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イエッタイガー参上 前編

まぁ、地下アイドル世界の特撮系です。

慣れていないので週一回ペースを目指します。



 そこを言葉で表すなら、“邪教の神殿”というのが一番相応しいだろう。

 薄闇に支配された、三十メートル四方程の石造りの空間である。二つの壁に対称に悪魔か鬼の手を象たであろう燭台が等間隔に設置され、蒼白い炎が揺れている。

 そのまるで鬼火のような炎が導く奥におそらくは祭壇、もしくは玉座があるようだったが、すべての光を拒否しているかのような濃い闇がわだかまっていた。

「五魔将、参上致しました」

 不意に中央に五つの人影が現れ、祭壇に向かってひざまつき頭を深く垂れる。

 青、赤、ピンク、黄、緑のローブを纏い、顔もフードでまったく見えなかった。年格好どころか性別すらも不明だ。声もまるで安物の合成ボイスのようで、まったく特徴がない。

 不可解なのは、この空間には出入口はおろか窓すらなく完全に密閉されている事だ。五人はどうやって現れたのか?

 さらに言えば、彼らには影もなく時折ブレたかのように乱れ薄れる。だが、ホログラフィーではありえない存在感があった。

「報告を聞こうか、氷魔将よ。面を上げよ」

 闇に包まれた祭壇から声が響く。どうやら祭壇ではなく、玉座が正解のようだ。その声は少女のようであり、青年のようであり老人のようだ。しかし、同時にそのどれでもなかった。

「はッ!」

 その言葉に五人の中央に位置する青ローブが顔を上げる。

「およそ三時間前に主任研究員の小津野が結界を破り、〝WOTA-01〟を盗み逃亡。現在、チケ兵共がその行方を追っております」

「解せぬな…冥気を科学に応用した才能とは言え、きゃつの血筋は技を失伝したのではないのか?」

「外から結界に干渉した痕跡が発見されました」

 この世界ではどんなに強力な結界を貼っても、普通の人間は長い時間生きていけない。

 その為研究施設は通常空間にはある。研究している内容が内容なだけに、外部の者を拒む強力な結界に守られていた。外からこの結界に干渉できる者は、おそらくある者達を除き存在しない。

「よもや、きゃつらの仕業か?」

 今まで感情が抜け落ちていた声に、焦燥が混じる。

「はい、鎮守(ちんじゅ)(たみ)による介入かと思われます。あるいは小津野との繋がりも…」

積屍鬼(せきしき)を出せ。きゃつら相手ではチケ兵共では役不足やもしれぬ。ましてや〝WOTA-01〟を使われては…」

「現在顕現している積屍鬼で、即座に出せるのはハゥ・ガッシィだけです…」

 氷魔将の言葉に、困惑が漂う。

「あいつ、脳筋でしょ?」

 思わず素が出た…のか?応えたのは沈黙だけだった。

「かまわん、きゃつを出せ!氷魔将よ、可能な限り統制せよ!」

「はっ!」

 氷魔将の声を合図に五魔将の姿が掻き消える。決定はなされた。後は動くだけだった。


「だから、今日は休むって二ヶ月も前に言っているだろう!」

 新宿駅西口を出た時に掛かってきた電話の内容に、俺は声を荒げずにいられなかった。

 電話の相手は親父の事務所アライブに所属している地下アイドルグループであるマリアージュのリーダー、ルイこと神奈木瑠衣(かんなぎ るい)…二つ年下の幼馴染だ。

 そして俺の名前は会堂崇(かいどう たかし)、二十歳。どこにでもいる大学生…なのだが、父親が芸能事務所なんぞを経営している為、しょっちゅうスタッフとしてライブ等に駆り出されている。

「しょうがないじゃない!恵理紗さん、急な用事で来られなくなったんだから…特典会仕切る人がいないのよ!」

 マリアージュのチーフ・マネージャーである東雲恵理紗(しののめ えりさ)さんは二十九歳。かつてはモデル兼アイドルの会社アライブの稼ぎ頭だったが、五年前に引退。その後、プロデューサーを目指してスタッフに転向した人だ。

 マリアージュには立ち上げから携わっており、プロデューサーは一応親父だが実質的には恵理紗さんが仕切っている。

「だいたい正社員じゃない俺が仕切るのおかしいだろ!井上さんに任せりゃいいだろ!」

「だって井上さん、優柔不断じゃん」

 確かに井上さんは企画や映像処理等を得意とするが、優柔不断なところがある。特に特典会ではその傾向が強い。以前恵理紗さんと俺がいない特典会はぐちゃぐちゃになったらしい。

「だいたい今日はJIF(ジフ)に出れるかどうかの瀬戸際なのよ!他の事務所のアイドルのワンマンと、いったいどっちが大事なのよ!」

 JIFの正式名称は日本アイドル・フェスティバル…毎年八月に開催される一大アイドルイベントだ。

 マリアージュはJIF出演をかけたライブ配信アプリのイベントに参加。そしてファン達の行き過…いや、熱心な応援の結果、見事決勝ライブに残ったのだ。

『出れねぇよ…』

 決勝に残った十二のアイドルのうち、出演できるのは三つ。マリアージュはだいたい七番目と言った所だ。ぶっちゃけ上位五グループには、実力・人気共に突き放されている。

 もっともこれは (例えアルバイトに近いとしても)スタッフの立場では、けっして口にしてはいけない言葉だ。俺はなんとか禁断の本音を呑み込む。

「なに言ってるんだ?プレアデスに決まっているだろ。とにかく俺は今日は行けないからな!お前が井上さんを手伝ってやれ」

 応えたのは静寂だった。まぁ、絶句しているんだろう。俺は瑠衣が復活する前に、通話を切りスマホの電源を落とした。

 プレアデスは元々五人のグループだったが、二年前に新メンバーを二人加えて現在のグループ名に変えてから人気が爆発したグループだ。

 今回の〝七星祭〟と銘打たれた7thワンマンは、メジャーデビュー前のラスト・ワンマンでありファンとしては見逃す事ができないライブだ。

 そう、俺はプレアデスがデビューした四年前からの熱烈なファンだった。勿論、その頃は親父の手伝いをするなんて思ってなかったからだが。

 とにかく今日はプレアデスのライブを楽しむのだ。会社(アライブ)の事なんか知った事か!

