プロローグ4
神秘は科学によって解明され、また科学によってもたらされる。
かつて神秘と信仰とを鬻いだ宗教関係者は、今やソーサリウム技術者に鞍替えするか、それが出来ない者は冷や飯食いを強いられる。
――しかしそれが、多くの者達が望んだ姿の一面でもあった。
ソーサリウムのこの特質の解明によって、かつて霊媒師や霊能者と呼ばれていた人間の多くが廃業する事になったが、大多数の人々はかつてより明確に、そして前向きに死者と向き合う事が可能になった。
(まあ、知らぬが仏か)
最大値を示す濃度計を見ながら妖刀はふと心の中で呟く。
前向きに決まっている。そうとは知らずとも自分の中にいる死者の幻影を見ているのだ。
それは本物の死者ではない。自分の中に作り上げた、ある種の理想像だ。
一切を赦し、一切から解放された存在。そうやって作ることも可能な偶像。
悠のようなソーサリウムを取り扱う事の出来る者は、それを見せてやる事が出来る――事前に遺品にソーサリウムを塗布する事で。
(要はショーだよなこれ)
究極的には祝詞も大幣も必要ない。もしそれらに意味を求めるとすれば、依頼者をその気にさせ、思念を伝えやすくするための演出という、ただその一点だろう。
この時代、少なくとも日本においてソーサリウムを取り入れなかった宗教はその規模を軒並み縮小している。そうしたソーサリウムによる反魂の正体を知らない多くの一般大衆が離れた事によって。
「じゃあ、そろそろ時間だ」
「うん……ありがとうね」
ソーサリウムの濃度が下がり始めている事は、濃度計を見ないでもわかった。
燃料が切れれば火は消える。結果からの原因の推測――容易。
「また、会いに来るからね」
「ああ……待って……いる……」
ぼやけ、霞み、やがて消えていく男性。
小さく手を振って見送った女性の目はうっすらと光っていた。
「お帰りになられました」
静かに悠が告げると、そこで初めて女性は自分以外がこの部屋にいたことを思い出したように、彼女の方に向き直って深々と頭を下げた。
「ありがとうございました」
僅か一時間にも満たない面会。
それでも、ソーサリウムがもたらすその時間を求めに来る者は少なくない。
「……」
女性が去っていくのを鳥居まで見送った妖刀は、彼女が見えなくなってからもしばしその場で立ち尽くしていた。
「……えいっ」
「ふにゃ!?」
不意に背後から両方の頬をつねられる。そんな事をする者は一人しかいない――状況的にも性格的にも。
「……ふぁにをふるはほみほ」
「へっへ~。怖い顔してんじゃないの。うちだって一応客商売なんだから」
10cm以上ある身長差の関係でやや背伸び気味に頬をこね回しながら悠が答える。
「……因果な生業だな」
「何が?」
ぼうっと、女性が消えた町を見つめながら妖刀は続ける。数mの高さを石段で降りた先。いつもいるたこ焼き屋の屋台が、今は店主もおらず路肩に止められている。
「……あれが死者の本当の声かも分からない。ただ己がそうであって欲しいと思う姿。得られるのは自分の中の満足だけだ」
私が言うのもおかしいがな、と付け加える。
それからさらにはっとしたようにもう一言。
「あ、いや。別にお前の仕事を否定している訳じゃない」
(つづく)