第七話 クロエ・ブートキャンプの準備と夜明け
「第六話 ゴブリン蔓延る洞窟を攻略しよう」に続き、物語のページをめくって頂いたこと、誠に感謝致します。
これからかなり突貫作業でことが進んでいきます。
目まぐるしく日程が飛んでいくので、お気をつけください。
では「第七話 クロエ・ブートキャンプの準備と夜明け」をお楽しみくださいませ。
その日に街まで戻り、クエスト報告と保護した冒険者らしき女の身元特定と引渡しを済ませ、組合長の許可の下、その場にいた冒険者を連れて洞窟前に集合。
ゴブリンが長年住み淀んだ空気が漂う洞窟内の大規模な大掃除が三日にわたって行われ、だいぶ綺麗になり住居するにも耐えるものになったほか、一週間に渡り土属性に強い魔術師がいたので洞窟内を整形した。
各所に通気口を設けた他、大規模な射撃場やトレーニングルームなど必要最低限の教育施設を完備し、組合の建物と遜色ない酒場、数十人は同時に寝れる睡眠室なども備え、完璧な仕上がりになった。
射撃場が出来、家具屋から大量の内装を室内に配置。
個室の十数個を安い宿にして、希望者数名を泊まらせ恒久的な収入源としたり、入口の周辺に自生する植物やら木やらを伐採して土地を用意し、そこに植物を植えたり、家畜を数匹飼って農場を作ったりと一工夫する。
今や、それらを使って料理に出すに至る。
まだレーションを使った簡易的なものだけど。
洞窟の射撃場が稼働し始めて1ヶ月もすれば、組合長に登録しているメンバーは無料で泊まれる宿や、浴場。
私が欲しいと言ったものはなんでも揃う、夢のような"村"になるまで成長した。
組合も現在地を洞窟前……新たにグラン・デュール村に構え、以前の街のギルド職員が二日に一度のペースで訪れるようになった。
村の周囲は、洞窟を整形する時に生まれた石材を石ころサイズまでに砕き、ヘスコ防壁を利用しうまく積立て、充分な防御性能も備えている。
そして、それまでの働きから組合長、ローヴェンから長年用意しなかった副会長を拝命。
ギルドの為なら何をしてもいいという、言葉を人質に取ると書いて言質(音声記録済み)を仰せつかり、まずは任意による銃器への転換訓練を早々に開始した。
練習場での試射に、全員が立ち会い銃の性能が周知されていたからか、全員が銃への転換訓練を熱望し、兼ねてからの訓練は募集者30名弱が大きな講義室に招かれることから始まった。
長机が並び、そこに募集した男冒険者達と、銃を使える事を目的に新たに入ってきた女冒険者などが椅子にが座り、前に立つ私に注目していた。
こうして思うと、まるで大学で講義をしている教授にでもなった気分だ。
「それではこれより皆さんに書類を配ります。配り終えたら書類内容について説明します」
ルーア達に目配せして、書類を配ってもらう。
配り終えたのを確認してから、書類内容を説明する。
「この書類は、新たにローヴェン組合・特別装備部に入会する意思があることを示す書類です。その意思がある場合は、一番下の欄に種族名、名前、年齢など必要事項を記入してください。文字が書けない方は遠慮無く、挙手してください。代わりにルーア達が、文字を書きます」
講義室の端で椅子に座るルーアとリーアが手を挙げた。
「この書類にサインをした方は、P00lees。言い方を変えると『入隊見込み』となります。これは特別装備部に入隊する意思がある人材という意味です。決して、サインをしたからといって『入隊した』ということになる訳ではありません。そのところを勘違いしないよう気を付けてください」
実際に、ホルスターからFN 5-7を取り出し、前に翳す。
一部からオオッ!と声がした。
「正式に特別装備部。言いやすくしてクロエ部に入隊するためには、この銃。名をFN 5-7と言いますが、これは使い方を間違えるととても危険です。下手をしたら自分自身を傷つけ、最悪死亡する可能性もあります。なのでその正しい使い方や、今まで皆さんが持つ意識を改革するための訓練などを、三ヶ月の入隊訓練を受けて貰います。この訓練を耐えきった方のみ入隊が許可されます。かなり厳しいものになるので書類にサインする場合は、しっかりと覚悟を決めて書いてください」
一瞬、長い話が終わったと数名が大きく頷き顔を落としたが、説明はまだ続く。
「書類にサインをした後は、別室で服と靴のサイズを測らせてください。訓練中に使用する衣服、靴を用意するので。また3週間ほど、入隊訓練用に部屋を用意したため、現在皆さんが寝起きしている自室から、こちらが指定する宿屋へ荷物を運びだしてください。期間中の宿食事代や必要経費は、こちらで支払うので心配なさらず。また訓練期間中は、一切の私物持ち込みは禁止となります。もし荷物が多すぎたり、大きすぎて運び出せない方は事前に私達へ報告してください。訓練が終わるまで荷物は、ローヴェン組合副会長の名において責任を持って預からせて頂きます。ここまでで質問ありませんか?」
「あの……」
近くローヴェン組合に移動してきた、フィーアという兎耳の獣人族少女が、弱い声で挙手をする。
「どうぞ」
私がそれを指し起立を促すと、席を立ち質問した。
「訓練期間中は一切の私物の持ち込みは禁止とのことですが、ハンカチや筆記用具類、それにその……下着なども持ち込みなども一切禁止なんですか?」
彼女は『下着』の箇所で腰をもじもじと揺らし、仄かに赤くなった顔で恥ずかしそうに言い淀んだ。