 ふとサイリウムの電池が不安だったのを思い出した。

 電池が切れかかっていたら、会場に入る前に電池を買っておかなければならない。鞄の中に手を入れて、サイリウムを発光させてみる。流石に新宿の街中でサイリウムを出す勇気はない。

 その時、不意に体当たりを喰らい派手に転倒する。全力で走ってきた相手の前方不注意だったようだ。

 勢いがついていた相手は俺より派手に転倒していた。どこかヲタクっぽい、小太りなオッサンだった。

 ちゃんと閉まっていなかったのだろう。持っていたアタッシュケースも開いてしまって、内側を下にした状態になっている。

 なにか大事な物でも入っていていたのか、オッサンは慌ててアタッシュケースを持ち上げ、溢れ落ちた物をアタッシュケースに入れ直して慎重に閉める。

『サイリウム…?』

 俺は尻もちを着いたまま、首を傾げた。オッサンがアタッシュケースに入れたのはサイリウムだった気がしたのだ。まぁ、俺の見間違いだろう。サイリウムをアタッシュケースに入れるヲタなど…いそうで怖いな。

「怪我はないか?申し訳ないが、急いでいるんだ!」

 オッサンは俺に頭を下げると、体型に似つかわしくない素早さで走り去って行った。唖然とする俺を残したままでだ。

「馬鹿野郎!」

 我に返った俺の罵声を背に、オッサンは地下街へと消えていった。

「まったく、ついてないな」

 俺はズボンの埃を落としながら立ち上がり、鞄を拾う。念の為に中身をチェックするとサイリウムが無かった。

「えっ?」

 サイリウムを持っている時に体当たりを喰らったから、どこかに放り投げてしまったのか?

 辺りを見回すと、脇の花壇に落ちているのを見つけた。幸い傷もついてないようだし、ちゃんと発光する。なんか重たくなったような気もしないでないが、勘違いだろう。

 それよりもあまり時間がない。俺は些細な事は秒で頭から閉め出し、開場まで三十分を切ったライブ会場へ急ぐ事にした。




 ワンマン・ライブは終盤に入ろうとしていた。

 生バンドの演奏での、メジャーデビュー曲初披露に会場は沸きに沸いていた。

 今回はクジ運に恵まれず、俺はVIPエリアの最後方の一番端になってしまった。これなら一般エリアの最前中央の方がよっぽど良かったんじゃないか?

 まぁ、この会場(ハコ)はステージが高く、俺も百八十近い上背があるので後方でもさほど苦にならないのが救いだ。

 ちなみに俺の推しは青担当のリーダー、岡部明菜(おかべ あきな)だ。

 明菜さんとは個人的に知り合いであり、実は初恋の人だったのは他のプレヲタには内緒である。

 どういう事かと言うと、明菜さんは五年前に事故で亡くなった俺の姉の親友だったのだ。

 アイドルだった姉の遺志を継ぎ、アイドルになった明菜さんを俺はデビュー以来応援している。

 プレアデスが所属する事務所であるアプラスは元々はアライブの下部事務所であり、デビューライブへもプレアデスのプロデューサーの浦さんに頼まれてサクラとして行ったのだ。もっとも頼まれなくとも行くつもりではあったが…

 プレアデスの人気爆発でアプラスの発言力が強くなった事と俺がアライブの仕事を手伝うようになった二年前は、まさしく他界の危機だった。しかしスタッフとして仕事中は変装する事等を条件に、なんとか浦さんから今まで通りのヲタ活を許可して貰ったのだ。

 いくら同列系とは言え、浦さんもいい加減なものだ。

 しかし明菜さんのアイドルとしての才能に気づき、姉の遺志や初恋の人というのを抜きにしてアイドルとして応援しようと思っていた頃なので感謝の念には尽きない。

 メジャーデビュー曲が終わり、フォーメーションを組み直しイントロが流れる。明菜さんがメインの曲だ。流石に初めて聞く曲では上手くコールできなかったヲタ達にも気合いが入る。俺も青のサイリウムを握り直した。

 まるで爆発するかのようなコールとサイリウムの乱舞だ。

 サビの前、コール合わせて俺は思い切り叫んだ。

「イエッタイガー!!」

【キーコード、確認しました。マスター登録完了。〝WOTA-01〟作動します。イエッタイガー、青色形態(アクア・フォーム)

 不意に脳裏に声がし、会場が眩い光に包まれたのだった。

この段階で言える台詞ではありませんが、感想や意見等をいただけたら嬉しいです。


誰か英語に詳しい方、WOTAの格好いい意味を考えてくれたら助かります。

とりあえずワールド・アウターズ・タクティカル・アーマーを考えていますが、多分意味が通ってませんwww

英語は苦手じゃ

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