第一話 異世界に迷い込んでみた
「プロローグ ヘタイロイ関門塹壕防衛戦」に続き、物語のページをめくって頂いたこと、誠に感謝致します。
これからは3000字~4000字以内を目指して投稿をしていこうと思います。
1話1話のバランスを安定させ、読まれる際に違和感がないようにするような感じです。
さて、記念すべき第一話。お楽しみくださいませ。
夏も本番の強い日差しを避けるように森の中に作られた、大小様々な廃材で作られたバリケード、今や廃車となり年老いた気の傍に擱座する軍用ジープ、今や廃墟となった堅牢な砦やトーチカに、それらに張り巡らされた塹壕や高さ2~3m位の笹林などなど、全てを話すと明日になりそうなぐらい広大な敷地と障害物があった。
この後に始まるゲームの前にと、一人歩く私の視界には、ありとあらゆるものが映る。
まるで第二次世界大戦後に放棄された、軍事基地かなにかの様だと、歩き回ってると思う。
広大な敷地に作られたこのサバイバルゲーム施設は、その性質上本格的な戦闘が出来るとのことで有名な場所で、噂以上に豊富な障害物に私自身も圧倒されていた。
こんなに充実したフィールドは世界のどこを探しても……VRMMOの中しかない。
そう、ここはゲームの中なのだ。
移動することなく、手軽にサバイバルゲームが出来るとなったこのご時世、リアルの森林フィールドは、コアなサバゲープレイヤーしか使わないものとなっていた。
ランダムに出てきてもよく見かけるフィールドなのに、まさに現実離れした景色を、片手に持ったスマホに似た情報端末で気になったものを片っ端から撮影していき、それに没頭するあまりかフィールド内放送によって呼び出しされ進路方向を振り返り、来た道を急いで戻る。
「すみません、お待たせしましたー、つい撮影に没頭してしまい……」
今回私たちが引いたブルーチームの待機所のまで戻ってくると、散歩からの帰りを待ちくたびれていたチーム「ウルフパック」の仲間の元へ走っていく。
呼び出しから十数分、別に道に迷いはしませんでしたが、それだけ広大なフィールドを走るのはいい運動になる。
VRMMOだから実際の自分にはなんにもなってないが気にしない……。
「ハハッ、黒恵ちゃんらしい。後で写真を選定してギガ数を節約しとけな~」
私たちのチームリーダーで、中、近距離戦闘を主眼に置いたM16のスナイパーカスタムを装備する、スポッター兼部隊の司令塔である彼が、そう笑いながら言った。
「早く装備を整えて、もうすぐ始まるから」
同じくM16を持つ仲間に急かされ、急いで右手を振り下げる動作をして専用のスクロールを出し、そのボタンを押すと全身が刹那の光に包まれ、M24 SWSを装備したチーム一の射撃技術を持つ狙撃手へと変貌する。
だが、それは俗にモリゾーと呼ばれるギリースーツによってもはやUMAか何かになっていた。
「出来た」
ギリースーツの合間から顔を出し、準備が完了すると、時を見計らったように「ゲーム開始まで 残り00:30」と戦場前のゲート上に大きく表示され、私達は全員にアイコンタクトをして気合を入れた。
残り、3…2…1…0……作戦開始。
その表示がなされた直後、チームは静かに走り出した。
M16装備の4名とM27 IAR装備の二名が先行し分散。
スポッターのリーダーにスナイパーの私が事前に見つけたポイントに近づくと分散し、所定の位置に着くと即座にM24 SMSのバイポッドを展開して狙撃の態勢につく。
スポッターとして双眼鏡で周辺の敵を索敵するリーダーは、M16が二名M27 歩兵用自動小銃がチームの2チームに別れたメンバー達の進路を指示する。
元だったか現だったか忘れたけど、自衛隊出身なのでそこら辺のペーペーとは違い的確かつ明瞭な指揮をする。
「──黒恵、敵ARが6時の方向に二名、距離は700。やれるか?」
私達がポイントにした二階建ての廃墟より見える、同じような構造の建物より少し手前。
