第78話 見栄
テレビ出演の話を胸に抱いて、次の日学校。
洋一郎少年は、登校中の剛内の背中を探した。
いつもの時間帯。きっといるだろう。彼女を見つけてテレビ出演の話をする。そうすれば彼女は自分にさらに関心を持ってくれるだろう。興味を持ってくれるだろう。
そしたらしめたものだ。洋一郎少年の胸の中に甘酸っぱい青春が想像できた。
ニヤけた顔で彼女を見つけた。だがその隣には同級生の柏原という男子が並んでいる。
若干のイラつき。自分のものなのにという独占欲がそうさせる。もちろん彼女は誰のものでもないのに。
柏原はいわゆる陽キャ、一軍というやつだ。サッカー部でスポーツマン。明るい話題ができ人を惹きつける。
UFOを呼べる洋一郎少年は真逆だ。陰キャでプライドが高く、笑われるのを嫌い、思い切った行動が出来ない。イジられるのもイヤ。話をしても自分を大きく見せる言動ばかり。嫌われるほうに傾いている。
そんな洋一郎少年は、しばらくその後ろをじとっとした目で見ながら歩いていたが、楽しそうな二人。
中学生らしい学校の話。部活の話。スマートフォンで見た動画の話。洋一郎少年にとってはどちらもできない話だ。
柏原のする話は同級生の女性には魅力的な話だろう。それにもイラつく。
だが自分には未知なる力がある。誰もマネできない力。
洋一郎少年はそんな自分を差し置いて楽しそうな二人にムッとして剛内を挟む形で割り込んでいった。
「やぁおはよう剛内さん」
「あ、おはよう。鈴生くん」
「お、おうなんだ鈴生じゃねーか」
割り込まれた二人は多少驚いていたが、洋一郎少年は柏原など気にせず剛内に話しかける。
「またテレビ出演が決まったんだ。ゲストにはスクランブルの大郷もでるらしいよ。その番組で大人と論戦するんだ。見てくれよ」
「うそ〜! マジ? 絶対見る!」
「マジか。すげーな鈴生」
「期待しててよね」
彼は柏原のことは完全に無視して格好よく立ち去った。
だが、剛内の期待はスクランブルの大郷であろう。柏原は洋一郎少年の背中を見つめながら言う。
「ありゃ〜剛内に気があるな」
「そう?」
「そりゃそうだろう。あんな鼻息荒く興奮してりゃさ。オレなんてシカトされてたんだぞ? あーいうの好きかよ?」
「うーん。いや〜。ないかな~」
「だろうな」
柏原にも剛内にも悪気などない。中学生らしい残酷さというものかもしれない。
そして彼らはすぐに洋一郎少年のテレビの話など忘れ、別な興味の話をし始めた。彼らにとってはUFOの話など優先順位が低い話なのだ。
受験、部活、友人、青春。そんな中にUFOなど入れる隙間は少ししかないのだ。
剛内の正直な気持ちなど知るはずもない。
だが、洋一郎少年は意気揚々と論戦の勝利を妄想していた。
自宅に戻り、黒い箱に相談する。
知識人に勝つためのそれを上回る知識。
黒い箱はそれに関して、特段代償をとることなく、シミュレーションに付き合った。
洋一郎少年の中に自信だけが大きく膨らむ。
まだ見ぬ知識人の怖さを洋一郎少年は気付いていなかったのだ。