兎の万年発情期は、どうやら獣人にもあるらしい。他の冒険者のモノが暴発してあんなことやこんなこと(意味深)にならないよう、注意しておこう。
「はい、全部です。訓練中の衣服、靴の他にもハンカチ、筆記用具、下着、靴下からタオル、歯ブラシ、歯磨き粉、バッグ、クシ、ベルト、手袋、食事に至るまで、全てこちらで準備します。専用の売店で購入できるもの以外は、逆にこちらで準備した物以外は使えないと思ってください。他、支給品で女性に必要な物が足りない場合は、私ではなく彼女達に言って貰えれば準備します。例外として自身の生命・宗教に関わる物がある場合は、相談してください。他にありますか?」
「ああ、ある」
机に大剣を立て掛ける大男が、まるで丸太を繋げたような大きな手を挙げた。
先の酒飲み対決で負けた、ガロという男だった。
「何となく予想出来てしまいますがどうぞ……」
呆れたように彼を指し、彼は起立すると質問した。
「酒は──「ダメに決まってます。売店にも用意はしますが、一日二本を心掛けてください。毎日のように酒樽を飲まれては組合の負担なので、これからは酒の量を減らす努力をしてください」
大体予想ができたからか、酒と出ただけでキッパリと切り捨てさらに痛い部分を突きまくって返した。
そして涙を浮かべ渋々座るガロを横目に、話を続けた。
「はぁ……ガロさんの質問でやる気を無くしてしまいました。用紙の裏面でもいいですから、先の二つ以外に質問があれば書いてください。後に寝具辺りに置いておきます」
大きくため息をつき、素が出てしまう。それがいいと場の空気は幾分か和んだが、そういう訳にもいかない。
「仮入隊を希望する方は書類にサインをお願いします。文字が書けない方は、遠慮なく挙手してください」
その声に全員が下を向き、コンコン、コンコンと試験の時よく聞く、私語がなくただ鉛筆が机を叩くリズミカルな音が響く。
優秀なことに、代筆を求める人は居なく、私がルーアに代筆を依頼するたった一人の文字が書けない人になってしまった。
これらの文字を綴るように日記を書いているが、日本の文字はあちらには読めないためあちらの言語に明るくなる為にも勉強中である。
一時間もすることなく書類にサインが書かれ、朱肉を付け血のように赤い親指を用紙の欄押し付けると、正式にクロエ部のプーリーズとなった。
書類が完成したものから順に別室へと案内し被服の測定などを行う。
それが終わると被服、装備の受領までの空き時間。
規則を一つ一つ記したルールブックを配布し就寝部屋へと案内した。
それより後は、配られたルールブックをじっくり読み頭に叩き込むよう言っておいたが、初心者の冒険者はまだいいだろうが、熟練したものほど規則がなんだと無視するだろう。
明日にはじっくり教義のしがいがありそうだ。
別室で測ったデータを無線で教えて貰い、それを文書に移して保管する。
これを参考に、軍事訓練に必要な衣服・靴などのデータを入力してアプリの売買で銀貨などを、ポイントに交換し購入する。
他にも彼らに必要な細々とした品物を準備しなければならない。
さらに訓練期間中の村の守護もあるが、これは、ギルドへ直接依頼を発注することで何とかした。
そうこうしているうちに、翌日からクロエ・ブートキャンプは始まった。
「オラァ早く起きろタダ働きの無銭飲食共ォ!!」
ブートキャンプの朝は早い。太陽が眠気を振り払い地平線より起き出すよりも早い午前四時半。
第一期クロエ部入隊見込み新兵が眠る、金属パイプ製は時代に合わずあっても割高だったので、急遽代用した木製の二段ベッドが六つ並ぶ第一、第二就寝室に空砲弾を装填したM9を構えたルーアとリーアがドアを荒く開け罵詈雑言を吐き散らす。
怒声が響く室内。昨日の午後九時半には消灯し睡眠を済ませ充分な睡眠はとされたはずなのに、その場にいる12名のうち数名が起き、挙句の果てにはまだいびきをかくものまでいた。
そして、早起きな新兵は皆このためにわざわざ組合を変えてまでやってきた初心者冒険者が殆どで、それ以外はずっとローヴェン組合にいた冒険者ばかりだった。
耳元で鼓膜が破けないか心配な程怒声をはり、体を叩き、頬を叩いても起きない彼らの最終手段は、M9だ。
「起きているものは全員!耳を抑えろ!」
そう言って、彼女はM9の引き金を引いた。
乾いた破裂音が6畳より少し大きいぐらいの室内に響く。
耳栓を付けていてもうるさいのだから、睡眠で気が緩み、無防備な彼らは相当だろう。
銃声に飛び起き、やっと起きた彼らにルーアが怒声を浴びせ、昨日の夜受領させたACU/OCP迷彩服などの一色を来て体育館へ集合するように指示した。
入隊見込みの新兵が言われたことを直ぐにこなそうとロッカーの睨めっこを始める様子を尻目に、私は一足先に体育館へと足を向けた。
「第七話 クロエ・ブートキャンプの準備と夜明け」お手に取りお読みいただいた事、まず御礼申し上げます。
まぁ、どうだったでしょうか。
およそ1ヶ月チョイで村が出来ました(笑)
これからは、ここを拠点として話を展開していく予定です。
ヘタイロイ関門塹壕防衛戦より期間が残り半分に差し掛かり、話としての収束に急ピッチで進んでいます。
たまにヘタイロイ関門塹壕防衛戦を見て、どういう規模まで戦力膨れ上がるかご期待下さいませ。
それでは、次話
「第八話 題名未定」へ続きます……。