少し雑草の生えた塹壕の合間にプラスチック製のヘルメットが揺れ動くのを見た。
「見えた、狙撃する」
既に初弾を装填したM24のセーフティを外し、もう何千、何万発と撃ってきた経験則を元に照準を定め、引き金を引く。
サイレンサーによって抑制された銃声。スコープ越しに頭を撃たれた兵士が力もなく倒れポリゴン片となって死亡判定を遺した。
「ナイスショット」
リーダーの淡白な声を聴きながら、次弾を装填するためにコッキングレバーの操作を行い、薬室から空の薬莢が吐き出された。
ボルトアクション方式はこの装填時の一連の操作を如何に迅速に行うかで複数いる敵を確実に撃破できるかが左右される。
装填が完了し再度スコープを除くと、仲間の突然の死に狼狽える敵ARプレイヤーがそこにいた。
恐怖からか小刻みに震える手を見るに初心者なのだろうか、手軽とできるとあって10数歳とかいうバカな餓鬼が戦場にいたりするから面倒だ。
早めにヘッドショットを与えると、次弾を装填して待機。
銃を下ろして遠くを見据える目は、少年兵がいるべき戦場では無いという怒りと、完全に入ったスイッチのお陰で冷えきっていて、今にも凍りそうだった。
─────
開始から早くも一時間が経ち、チーム「ウルフパック」は他チームと連携して赤チーム拠点を包囲。
今まさに敵拠点へ侵入し、内部で苛烈な戦闘を繰り広げていた。
「やることないですねぇ……」
何ヶ所か場所を変えて、中央付近のトーチカ上でうつ伏せになって待機している私は、あとは敵拠点を制圧するだけで半ば勝ち確で出番もないので観戦するしかないこの状況を端的かつつまらなそうな声で隣のリーダーに話す。
「もうすぐ終わるだろう、チーム一のキルを稼いだお前さんは、祝辞の言葉でも考えといた方がいいんじゃないか?」
視界に映る、チームメンバーのHP等の諸情報の他に、キル数をカウントするものがある。
私は22、近いので18。
瞼を閉じて開ける間にもHPが少しずつ削れてる、劣勢なのだろうか。
「えぇ……そういうの苦手」
そう戦況を少し予測しつつ、仰向けになり、現実とそう変わりないように思える森の風景をゴロゴロしながら見るだけ。
数分後、直ぐに決まらない屋内戦を窓越しに援護射撃を行っていた私は異変に気付き、耳を澄ます。
土を踏み、草木を揺らすその音は、確実に聞こえた。
「敵、近くにいる」
素早くうつ伏せの状態になり、音がした方向へと銃身を向けてスコープを覗く。
笹林の奥に揺れる人影、よくは見えないが筒状の何かを肩に持って……発射した。
「RPG!!」
近くにいたリーダーを蹴り飛ばし、私は発射した主を乱雑な照準で射抜き、素早い装填で間近に迫る携帯対戦車擲弾発射器から発射された弾頭を狙撃する。
信管は確実に射抜いたが、尚も右に二回ほど横回転しそれでも直撃しそうだったのを避けると、目標に当たることのなかったロケットは地面に刺さり、爆発することは無かった。
「生き残りの最後の足掻き、失敗に終わったみたいですね」
足を撃たれ、引きずりながら笹林を移動する先の射手を捉え、また狙撃してやった。
だが、いくら脅威の高いRPG-7を狙撃できたとはいえ、隣で金属音を上げる濃い緑色をした球体を、彼女は避けることが出来なかった。
直後にそれは一瞬の閃光を輝かせて爆発し、リーダーがせめてもの報いと、手榴弾を投擲した主を蜂の巣にする銃声を耳に聴きながら、私は爆風によって近くの木へと吹っ飛ばされた。
RPG-7の不意を突いた手榴弾をくらい、数メートル飛ばされた私は、HP1というミリ残りで難を逃れていた。
スティック状の回復キットを同時に三つ使って全快復すると、同じく飛ばされていたM24を回収し、ストレージにしまうと代わりにP-90を取り出した。
「リーダー、生きてる?」
手榴弾の威力で機器がやられたのか、画面にチームメンバーのHP等の諸情報が表示されず、無線も雑音を吐くだけで送信受信共に不可能のようだった。
