序章
それはまだ幼い頃の話だ。
ユリアヌスはプラトンが好きだった。
ユリアヌスはアリストテレスが好きだった。
ユリアヌスはソクラテスもテオプラストスも好きだった。
しかし、「そんな本は読んではいけない」と言われた。
ユリアヌスにはわからなかった。
こんなに美しいものを、こんなに素晴らしいものを、何故、読んではいけないのか?
神の教えに背く者だからと言われた。プラトンやアリストテレスはキリスト教徒ではない。異教徒なのだと言われた。異教徒とはすなわち邪教徒であり、悪魔の手下であり。イエス様の敵なのだと。
そんな輩が残した本は青少年健全育成に反すると言われた。
そんな汚らわしい有害図書には近寄ってはならないと言われた。
意味がわからなかった。
イエス様は石で打たれる娼婦を庇ったのではないのか? 幼いユリアヌスは娼婦が何なのか、よくわかっていなかったが、神様とはそんな風に忌み嫌われた人をこそ救って下さると思っていたのだ。
それに、イエス様はプラトンやアリストテレスよりも後に産まれたのだ。神の教えに背くも何もない。イエス様が生まれる前に死んだ人たちが、その教えを知らないのは当然だ。それを悪魔の手先など……そんな理不尽な話があるのだろうか?
ユリアヌスは憤懣やるせなく、神父様に質問してみた。
だが、神父様は厳しく恐ろしい人だった。
「神を疑うべからず!!」
その一言で、ユリアヌスは一喝され一蹴された。
しかし、それでもユリアヌスはプラトンやアリストテレスが忘れられなかった。与えられた『聖書』はもう暗唱できる程に読み返していた。飽きていたのだ。だから、こっそり『聖書』以外の本を……もっとイケナイ本も読み出すようになった。
それが神父様に見つかった。
神父様は激怒し、ユリアヌスの手からイケナイ本――共和制民主主義についての書物を奪い取った。
「まだわからないのか! こんな本を読んでいては、お前も、家族のように……!」
そこで、神父様の顔色が変わった。
ユリアヌスは悟った。
ユリアヌスの家族は何者かに殺されていたからだ。
あの事件の犯人は不明とされていたからだ。
ユリアヌスは勇気を振り絞って、口を開く。
「神父様……?」
すると神父様はユリアヌスを抱きしめた。
それが現実なのだと言われた。
神父様は涙を流していた。神父様の体が小さく見えた。
それが現実なのだ。世界は美しいものではない、素晴らしいものではない。しかし、それが現実なのだ。
歳を経て、ユリアヌスは理解した。
プラトンやアリストテレスを読む事を止められた理由を。
それが周りの大人の思いやりであった事実を。
あの神父様が本当は優しい人だったという真実を。
ユリアヌスを一喝したのも一蹴したのも、すべてユリアヌスを愛するが故である事を。
ユリアヌスは現実を理解した。
だから、ユリアヌスは現実が嫌いになった。
あ、次回第一話でメインヒロイン登場です。
しかも全裸です。
「な!? ゲルマン!?」
と主人公が驚く金髪美少女が全裸で登場なので、是非ご期待を。