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偶像崇拝1

 「何を見ているんだ?」

 「んー?」

 夜。寝る前のリラックスできる時間――普段緊張していることなどほとんど無いのだが――を、この所ノートパソコンの前で過ごすことの多い悠。妖刀が覗き込むのに合わせて頭を避ける。


 「これ、はまってさ」

 「ああ、バーチャルなんとか言う……」

 画面の中で、3Dモデルの少女が何やら動いている。

 「この子が面白いんだよ。これは過去の配信分だけど」

 ワーキャー言いながらゲームをやっているのを見ながら悠がそう説明する。


 「このちょっと馬鹿っぽい所とか、見ていて飽きない」

 (お前が他人を馬鹿とか言えるのか……)

 心の声を噛み殺しながらそれを聞く妖刀。

 「実家にいる時からちょいちょい見ていたけど、結構引退とか多くて入れ替わり速いんだよね。この子は残って欲しいなぁ」

 「ふぅん」

 聞きながら動画の下で動いているシークバーに目をやる。

 現在60分の動画の丁度半分程。その上では3Dモデルの少女が色々トークを続けながら――時々ゲームに絶叫しながら――プレーを続けている。


 (引退か。まあ、中々慣れないと難しそうではあるが)

 考えながら口を動かし、喋りながら手を動かし、手を動かしながら画面横に次々表示される視聴者のコメントに対応し、対応するために口と手を動かしながら考える。同時に全てこなすのは簡単な事ではないだろうというのは妖刀にもなんとなく想像はついた。


 「ハハハ!そっちじゃないって……。頭使お――くしゅん!」

 (自分で自分の噂をしてもくしゃみが出るのか)

 思わず僅かに噴き出したのは悠にも聞こえていたようだ。


 「ん?どうしたの?」

 「いや、なんでもない」

 適当にごまかしながら、妖刀はふと考える。確かに元気のいい馬鹿は見ていて飽きないな、と。


 翌日。いつものように愛用の箒で境内を掃き清める妖刀。

 「……」

 だが、その意識は頻繁に鳥居の方に向けられている。

 (待ち合わせ……には見えないな)

 鳥居の下にサラリーマン風の男が一人。

 誰かを待っているという様子でもなく、時折鳥居の先=神社の中を覗いては何かを考えるように下を向き、そしてまた背を向ける。


 (何か企んでいるようにも見えないが……)

 迷っているのだろうか――辿り着いた答え。

 綾篠神社では氏子以外の反魂も受け付けているし、実際に時々訪ねてくる者もいるが、その中にはどうしても最初は戸惑う者もいる。


 (声をかけてみるか)

 いっそ中に呼びこまれた方が踏ん切りがつくだろう――その方が商売的に好都合でもある。

 妖刀がそう思った矢先、それとは反対側、賽銭箱の辺りで人の気配がした。

(つづく)

新章開始します

続きはまた明日

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