第83話 ヒーローVS宇宙船
バスターマンこと長井英太は何が起っているのか分からない。辺りは真っ暗だ。だが遠方の山が赤く燃えている。
自分が記憶している場所とは違う。時間帯も違う。辺りは真っ暗なのだ。
「な、なんだこりゃ。どうなってる?」
バスターマンは状況がつかめないでいると、腕にあるブレスレットのガイドボタンが激しく点滅している。バスターマンがそこを押すと、光りが照射され、空中にガイドの鈴村きゃんの映像が浮かぶ。
『はーい。今日も元気にワンワンワン。あなたのハートに首輪をつけちゃう! コントロールセンターの鈴村きゃんです!』
「あ、あんたか。でもオレは一体? あの時、たしかに消滅してしまったはず……」
『それは“黒い箱”のメモリーから復活させられたからだよ! 鈴生洋一郎という少年の願いでの復活。それは地球を救うっていう願い。よろしくおねがいしまーす!』
「子供の願いで? 地球を救うだって?」
『そうよ。上空にある宇宙船が地球を滅ぼそうとしているの。でも地球にはバスタードマンがいるから大丈夫だよね。“黒い箱”の力によって前よりさらにパワーアップしているよ。さぁ頑張って!』
「え? 上空? うそだろ! なんだアレ!」
『あれがバスターマンの敵だよ! さぁ戦うんだ! バスターマン!』
「言われなくたって!」
バスターマンは飛び上がる。そのスピードは前の数倍。黒い箱のサービスによってパワーアップしたというのは本当らしい。だが感覚が掴めずに、空中でつまずいたようになり数回転してしまった。
『なにをやっているのバスターマン! 今光っている場所が砲台だよ! あそこから砲撃されたら何十万人も死ぬんだよ!』
「お、おう。とりあえず砲台だな!」
ちょうど宇宙船はエネルギー充填したのか一点が大きく輝いた。
その攻撃目標は成田きゃんのいる地方。だが、そこにバスターマンが拳を固めて突き進むと、砲身を貫通してしまった。砲台は爆発炎上し、宇宙船が大きく傾く。
「す、すごいパワーだ!」
バスターマンは宇宙船に組み付いて拳を振るうと、発泡スチロールを叩いているかのような感触で破壊されていく。宇宙船はまるで慌てるかのようにスピードを出して上空へ飛び上がった。
だがバスターマンは追撃する。宇宙船のスピードに追いついて、また別の砲台を突き壊す。
そこが爆発炎上し、宇宙船のスピードはダウンした。しかし、余りにも高く追撃し過ぎたためか、バスターマンはジェット気流に煽られ、吹き飛ばされそうだ。
飛ばされないように宇宙船に組み付いて、穴を空ける。そこから内部に入り込もうという算段だ。
「よし今から宇宙船に入り込むぞ」
『くれぐれも注意してねバスターマン』
「しかし、オレを復活させた少年って? どうなってしまったんだ?」
『それはね、目立ちたいがためにこの宇宙人を呼んだ少年だよ。でも自分の命と引き換えに、ヒーローを呼び出したの』
「それは……つまり」
『そう。バスターマンの復活だよ』
きゃんのイメージが楽しそうに解説する。だがバスターマンはその少年に自分と同じようなものを感じた。目立ちたいがために人とは違う力。その思いが少年を滅ぼしてしまったことを残念に思った。
その時、宇宙船から光りが照射され、空中に映像が映る。
そこには身分の高そうな人物が映っていた。地球人と同じようだがバランスが少し違う。色もグレーで気味の悪い姿だ。それがバスタードマンに日本語で話しかける。
『畏れ入った。この星のものよ。絶滅させて我々の星にしようと思ったが一人でここまで戦えるものがいるとはなんと恐ろしいことだ。侵略は止めにしよう。我々もこれ以上は攻撃しない。キミもこれ以上は止めてくれ』
「なにを? 勝手なことを言うな!」
『そこを開けるのか? そこは非戦闘民の居住区だ。そこを開ければ我が同胞が何万も死ぬ。何万もだぞ?』
バスターマンは振り上げた拳を止めた。これは敵。地球侵略をしようとした敵。しかしバスターマンの力なく握った拳を開いた。
この映像の主はラドキォー星人の指導者だろうか。彼の指図によって辺りに飛び散っていた戦闘機も、元の場所に付着し、宇宙船は前と同じ形に復元された。だがバスタードマンに攻撃された場所は赤く燃えている。
「引き分けにしないか。我々も攻撃したが、こちらの被害もかなり大きい。また宇宙を旅することにするよ。さらばだ。もうこの星に来ることはないだろう。──キミがいる限りは」
そういうと映像が止まり、もの凄いスピードで宇宙へと飛んでいってしまった。バスターマンはそのまま空中に留まり、それが空に消えるのを見ていた。
そしてバスターマンの中に燃え上がる興奮。これぞヒーローだという気持ち。
思わずそこでガッツポーズ。バスターマンは地上へ向かって飛ぶ。ヒーローの凱旋だ。