寒さ、疲労、少しの油断13
(しかし、何故今日に限ってこんなに退屈に思えるのだろうな)
自問自答。
しかしその答えは出ない。
今までだって悠がいない事はあったし、普段から片時も離れた事が無い訳でも、何か特別に話しておきたいことがある訳でもない。
それどころか、普段はお互いの仕事をしていて朝と昼食時と夜以外はほとんど口を聞くことが無い時もある。
だが、普段からそれらに不満を感じているかどうかは、この感覚に戸惑っている事からも明らかだった。
「はぁ……」
もう一度溜息。
それから、それを撤回するようにぱちんと頬を叩く。
「よし、やるか」
こうしていても仕方がない。
どうせ午後は帰ってきた悠の看病なりなんなりをするのだろうから、午後の作業は今のうちに終わらせておこう――妖刀はそう自分に言い聞かせて作業に向かう。
いまいち身の入らない作業。
その為か慣れている筈なのに妙にもたつく。
(駄目だな今日は)
そんな自分への苛立ちが募り心の中で毒づく。
「ひょっとしたら悠の風邪が染ったかな」
それを掻き消すように努めて明るい声で発した独り言はしんとした本殿に響いて、帰って虚しい気持ちを掻き立てるだけだった。
「……」
軽い後悔と共に黙る。
淡々、黙々と作業に没頭する。
――少なくともその努力をする。
「ただいま」
その長い長い留守番が終わるのは、社務所の扉の音と共に鼻声が帰ってきたその時だった。
「おかえり。どうだった?」
パタパタと小走りで出迎える妖刀――無意識のうちの行動。
「やっぱり風邪だって。薬飲んでよく寝ろとの事」
息苦しいのか、マスクをつまんで隙間を作りながら答える悠。
マスクを持つ腕には小さなビニール袋がぶら下がっている。
「まあ、そうだろうな。着替えて寝ていろ。布団敷いたままだから」
特に何か感情を込めた訳でもない事務的な口調。
しかしその表情はどこか安心したものになっていた――これも無意識のうちに。
それに気付いているのかいないのか、上着を脱ぎながら身震いを一つ。まだ熱がある=悪寒がしているが故。
「ありがとう。じゃあ、そうさせてもらうね」
「あ、寝る前にうがいと手洗いはちゃんとしろよ?」
追加に苦笑で返す悠。
「子供みたい」
だが、流石に今は素直に従う。
一通り終えてから自室に戻った悠を追い、妖刀も二階へ。
一度悠の部屋を越え、洗濯ものを持って彼女の部屋を尋ねる。
「こっちに干させてくれ。加湿器代わりにもなるだろう」
外はまだ雨が降り続いている。
今日一日やむことはないだろう。
「じゃあ、おやすみ」
「ああ。おやすみ」
部屋を辞する妖刀。
階段を下りながら、先程とは真逆の感覚が体内に駆け巡るのを感じる。
「さて、やるか!」
時間はまだ10時を少し回ったぐらい。
昼食を用意するまでまだ一仕事する時間はある。
悠が戻ってきて、ただの風邪だと判明して、そこまで重篤な様子でなくて、布団に入ってゆっくり休めるようになって、何故かそれでいつものやる気が戻ってくる。
(よく分からんな私は)
妖刀は自分の心の動きがいまいち掴めないまま、やり残した掃除に戻っていった。
(つづく)
このところ投稿予定が不安定になりまして申し訳ございません。
次回は今日の夜に投稿できる予定です。




