」
「うん」
ちひろは幼い子供のように嬉しそうにうなずいた。
すぐに出来た新たなサラダをバクバクとちひろはものすごい勢いで食べた。そんなちひろを見ているとなんだか蒼乃は嬉しくなってきた。
「これから私が料理を作ってあげるわ」
蒼乃が嬉しそうに言った。
「うん」
そんな蒼乃を、子供みたいにちひろは見上げた。
ぐぅ~
また蒼乃のお腹が鳴った。
「そうだ。そもそも私が何か食べたかったんだ」
蒼乃はちひろを残し再びキッチンへと入った。
「やっぱりおかまも、ガス台すらがない・・」
一応お米とみそなども買ってきていたが、それを料理することすらが無理のようだった。
「アイスとコーラって・・」
再び冷蔵庫を開け、改めてその中身を見つめると、蒼乃はちひろの無茶苦茶な食生活に呆れた。
「よく生きていたな・・」
蒼乃は恐ろしさすら感じた。
蒼乃は仕方なく、自分用のサラダを作って、それでがまんすることにした。
ミャ~オ
そこへミーコ―がやって来て、蒼乃の足元で鳴いた。
「ああ、ごめんごめん。あんたにもごはんだね」
蒼乃はミーコ―用に買ってきた牛乳をこれまた新しく買ってきた小皿に注ぎ、それを床に置いた。ちひろの家には食器や箸やフォークすらがなかった。あるのはアイスを食べるスプーンのみ。
「ごはんだよ」
蒼乃がしゃがみこみ、そう言うとミーコ―は小皿に顔をつけ、ぺろぺろと牛乳を舐めだした。
「ふふふっ」
その姿が何とも愛おしくて、蒼乃はその小さな背中を撫でながら思わず微笑んだ。
「そういえば、外に買い物に行った時、そのまま逃げれたな」
蒼乃はバカ正直にここに帰って来ている自分をおかしく思った。そして、逃げようとすら発想しなかったことを不思議に思った。




