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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
袁公路と仲王朝篇
51/202

第51話 騒乱

 そんなある時、大事件が発生した。


 皇帝が崩御したのだ。


 さらに悪いことに軍閥の頂点である何進(かしん)大将軍かねてより政敵であった宦官たちにより暗殺されたのであった。


 何進大将軍は皇后の兄で外戚というやつだ。甥は次期皇帝。それが暗殺されるなどとこれを政変と言わずして何を言おう。


 このままでは漢帝国は大混乱になってしまう。

 重たるものに声がけしたものは袁術──ではなく従兄(いとこ)袁紹(えんしょう)であった。


 袁紹の提案は、宮廷に押し入って何進大将軍を暗殺した宦官たちを駆逐し何進大将軍の仇を討とうというものだった。


 反対するものもいたが、袁氏の威光はほとんどのものを賛成させた。しかし袁術は歯噛みして袁紹を睨みつけていた。


「ふんッ。伯父上の下賤な妾の子め。一族の忌子(いみご)めッ」


 袁術は心の中でケチをつけた。いつも思っていることだ。伯父の妾の子である袁紹は表舞台に立てる人間ではない。本来であれば下男と同じ。下働きで一生を終えなくてはいけない。それが伯父が早めに亡くなったために家を継げただけだ。


 袁紹は華々しい鎧を着て次々に親衛隊に命令を下した。だが、袁術は面白くない。歳は上と言っても、袁宗家の嫡男は自分だ。自分が命令を下す立場なのだ。


「術は虎賁(こほん)を率いて先陣をきり武器庫を抑えてしまう……」


 虎賁は親衛隊のことで袁術の支配下の部隊だ。袁紹の段取りの途中にあったその一言で、一応大人しく聞いていた袁術は一気に沸点に達した。


「待て! 紹!」


 一気に作戦会議は静寂になる。また二人の無碍(むげ)なケンカが始まる……。とみな心の中で思った。


「俺は袁宗家の嫡男だぞ? それがなぜお前に“術”呼ばわりされなくてはいかんのだ!」


 これは袁紹の方も面白くない。


 元々、祖父“袁湯(えんとう)”の後継は袁紹の父である袁成(えんせい)であったが、袁紹が小さい頃に身罷(みまか)ってしまったのだ。


 それがために、後継次点であった袁術の父である袁逢が繰り上がって袁宗家を継いだのだ。本来であれば、袁紹が宗家を継いでいた立場だ。

 それが父が早死にしたため、袁術の父にその座を()(さら)われただけだ。


 袁紹は「むぅ」とうなったが、これが現実だ。

 しかも、袁術のそばには叔父の袁隗(えんかい)も控えていた。

 順番にうるさい叔父だ。ここは自分が一歩引かねばなるまい。


 袁紹は袁術に深々と頭を下げた。


「失礼致しました。しかし、“公路”。この場はワシが取り仕切ってもよいだろうか?」


 そう言われれば御曹司袁術も悪い気はしない。


「わかったわかった。新皇帝様の安否が気がかりだ。そうそうに命令致せ」


「う、うむ」


 袁紹が袁術に譲る形で会議は進み、作戦が決定すると“えいえいおうおう”と声を上げてそれぞれ軍勢を率いて宮中に向かった。


 宮中の門は固く閉ざされていたがこの軍勢である。一気に門を破って中になだれこんだ。


 あっという間に宮中は大混乱になった。数千人いた宦官たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。


「殺せ! 殺せ!」の怒号の元、朱に染まる宮中。


 自分は宦官ではないという印に、自らの男性自身をさらし危機を免れたものもいた。


 袁紹は新皇帝と皇太后を探した。袁術も別のルートから同じように皇帝と皇太后を探す。


 袁術が宮中を探していると、一つの部屋から小声でボソボソ話す声が聞こえた。


 耳を当てて聞いてみると聞き覚えのある声だ。先の皇帝に「我が母」とまで言わしめた側近、趙忠(ちゅうちゅう)の声だ! 元凶の一人。これを仕留めれば大手柄である。

 その趙忠は誰かと話しているようだった。


「なぜだ! 栄耀栄華を極めれるよう、願いを叶えてくれたではないか! ええい、この賊軍を消してしまえ!」


 しかし、その問いに返す答えがない。袁術は訝しがってしばらく、趙忠とその相手の言葉が聞こえるよう、扉に耳を押し付けていた。


「では、左腕ではどうだ? 髪の毛も追加する……。……足! 両足! あああん! もう!」


 だが、趙忠の声しか聞こえない。まるで気が狂っているようだ……。


 袁術は笑って扉を開けた。自分を……この袁宗家の御曹司を見下した目で見ていた下賤な趙忠が無様に気が狂ってこの中に潜んでいる。

 さっさとこの長剣で斬り殺してしまおう。


 趙忠の手には黒い箱が握られていた。それに話しかけていたのだ。


 無様だ。


(ちょう)大長秋(だいちょうしゅう)殿。無様ですなァ~……」


 袁術は目を細めて趙忠に声をかけた。大長秋とは皇后侍従長のことで、宦官の最高位だ。

 趙忠は驚いて袁術のほうをみると、手に長剣を携えている。


 慌てて黒い箱を袁術に向けた。


「袁中郎将を……」


 そう言いかけたと同時に黒い箱には光文字が現れる。


『もう叶えられません』


 そう表示された文字に袁術は驚いたが、勢いのまま趙忠の胸に深々と長剣を突き刺すと、その体から鮮血が吹き出した。


 袁術は鮮血で手が汚れるのを嫌い、すぐさま長剣から手を放しそれを趙忠の胸に突き立てたまま、転げ落ちた黒い箱を手に取った。


『願い事をどうぞ』


「な、なんじゃぁ? これは……」


『この箱はあなたの願いを叶える箱。使い方は、願い事を言う→その代償に箱はあなたの体の一部を頂きます。あなたの体がなくなれば願い事は終了です』


 箱の表面に光る文字が表示されて行く……。袁術はジッとそれを熟読した後……。


「なに……? 願いを叶える?」


 全く(もっ)て不思議な箱だ。だいたいにして、この文字はなんだ? 光って現れては消えて行く……。見たことも聞いたこともなかった。


 しかし、『願いを叶える』という言葉は非常に魅力的だった。袁術はそれをすぐに懐にしまった。


 黒い箱は袁術へと渡ったのだ。

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