「おーい!リーダー!」
せめて、大声で叫べば分かるだろうと思ったが、それは森の中に虚しく響くだけで、思えば、人の気配すら感じられない。
「どこ、ここ……?」
トーチカがあった場所に戻り、少なくとも近くにいるであろうリーダーの元へ行こうと歩いてまもなく、その先は平原と森林の境界線があるだけだった。
運良くストレージにしまっていたので無事だったスマホ端末を取り出し、連絡を取ろうと試みるも電波が届かず、何だかんだ試行錯誤した末失敗に終わった。
「一体どうなってるんだろう、システムエラー?」
一応、この世界はゲームの世界だとは思うけども、それにしては草原に薫る爽やかな匂い。太陽の暖かい光。頬を撫でる風。
全てにおいて現実のそれに感じられた。
そもそも、VRMMOにそれらの感覚はまだ実装されてないはず。
シュミレーションで再現した感覚を擬似的に体験してるだけであって、直で感じるなんてことは無い。
頬を軽く叩くと、微弱な痛みと指先の感覚が残る。
触覚はあるが、痛覚というのはVRMMOに数年来て以来初めてだ。
ということは、これはもはやゲームの世界では無い可能性も無きにしも非ず……。
原因は不明だが、私はVROOMとは違う何かに迷い込んだらしい。
ストレージから黒くて丸いものを取り出し、スマホを片手にそれを空高く投げた。
黒い球体のものは、スイッチピッチのように形を変え、一瞬にして小型ドローンに変化した。
その他にも自分の顔とそう変わらない大きさをしたソロ用の多目的ドローンを電源コードに繋げて展開し、周囲の警戒を行ってもらう間に小型ドローンで周辺地理を見る。
私がいる森林と草原の境界線の周りは、私から見て北北東の方向に川があり、北の川の先に街のような防壁で守られた人口密集地があり、その周りは畑や整備されていない草が禿げた道がある。
南の方向に丘があり、西の方向は森林が続いていただけだった。
さっきまで展開していたマップを出すと、作戦地域範囲外と赤く表示された不可侵領域の外に私はいて、共有されるはずの味方や敵のマッピングデータはなかった。
どれだけRPG-7を撃っても、プラズマ爆弾をありったけ設置して爆破し、その爆風に呑まれ死んでも突破できなかった通称《不可侵の壁》をいとも容易く突破してしまった。
一度キャンプに戻って考えようと戻ろうとしたが、それは可視光では見えない硬い壁によって遮られた。
「……は?」
それは"外側の"不可侵の壁だった。
つまり、一人外に隔別されたようなものだろう。
ゲーム内ではあるが、ゲーム内ではない空間に迷い込んだ。といった方が正しいか。
帰還する方法は、不可侵の壁を抜ける方法を見つけるのと同じ。
どうやって抜けたかも不明なのに、その逆をしろと言うのは無理難題であった。
試しに、P-90の銃口を不可侵の壁に向け発射。
キィン……と金属音を響かせ、真っ平らになった弾丸の弾頭が草の中に落ちる。
「無理かぁ……」
帰還することが出来ない=現実世界に戻ることも出来ないということに、深く肩を落とし落胆した。
「はぁぁぁぁぁあ……とりあえずは、情報収集って所ですかね」
絶望的な状況を知って落胆していたがそうしていても時間が過ぎるだけだろう。
開き直って今後の方針を決めると、小型ドローンを回収し、P-90を手に持ったまま、比較的近く街に向かっている川に沿ってまずは歩き始めた。
第一話 異世界に迷い込んでみた
お手に取りお読みいただいた事、まず御礼申し上げます。
ベルリンの壁w 書いてて個人名称として出さしていただきました。
M16、M24SWS、M27IAR、RPG-7、FN 5-7。色々出ましたねぇ兵器がw
上に出てきた半分の兵器はこれ以降の話でもよく目にします。
M16?FN 5-7?なにか分からない?Wi〇i先生に、聞いてみましょう(白目)
それでは、次話
「第二話 街へ行ってみよう」へ続きます……。