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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
テオと天才篇
95/202

第95話 隙間だらけの自信

 自信を持ったフィンセントは、少しばかり明るくなった。

 交流している画家たちと積極的に合い親交を深めた。知識や技量もさらに上がった。

 そして自信からなのか、議論を友人たちにぶつけたりもした。


 それを友人のポール・シニャックは暖かく受け止めた。それはフィンセントの奇才から産まれるものだ。決して慢心や驕りから産まれるものじゃない。それをポール・シニャックは知っているから。

 彼らの仲はますます深まった。


 しかしゴーギャン。歴史的もう一人の天才はことあるごとにフィンセントとぶつかった。気に入らない。たしかにフィンセントの絵はいいものだが自分とは系統が違う。

 それに三枚程度売れただけで天才ぶらないで欲しいという気持ちもあったのかもしれない。


 しかし、パリの中でも力ある画家だとフィンセント自身は考えた。前から考えていたことを実行する。パリの騒がしさから離れて、田舎で絵を描きたい。画家仲間たちで共同で家を借りれば家賃も安く住むし、互いに助け合い議論を深め合える。


「テオ。私はパリを離れてアルルへと移るつもりだ」

「え? そんな。兄さん」


「もう決めたんだ。みんなに招待状も送ってある」

「それで、みんなはどういっているだい?」


「ああ、いい返事ができると思うと来ているよ」


 それは確証がない。みんなこの芸術の都パリから離れて田舎に行くなんてするだろうか?

 フィンセントは自信に満ち溢れているが、そんな他人に期待して良いものだろうか? 今の今までは全くの逆だ。なぜ安易に人を信用するのか? 急になんでも思い通りになると思い込んでいる。

 それは危険だ。いつ崩れるか分からない砂の塔に登っているようだ。


「ともかく、急がないと仲間の方が先についてしまうかもしれない。私はもう行くよ」

「兄さん、ちょっと!」


 フィンセントは一番の理解者であるテオの引き止めも聞かずに単身、南フランスにあるアルルへと移動してしまった。

 フィンセントの不幸はこうした第三者の目で見るテオの意見をすんなり聞くことが出来なかったからかもしれない。


 なにをそんなにあせっているのか?

 フィンセントはアルルにつくと、カフェの二階を間借りし当面の拠点とした。

 家賃の安い場所を借りれるまでだ。


 しかしこのアルルは田舎にありがちな余所者には冷たかった。

 間借りした場所も、家賃は少しばかり高かったのだ。フィンセントはテオから貰った絵が売れた金を持っていたので当面は困らなかったが半年。徐々に資金が尽きかけて来た。


 そして──。

 誰も来ない。


 フィンセントからの手紙でその現状を知ったテオは、兄の仲間である画家たちを尋ねた。

 しかし、どの友人たちも実はパリから離れたくない。フィンセントにはうまく断っておいてくれとの回答だった。


 テオは愕然とした。

 まずい。兄は誰かの助けになりたいのだ。

 誰かに必要とされたいのだ。

 気持ちが盛り上がっているところにそんな回答をすればまた癇癪を起こしてしまう。

 生きる自信をなくしてしまうかもしれない。


 テオは、一番信頼の出来る、ポール・シニャックのところへと向かった。

 ポールはその時、大作を書いている最中だった。


「ああ、フィンセントの手紙ね。たしかに受け取っているよ。返事もした。だけど今はこの通り作成中だ。動けないんだ。それにパリが好きだし。迷っていると言えば迷ってる」

「そんな。ポール。兄は期待しているんだ。君が来てくれることを」


「もちろん行く気はあるよ。少しだけ考えさせてくれぇ」


 これは──。

 ポール・シニャックは明るく協調性がある。しかしきまぐれで余り気にしない性格だ。フィンセントとは正反対。だからこそうまくいく。テオはなんとかポールにアルルに行って欲しかった。

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