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「えっ皐月さん昨日王子とご飯食べたんですか…?!」
昨日有給でお休みしてた同じ部署の後輩の恵子ちゃんは、とても驚いた顔で箸を止めた。
「王子…?片山さんは王子にまでなってるんだ…それは視線が痛いはずよね…」
「今時?って思いますよね。わたしも最初そう思いましたもん。でも見て納得!っていうか、だから今日社食嫌がったんですね」
会社近くの穴場のお蕎麦屋さんに来た私達は、昨日の社員食堂であったことを話していた。
「でもお財布忘れて帰ろうとしたら王子から声をかけられるって…皐月さん王子と知り合いだったんですか?」
「彼とは同期で、小中の同級生だったの。そのよしみで良くしてくれて…昔から良い人だったよ」
暖かいお蕎麦をすすりながら、昔を思い出す。
誰からも好かれてた彼は今も昔もかわらないらしい。
「しかも送ってもらったんですよね?もしかして王子、皐月さんのこと好きなんですかね??」
突然考え付かないことを言われてむせ込んでしまった。
大丈夫ですか先輩?!?!と彼女にティッシュを渡された。
「そんなことあり得ないよ。彼とは本当に同級生ってだけだったし、親しいわけじゃないし…わたしのことよく覚えていたなってくらいだもの」
本当に、わたしの事を覚えていて驚いたのだ。
彼は有名だったけど、わたしはその他大勢の1人だったから。
「まぁそんなこと言われても先輩新婚ホヤホヤですもんね!眼中にないですね!今日でしたっけ?結婚記念日!」
そう。
今日はわたしの初めての結婚記念日。
でも。
「まだ1年目ですもんね!やっぱり、ホテルのレストランとかですか?!?!」
まだ若い彼女のキラキラした理想に、少し羨ましさを感じた。
なんだかおかしくて、そんな豪勢なものじゃないと笑った。
今日のお昼前にメールが一件。
『今日は帰らない。』
たった一文。
期待などしていなかったけど、やはり淋しいものがある。
わたしは退社後、会社近くのカフェで片山さんを待つことにした。
今日はどうやら外回りだったみたいで、一日中会えなかったのだ。
就業時間になっても姿が見えなかったので、会社の入り口が見えるこのカフェで時間を潰しているのだ。
なんだかストーカーみたいで気分は悪いが、金銭の貸し借りはなるべく早く無くしたい。
それにしても彼は物凄く仕事熱心なようだ。
今日はメールをもらってから余計に仕事をして残業したにもかかわらず、彼はまだ帰社していなかったのだ。
「すごいなぁ…」
外は風が強く、気温も低い。
暖かいココアを手にわたしの口角は緩んでいた。