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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
袁公路と仲王朝篇
53/202

第53話 天下をつかむ

 袁術は歯ぎしりしていた。董卓から逃れるように都落ちし、拠点の南陽(なんよう)に戻っていた。


 袁術の胸の中に熱いものがたぎる。董卓の横暴が許せない。……というよりは、嫉妬かもしれない。自分がその地位にいたかったのかもしれない。皇帝を補佐し政治家の頂点となり人民に慕われる。


 それがために董卓のことを苦々しく思った。自分は名門の御曹司!

 あんな辺境生まれの乱暴武官ごときが相国を名乗るなどとんでもないことだ!


 袁術は、黒い箱を使ったあれ以来考えていた。願いを叶えれば自分の部品を失ってしまう。と、生えなくなった口ひげを撫でさすった。


 であるから、黒い箱を使うのは慎重にしなくてはならない。ここだ! という場面で使わないと失敗する……。狡知(こうち)に長けた袁術は箱の使う時を狙っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 この広い大陸で、一人の声など小さいものだ。そして、その声でたくさんの人々を動かすなど容易なことではない。しかし今までの歴史の中で多くの小さい声がやがて大きくなり、天下を沈めたということもあった。

 その声をあげたのは袁紹であった。袁紹は天下に号令した。


「董卓の横暴許しがたし! 兵を進め、悪逆より帝を助けようではないか!」


 袁紹には天の時があった。人の願いがあった。袁紹の声に数多くの諸侯が集まってきた。

 袁紹は自らを車騎将軍と自称し、この同盟軍の盟主となった。横に曹操という知謀の持ち主を参謀とし、これを攻めた。


 袁術もこれに賛同し幕下に孫堅を加え兵を挙げた。あれ以来、勢力拡大に邁進し、朝廷に働きかけ後将軍の位も頂戴していたのだ。


 袁術の部下である孫堅は董卓軍をよく攻め、ついには董卓の本拠地である洛陽を奪取した。袁術は自分の幕下の功績に鼻高々だった。


 しかし、洛陽はすでに董卓により奪い尽くされもぬけの殻……。取るもの無し、人無しの廃された都となっていた。


 董卓はいち早く長安に人民を引き連れ移動していたのだった。





 袁紹は焼け野原で呆然とした。そして同盟軍に一定の成果は得れたのでここで一度同盟を解消し自国に戻ることを提案した。

 盟主がこの有様では仕方が無い。そもそも董卓という目標が逃げてしまった以上、やむなしということで同盟は解消された。


 袁術も南陽に戻ったが、しばらくして袁紹から書簡が来た。内容は「董卓が擁立している帝を廃し、皇族の大司馬である劉虞(りゅうぐ)さまを皇帝に擁立しよう」というものだった。


 袁術は「はぁ?」となった。


 臣下の身分で皇帝を勝手に立てる。それでは董卓と同じではないか。しかしそうは思うものの、なかなかいいアイデアだと思う反面、それでは自分は袁紹の格下となる。


 それはいやだ。


 自分が袁氏の御曹司であり、袁紹なんて、そもそも伯父の正妻の子でもない。袁紹よりも格上でないのならば、今上(きんじょう)皇帝であろうと劉虞であろうと無意味だ。


 それに、董卓が相国というのもいけ好かない。

 大将軍で暗殺された何進(かしん)だって元々、屠殺業の卑しい身分だ。それが妹が傾城(けいせい)の美女というだけで出世だ。


「出世なんて簡単だ。小さいきっかけで誰でもなれる。そうだ……! 自らが天子(てんし)となればいいではないか! この国を興した高祖(こうそ)だって元はと言えば、泗水(しすい)亭長(ていちょう)ではないか! 今の儂は袁氏の御曹司、漢の後将軍だ。あいつらなんかよりよっぽど地位も名声もある! しかし、勝手に僭称すればすぐに軍隊が発動されて鎮圧されるのがオチだ。そんな間抜けな袁術さまではない。徳をつみ、外交努力を重ね──。うーん。それでは時間がかかるなぁ。そ、そうだ──!」


 袁術は隠し場所から黒い箱を引っ張り出した。

黒い箱は静かな光を放っていた。


『願い事をどうぞ』


 久しぶりに見る黒い箱は手に取るなり光る文字を現した。


「この国の皇帝となりたい。なれるか?」


『代償は?』


「代償か……。よくわからん。奴隷の体ではダメなのか?」


『いけません。本人のものでないと』


「ふむ……。この髭のように失われたら戻ってこんのだろう」


『御意にございます』


「ふむ……」


『僭越なご提案ですが、(しん)に死なない程度に臓腑(ぞうふ)を賜われますれば願いは叶えられます』


 袁術はこの提案に飛びついた。


「なるほど……。外見は害わず、内側の臓腑か……」


 袁術はニヤリと笑った。


「それで叶えよ!」


『御意にございます』


 白い光が辺りに乱発射された。


「おおう!」


 光りに驚いて袁術が一声もらすと、それもピタリと止み、今度は袁術に赤い光が伸びる。数秒照射された光も止まり、黒い箱に光文字が表示された。


『後ほど使者が参りましょう』


 とのことだった。つまり、皇帝は天の子と書いて天子と読むように、天より意思を受けたもののこと。すなわち天意だ。

 天界から使者がくる。それを待てとのことだと袁術は理解した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その頃になると、董卓は己の武官である呂布に誅滅されていた。だが呂布は権力を手に入れられず敗走。董卓の残党が長安の都を治めたが、帝はこれに耐えきれず逃げ、曹操の保護を受け許昌の都に落ち着いていた。


 曹操は帝を手にし天下に号令する立場となったが袁術はますます漢の力が衰え、天下は自分に帰属すると計算した。

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