第76話 得た力
彼が自室に帰り、机の引き出しを開ける。手を差し入れ、そこから取り出したもの。
それは──黒い箱であった。
黒い箱……。それは願いを叶える箱。だが、願いを叶える代償に、肉体の一部を差し出さなくてはならない──。
少年は黒い箱を見つけてしまった。逆に魅入られてしまったのかも知れない。
──これはよい客だと。
新しい黒い箱の持ち主は鈴生洋一郎。十四歳の中学生であった。
『願い事を言って下さい』
「やぁ。またUFOを呼び出して欲しい」
『代償は?』
「体毛20本。……でどうだ」
だが、トゥンという警告音が鳴る。洋一郎少年はその音に肩をふるわせて少しばかりビクつく。
『75%しかできません。代償を追加しますか?』
まただ。最初は体毛1本だった。
それがどんどんと増えて今では20本。それですら足りなくなっている。
「じゃぁ、27本……くらいか。それでどうだ」
『叶えられました。時刻を指定出来ます』
そう。彼は黒い箱でUFOを呼んでいたのだ。なぜそのようなことをするのか?
彼は称賛を浴びたかったのだ。脚光を浴びたかったのだ。他人には出来ない目に見えない力。それでチヤホヤされたい。
それはどんなにスポーツが出来ても、勉強が出来ても追いつけない。
言わば超能力というものだ。
中二病──。と言われればそうであろう。人を超越した力を欲しがる。目に見えない力。
それは優越感を生む。
人より出来るという気持ち。今までの自分のままで。彼は自分の中に眠る、頭脳やスポーツのそれを求めずに、簡単な方法を選んでしまった。黒い箱に願うという簡単な方法──。
大人であれば、我慢や踏ん張りが利く。しかしそれでも限界がくる。それが興味が多い少年少女であればなおさら。
それが彼にどんな未来を与えるのかは気づいていなかったのだ。
最初はエスパーになりたいという漠然とした願い事だった。
念じれば様々な場所に移動でき、ものを空中に浮かせて運ぶことが出来る。また、人の心の中を読むことが出来るそういう力。
だが、黒い箱からの回答は『叶えられません』というものだった。洋一郎少年の体を全て失っても叶えられない。洋一郎少年は唸ったものだ。
次に幽霊を見る力も思いついた。
だがそれは自分自身が怖い。もしも見えてもなんだというのだということで、それは望まなかった。
そしてUFOを呼ぶというのを思いついた。
別の惑星に住まう宇宙人を呼び出す。
それならば他人の目にも明確に現れるし、尊敬も多く集められることを知った。
地球人では到底及びつかない科学力を持つ知的生命体と交信が出来る。それは、人々から脚光を浴びる存在となって行ったのだ。
洋一郎少年の体に赤い光りが伸びる。
それは一瞬だけ。それから空に白い光が伸びる。その後、洋一郎少年は奇跡を起こせるようになるのだ。
奇跡。つまり、果てしない距離にいる知的生命体を喚び出す力。
だがそれは永遠なる力ではない。ただの回数券。一度呼んだら、また願い直す必要がある。その度に黒い箱にむしられてゆく体の一部。
今は体毛だけだ。しかし、しかし──。
洋一郎少年は破滅の階段を一歩一歩と登ってゆくのだった。