1.朝食
民家が2つ分ほど収まるほどに大きな部屋は黒と紺色の2色によって彩られている。
濃淡の差があるため、単調な部屋とは違っているが、とても齢10の少女の部屋とは思えない。
そして、これまた大きな天蓋つきのベッドが目を引く。
黒い透け感のある生地をベースに、細かく豪奢な彫りが施されたレースを付け加えた肌触りの良い布を何重にも重ねあげて作られた天蓋。
その天蓋は最早芸術作品のようであり、中で眠っている少女がシルエットでしか映らない様は、絵のように思える。
そして、それから覗くたっぷり羽毛がつまった濃紺の布団と、この部屋に1つしかない白色のシーツが、部屋の中でよく映えた。
コン、コン、コン。
間を開けて紡がれたノック音。
重厚な扉を丁寧に開けて、メイドが二人入ってくる。
先に入室したメイドは幼い少女が眠っているベッドに向かい、後に入室したメイドは朝使用するものを乗せた銀のワゴンを大きな三面鏡のついた化粧台に向かい、準備を始める。
先に入室した黒髪のメイドが、天幕をゆっくり避けて、小さな主に朝を告げる。
「お嬢様、朝でございます」
凜としていて、どこか優しげな声音を聞いた主ーーシエルは、長い睫を揺らして瞬きし、黒に近い深い藍から淡い水色へと変わっている長髪を揺らしながら起き上がった。
ベッドから降りて黒いネグリジェを脱ぐ彼女に黒髪のメイドがワンピースを持ってやってくる。
黒をベースに、パステルグリーンが指し色として入ったそれを慣れた手付きで着せていった。
そして化粧台に座る彼女に、後に入室した赤毛のメイドが蒸したタオルを渡す。
そのタオルで顔を拭き、また赤毛のメイドに戻した。
膝と踝の間ほどまで伸びた髪を丁寧に解かしながら、黒髪のメイドが今日の予定を伝える。
特に何もない予定を聞いたシエルは、「そう」とだけ言って目を閉じた。
緩く編み込んで翡翠色のリボンを結ぶ。
丁度支度が整った頃、二度のノック音の後に少年の声がした。
「シエル様、朝食の用意が出来ました」
「入って頂戴」
シエルは了承の旨を言い、部屋に招き入れる。
二人のメイドは、シエルに頭を下げてから入室した少年と入れ違いに退室していく。
失礼します、と言って入室したのは、執事服を着こなしたシエルそっくりの少年だった。
瞳の色が左右逆であるが、それ以外の差異は見当たらない。
双子のようにそっくりな二人であったが、少年が先にシエルに朝の挨拶をした。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、ノエル」
扉が閉じられ、部屋からの音が遮断された。