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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男と監禁篇
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第46話 聞いたことのないジンクス

 幾朗はコンビニからでて車に乗り込んで顔を正面に向け、ふと気付いた。この店の窓ガラスに貼られている貼り紙を。


『連続暴行魔:湖の別荘地でカップルに乱暴する暴行魔が出現しております。犯人に心当たりのある方は警察署まで』


 という内容だった。簡単な絵が付いている。背格好、ぼかした似顔絵。身長、体型、年齢の幅の数字。


 幾朗はドキリとした。


 自分だ。自分のことだ。


 警察なんてなんてことない。触れて痺れてる間に逃走してしまえばいい。金もあるから整形だって高飛びだって可能だ。自分は無敵だと思っていた。


 だが、今は能力を失ってしまった。能力がなくなってしまった今とても恐ろしい。


 幾朗は気を動転させたまま車のエンジンをかけて道を急ぎ、きゃんの元に帰って行った。家に着く頃には朝になっていた。


 きゃんは朝食の支度をしていた。幾朗は後ろからきゃんに抱きついた。


「キャーー!!」


 きゃんは驚いて床を転がった。この家には自分と幾朗しかいない。それに触れられたらしびれてしまう。とっさの行動だった。


 そんなきゃんの両腕を幾朗は両手で掴んだ。


「キャ! キャ! キャ! キャーーッ!」

「きゃんちゃん! きゃんちゃん!」


「キャ! あ、あれ?」

「もう大丈夫。大丈夫なんだよ」


「え? ど、どうして?」

「能力を消した! 君のために!」


 きゃんは驚いた。つまり母である黒い箱はうまく誘導して幾朗から能力を消した。では、この男は今はただの男。しかし、腕力では到底及ばないだろう。スキを見計らって逃げれなくもない。


 そして、母も。


 この別荘にきて考える時間が多かったきゃんの中にはある考えが芽生えていた。隆一の復活には母の力が必要だ。それには母とともに逃げなくてはならない。

 そのチャンスを待つのだ。と思った。


 幾朗は嬉しそうな顔をした。


「きゃんちゃん。これでようやく一つになれる」


 そういいながら、顔を近づけて唇を合わそうとして来た。きゃんはこれを想定していて、次の言葉を用意していた。


「ちょっと、ちょっと待って!」

「え? なに?」


「その……。そういうことするんでしょ? 私もイクローさんのこと好きだよ? イクローさんとなら結ばれても良い」


 幾朗はうれしくなって口を大きく弓の形にして笑った。


「でもね? もうすぐ私19歳なの。19歳の日に好きな人と結ばれると永遠になれるんだよ? 知ってる?」


 幾朗はそんなジンクスを聞いたことがなかった。それもそのはずだ。きゃんが考えたものなのだから。


「19? 19歳──」

「そう。初めてを守って来たんだ。だから19歳まで待って?」


「な、なんで19歳? 初めて聞いたよ?」

「あ、知らないんだぁ~」


「う、うん」

「私も良く知らないんだけど、タロットカードの19番目のカードって“太陽”のカードなんだって。そのカードの意味は“成功”とか“誕生”そして“祝福”や“幸せな将来”なんだって」


 これは本当だった。“鈴村きゃん”たち“ワンワン探検隊”がある番組で有名な占い師のところに行く企画があって、そこで教えてもらったのだ。印象深くて覚えていたのだった。

 信憑性がなくては幾朗は騙せないと考えていた。そのためのでまかせであった。


「う、うん、そっか。タロットの──。19歳かァ」


 幾朗は鈴村きゃんのファンだ。当然、誕生日は熟知している。


「あと2週間か──」

「そーだよ。幸せになれる魔法の儀式は19歳の日! すっごく楽しみだね! んふ!」


 きゃんからのスマイルだ。

 幾朗には能力がなくなったのですぐにでもきゃんと一つ寝ができると思っていたのだが、そう言われて微笑まれたらたまらない。

 あきらめるしかなかった。


 夜。幾朗が自室のベッドで、わんわん探検隊の曲を聴きながら横になっていると、幾朗が先日カップルを襲撃した湖の一般駐車場で赤い光がグルグルと回転していた。幾朗は驚いてガバっと跳ね起きた。



 警察だ──!



 警察が見回りに来ているんだと思った。幾朗はきゃんの部屋にバタバタと急ぎ、ノックもせずにドアを開けた。

 きゃんもくつろいで、幾朗が買って来たパジャマに着替えて部屋にある水槽の中のクラゲを眺めていたが突然入ってきた幾朗に驚いた。


「きゃんちゃん!」


「キャァ! なに??」


 幾朗は部屋の電気のスイッチを押して暗くした。きゃんは何が何だか分からない。ひょっとして襲われるのかと気が気でなかった。


「え? え? え?」

「──ダメ。静かに」


「う、うん……」


 この別荘地で電気が付いているのはここだけだ。警察が気付いたらこちらにやって来て、質問されるかもしれない。


「きゃんちゃん、ゴメン。夜はカーテンを閉めて電気を消してほしいんだ」


 電気を消したせいか、遠くのパトカーの回転灯がきゃんにも見えた。


 きゃんも気付いた。幾朗は警察に怯えている。能力も消えた。無敵ではない。ただの人殺し。そして現在は監禁中だ。これはチャンスが近付いてきたと感じたのだ。


「うん。わかったよ。クラゲちゃんも電気消した方がキレイだし、それに早寝早起きは体にもいいしね」


 そう言って、きゃんは布団に足を入れた。


「ゴメン、きゃんちゃん。不自由な思いをさせて」


 幾朗は、きゃんの部屋のドアを閉めて自室に戻った。

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