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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
少年とUFO篇
84/202

第84話 英雄の凱旋

 バスターマンが地上へと向かう途中、街に電気が点き始め、地上が明るくなりだす。だが損害は大きい。日本は大変なことになってしまった。そこら中瓦礫の山だ。亡くなった方も大勢いるだろう。家や資産を失った人もいるだろう。

 この悲惨な状況にバスターマンの胸が苦しくなった。


 しかしバスターマンを迎えたのは歓声。ヒーローを呼ぶ声だった。


 バスターマンが照れながらそこに降り立つと、テレビクルーが走って来てインタビューをはじめた。その周りではスマーフォンで彼を撮る人だかり。

 バスターマンはこれを求めていた。人々の称賛、祝福、喝采。しかし初めてのことなのでこの上なく緊張した。


「我らがヒーローが今降り立ちました! ヒーロー! 宇宙船を追い払ったのですよね? あの~。お名前は?」

「えっと……バスターマン?」


 長井英太は今まで何度もシミュレーションしていたのを忘れて、初めてのインタビューにガチガチだった。

 観客の中にいた、顔がすすだらけの可愛らしいOLさんが噴き出したのでますます緊張した。


「バスターマンはどこから来たのですか? 宇宙人なんですか?」

「いえ……日本国籍を持つ日本人です」


 こんな状況だというのに笑顔だらけのギャラリー。危機を救ったヒーロー、バスターマンに尊敬の眼差しが降り注ぐ。


「いや~。鈴生少年のUFO呼び出しからどうなるかと思いましたが、バスターマンのお陰で救われました! ありがとうございます!」

「あの……」


「はい! 何でしょうバスタードマン!」


 洋一郎少年はたしかにこの甚大な被害を招いた。

 しかしバスタードマンにしたら自分の恩人に違いない。洋一郎少年は自分の命をとして復活させてくれたのだ。


「その鈴生少年は自分の行為に責任を感じて、命と引き換えに私を呼び出したのです。私に力を与えてくれたのです。私だけの手柄じゃない。どうかみんなの心の中に刻んで下さい。みんな彼を忘れないでいてあげて──」


 少し浮き上がっていたバスタードマンは寂しそうに地上に降り、その場から離れた。


 宇宙船を呼んだ洋一郎少年を担ぎ上げた世の中も寂しい。洋一郎少年がしたことは褒められることではない。だが、自分だけ褒められるのは何か違うような気がしたのだ。

 そんなバスタードマンを追いかけるものがいたが、物陰に隠れてそっと変身を解いたので誰も長井英太をバスタードマンだと思わなかった。


「さて……貰った命をどうしよう。家に帰っても良いのかな? それよりアパートは無事なのかな」


 すると、長井英太のブレスレットのガイドボタンが点滅しているので、そこを押すと光りから、鈴村きゃんの映像が投影される。


「ば、ばか。こんなところで」

『大丈夫。誰も気付かないよ。“黒い箱”はもうどこかに行ってしまったよ。だから黒い箱はもう関係ない。もしも変身するなら私がナビゲートするから安心してね』


「帰ってもいいのか?」

『もちろん。あれから3ヶ月経ってるけどお部屋は大丈夫かな?』


「分からん」

『家賃滞納でお部屋がなかったらホームレスだね』


「そうかもな」

『世界を救ったヒーローなのに悲惨』


「ま、明日があるさ」

『そうね~。バスターマンの楽観的な考え好きよ』


「そうか。オレもキミが好きだよ」

『まぁ私はイメージだけどね。もしもオリジナルに会えたら同じこと言ってみたら?』


「そうさせてもらうよ」

『好きよ。バスターマン』


 映像の鈴村きゃんの言うことは黒い箱の気持ちなのだろうか? それともオリジナルの鈴村きゃんの言葉なのだろうか?

 分からない──。

 彼は元のアパートへ向けて徒歩で帰って行った。





 世界の被害は甚大であった。

 中でも日本は凄まじく、大都市が焼けてしまった。だが真面目な民族気質なのだろうか。少しずつ少しずつ復興、復活してゆく。

 そんな日本を世界中が賞賛した。



 危機から救ったヒーロー。

 彼の映像はSNSで世界中に拡散され、バスターマンは有名人となった。休日は被害の大きな都市に現れて、もちまえのパワーで瓦礫を運ぶ姿が動画で撮影された。



 世界を救ったヒーロー。バスターマン。だが変身する前の彼は冴えない男だ。

 戻ったアパートに何とか部屋はあったが、今までの家賃は払わなくてはいけない。工事現場の警備の仕事が今の彼の仕事だ。時給1500円の派遣社員。

 頑張れ。バスターマン!

時間がさかのぼる。黒い箱はそこにもあった。

弟は兄のために芸術の都パリへと来て貰うよう願った。


次回「テオと天才篇」


ご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは。 バスタードマン…! メモリー大事ですよね、メモリー。 でもせっかく蘇って今度こそ本物のヒーローになれたのに、相変わらず時給は1500円。 普通のパートやアルバイトと比べた…
[良い点] バスタードマン! 1回消えて、ちょっと大人になりましたね……! 少年のことにきちんと言及するなんて……(涙) 頑張れバスタードマン!
[良い点] なんとも垢抜けない、でもちょっとほっこりする、いい感じですバスタードマン。地道にがんばれバスタードマン! 次回も楽しみです。どんな話なのか今からワクワクです。
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