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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
女とアイドル篇
72/202

第72話 救急搬送

 茜音は深夜に目を覚ました。

 横を見ると裕はよく寝ていた。茜音はそっとベッドから起き出し、痛い体を引きずりながらサイフをとって部屋を出た。


 裕は許してくれないが、こうでもして食材を買ってこないと二人とも死んでしまう。


 寝巻き姿。梳いてもいないバラバラの髪。幾分腫れもひいたが痛々しいあざだらけの顔。

 どこから見ても、今までの茜音ではなかった。


 茜音は近くのコンビニに入ろうとしたら後ろから呼び止められた。


「あ」


 振り返って小さく声を上げる。そこにいたのは大谷だった。大谷は茜音の顔を見て驚いて駆け寄った。


「バカ! やっぱりDVじゃないか!」

「ち、ちがうの……。私が……悪いの……」


「なにが悪いもんか!」


 そう言って大谷は茜音の腕を掴んだ。


「痛!」


 軽く掴んだだけ。それなのに、茜音は苦痛に眉をしかめ表情を大きく歪めた。大谷はまさかと思い腕をまくるとそこには痛ましい青あざと大きな腫れ。

 大谷は悲しくなった。茜音のことが入社して以来好きだった。だが茜音に彼氏が出来たので男らしく身を引こうと思っていたところだった。だが、彼氏はDV。好きな茜音をこんな目にあわせる彼氏を憎く感じたのだ。


「放してよ……」

「いやダメだ。一緒に来い」


「いやだ。帰らないとダメなの。食べ物を持って帰らないと……」

「いいから来い」


 大谷は嫌がる茜音を引きずるように近くにある自分のアパートに連れて行った。茜音にDV特有の彼氏への服従と依存性を感じたのだ。

 改めて灯りの下で顔を見るとそこには通常の肌は全くなく、赤や青、黒に染まりところどころがぶっくりと腫れ、未だに生々しい傷跡があった。


 唇も切り傷だらけで前歯はほとんど折れてしまっている。こんなに殴られてしまうなんて。会社ではやる気になって働いていたのに、その実、彼となった男は暴力を振るうヒモ野郎なんだろうと思った。

 大谷は茜音を傷ましく思い優しく抱いた。


「あ、あの……もう、帰らないと……」

「……ダメだよ。今帰るなんて無茶だ。むちゃくちゃだ。ちょっと詳しくキズを見せてみろよ」


 大谷がそういいながら、上着をまくり上げた。

 茜音は振りほどいて服を下ろそうとしたが、すでにその元気も力もなくただなされるがまま。

 大谷に下心はない。純粋にキズをみたいだけだ。そして想像通り。そこには何度も殴られたアザ。髪を見ると血で粘り着いている。頭部にも傷があるのだろう。


 こうしてはいられなかった。放置なんてしておけない。大谷はスマホを取り出し、すぐさま救急車を呼んだ。

 茜音は余計なことをしないで欲しいと懇願したが、このままでは茜音は死んでしまうかもしれない。


 やってきた救急隊員は驚いた。

 なんという痛ましい傷跡。このように残虐な殴打されたものなど聞いたことがない。ある程度手加減がされるものだ。だが、この殴打にはその形跡がない。猛獣に襲われたようだ。

 罪悪感などまるで感じられなかったのだ。


 茜音は救急病院ですぐさま治療室に入れられ、処置を施された。

 付き添いの大谷が部屋に入ると医師は大きくため息をついた。


「脳挫傷に頭部14針。顔中骨折だらけです。肋骨も3本折れていました。応急処置はしましたが、これからは病院を移して手術しなくてはいけません。しかしよく歩けましたね。一体どこでこんな傷を?」

「ええ。彼女の彼氏らしいのですが、DVらしいのです」


「DV?」

「ええ」


「警察には?」

「まだ通報してないんです。彼女をここに搬送するのが精一杯で」


「こちらはちゃんと本人から聞いたわけじゃないのでねぇ」


 医師はおそらく、通報は大谷にして欲しいということを暗に示したのだろう。大谷もそのつもりだった。

 大谷が立って通路に出ようとすると看護師が駆け込んで来た。


「すいません! お連れ様が部屋からいなくなってしまいました!」

「なんだって!?」


 大谷が看護師を伴って病室に向かうとそこはもぬけの殻。

 荷物もない。おそらくDV男の元に帰ってしまったのだろう。

 大谷はすぐさまスマホを取り出し、警察に通報した。

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