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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男と監禁篇
44/202

第44話 カップル襲撃

 深夜、幾朗はこっそりと家のカギをかけて外に出る。ここは湖がある別荘地。シーズン外でひと気がない。しかし、幾朗は探していた。


 湖の周りを探しながら歩くと、それを見つけた。駐車スペースにエンジンをかけたまま止まっている車だ。


 幾朗はこっそりと近づいて中を覗いてみる。そこには若い恋人同士が睦み合っている最中だった。


 ここにはそういう恋人同士がドライブがてら立ち寄って休憩することを幾朗は知っていたのだ。

 幾朗は計画通りに運転席のフロントガラスをコンコンと叩いた。


 車中にいた若い二人は戦慄した。誰もいないはずの山の上の駐車場と思い込んでいたのだ。しかし窓の外に不気味な大男がいる。

 すぐに車を発進させようとしたが幾朗は車の前に立って進ませないようにした。

 車中の若い男は血気盛んな若者だった。よく見ると、ただの太った男だったので車から飛び出して幾朗に殴りかかった。


「この野郎! 脅かしやがって、ふざけんな!」


 幾朗は左手でその若い男に触れた。


「うぇっ……!」


 とたんに膝をついて若い男は倒れてしまった。幾朗の能力だ。手で触れたものを痺れさせる。

 幾朗はニヤリと笑って若い男を踏みつけた。


「イキがってるとそういう目に会うんだ。オマエみたいなのを見てるとムカッ腹が立って来る。集団じゃないとなにも出来ない癖して。よくオマエみたいなのにパシリに使われたよ。いいか? よく見ておけよ。今からオマエの大事なものをもらうからよ」


 幾朗は若い男の体を車の方に向け、助手席の女側に向かった。若い女はパニックに陥って車の中で呼吸も整わないままもがいた。暗闇の中から現れた男に自分の彼氏が殺されたかもしれない。そう感じたからだ。


「キャア! キャア!」


 幾朗は助手席側のドアを荒々しく開けて中に入り込み騒いでいる若い女に左手で触れた。


「──ぐぅ!」


 若い女は痺れてしまった。幾朗はニヤ付きながら自分の衣服を脱ぎ、若い女をそのまま犯して今日のモヤモヤを吐き出した。


 幾朗は目的を達成したようで、スポーツが終えたように心地よくため息をついた。そして痺れた恋人たちをそのままにしてジョギングをしながら自分の別荘に帰って行った。


 この能力がついてから何度もやって来て行為だった。女の友人同士がドライブでここに来たときは二人揃って生け贄にし、車は湖に落としたのだ。


 幾朗はこの能力に無敵を感じていた。とんでもない優越感があったのだった。





 次の日、幾朗はきゃんに仕事に行くと伝えた。


「きゃんちゃん。じゃぁ、オレ行くけど──。一つだけお願いがある」

「え? うん。何?」


「2階の──、一番奥の部屋だけは見ないで欲しいんだ。一応、カギはかけたけど……」


 遺体の山がある部屋だ。いつの間にかカギをかけたのだ。きゃんはすでに見ていたが知らないフリをして言葉を返した。


「カギかけたなら、開けられないから大丈夫だよ。じゃ、他の部屋は掃除しておくね」

「あ、あと、この向かいの部屋も。大切な部屋なんだ。こっちはカギがかからないから」


 そこは、祭壇と黒い箱がある部屋だった。


「ああ、うん。閉じられてるなら入らないようにするね」


 幾朗は安心して申し訳なさそうに頭を下げた。


「うん、ゴメン。あとでちゃんと入れるようにするから。じゃあ、ちょっと行ってくる。帰りは17時くらいだと思う。お昼は冷蔵庫に食材が入ってるから……」

「あ、じゃぁ、夕飯も作っておくよ!」


 きゃんのかいがいしい言葉に、幾朗の顔はパッと明るくなった。


「ほ、ほんと!? やった! 楽しみだなぁ~!」


 普通のウキウキとした顔だった。しかし幾朗には殺人鬼、暴行魔という裏の顔もあるのだった。





 幾朗はきゃんに手を振って仕事に出かけて行った。


 ドアの向こうから車の排気音が聞こえる。幾朗の車がこの別荘地から出て行ったのだ。


 幾朗は途中、昨夜のカップルがいた駐車場の脇を通った。すでに車がない。逃げ帰ったのだろうとフッと鼻をならして笑いながら山を下って行った。

 自分は征服者だ。誰だって思うままだとでも思っているのであろう。


 きゃんは家じゅうを掃除することにした。そして、消臭。臭いの元を断つことはことはできないが和らげることはできないだろうか?


 家の中を探し回ると、洗面台に男性用の香水があった。きゃんはそれを手に取って首筋に吹きつけた。香料の匂いが強い臭気をごまかしてくれた。


 格子のついた窓をあけて空気の入れ替えをした。


 食事は、とてもとれるような気分じゃない。こんな誰もいない場所に、遺体と自分ひとりなんて気が狂いそうになるだろう。


 しかし、きゃんにはまだ心の拠り所があった。何しろここには肉親がいるのだ。それだけが救いだった。


 きゃんは開けてはいけないという祭壇の部屋をあけた。


『おはよう。きゃん。よく眠れたかい?』


 きゃんは思わずクスリと笑った。この知能は高いが生命体ではない母が自分の睡眠の心配をしている。


「あんまり眠れなかったよ。お母さん」


『フン。バカな娘。ちゃんと寝なきゃ体に障るだろう。赤ん坊にもよくないよ』


 黒い箱はチカチカと点滅する。少し楽しそうだ。


「どうにか。出る方法を考えないと──。それにあの男の能力。触られたら痺れてしまうなんて」


『wwwww』


「もう! お母さんのせいでしょう?」


『私のせいにするな。子供のくせに生意気だよ』


「ホント。とんでもない母親!」


『フン。反抗期』


 きゃんは水掛け論に呆れた。母である黒い箱には悪気なんてこれっぽっちもない。


「あの男の力をかわす方法はないの?」


『ないね。そういう能力だよ。衣服や鎧の上からでも触れられりゃ痺れるんだから』


「もう!」


 きゃんは黙ってしまった。幾朗が帰ってきて扉を開けた瞬間、幾朗を押しやって車を奪って逃げようという考えもあったが、これでは不発に終わるだろう。自分は非力だし、幾朗が少しでも服に触れたら自分は動けなくなってしまうのだ。きゃんは頭を抱えた。


「…………」


『きゃん? どうした?』


 箱はそのように文字を流したが、きゃんは下を向いたままそれを見なかった。箱は激しく点滅してきゃんに呼びかけた。


「ん?」


 きゃんは気付いて箱の方に顔を向け、光の文字を読んだ。


『どうした? 無様に泣くんじゃないよ』


「もう、無理だよ。逃げ出せない。そのうちにあの手で触れられて強引に自分のものにされるかもしれない。お腹の子も守れないかもしれない。どうしよう。どうしよう──」


 きゃんはそう言って顔を抑えて泣き出した。

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