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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男と監禁篇
42/202

第42話 母との再会

 市街地を抜け、薄暗い山道に入って行く。頂上につくと木立も途切れて大きな湖水があり、その周りにはポツリ、ポツリとコテージ型の別荘が見えて来た。


 幾朗は湖に近い別荘に車を止めた。


 そして、きゃんをその大きな手で優しく抱きかかえ自分の別荘の中に入って行った。


 臭い! 叫びたくなるほどの臭気。

 強烈な死臭がきゃんの鼻腔を刺した。


 幾朗は動けないきゃんを二階の一室へと連れて行き、優しく奇麗なベッドの上に置く。


「うっふっふっふ。きゃんちゃん、今日からオレと一緒に暮らそうね。オレが祈らなかったら命が助からなかったんだからいいよね? オレが命の恩人なんだから」


 首すら動かせないきゃんは目を動かして辺りを見回した。


 真っ暗い部屋──。

 水槽がある。青い光に水泡が見える。まだ閉じられていない扉の向こうに見えるあの部屋は何だろう。


 その部屋のドアも開いてる。白い布がひな壇のようになっていた。そこはまさに祭壇の部屋だったのだ。


 幾朗はきゃんに見られていると思い、部屋から出て祭壇がある部屋のドアを閉じた。


「きゃんちゃん、今日はお祝いだよ。今からご馳走を買って来るね! もう少ししたらしびれが切れるから──。でもおとなしくこの部屋でじっとしていて。カギは外からかけるから誰も入って来れないからね。じゃ、行って来るね」


 幾朗はそう言うと、嬉しそうに外に出て行った。きゃんの耳に車の排気音が聞こえる。山道を下りて行ったのだろう。


 しばらくすると、指が動く。痺れは大きいが少しずつ少しずつ回復するようだった。


「あ……」


 次第に声も出せるようになった。徐々に体から痺れが消えて行く。


「何? 何かの薬? そんな感じじゃなかったけど……」


 きゃんは体をふらつかせながら立ち上がり、その部屋の窓に向かって歩き出した。

 カーテンを開けると、その窓には格子がはめられている。窓を開けて格子をゆすってみたがビクともしない。


 そこから辺りの風景を見てみるが、湖の回りに多数の別荘はあるものの人の気配はない。シーズンオフなためであろう。例え助けを叫んだところで無意味だ。


 しかし、一つ一つにショックを受けていられない。きゃんは、急いで逃げれる場所を探した。


 空き部屋の窓、一つ一つに格子がはめられている。逃がさないための城なのだろう。


 きゃんは思い出したようにスマートフォンを手に取った。


『圏外』


 きゃんは口をゆがめてスマートフォンに向けて叫んだ。


「な! なんて不便な場所なの?? もうじき電池もなくなっちゃう。お義母さん……心配してるだろうな。警察に通報してくれたかも──」


 そして、奥の部屋。きゃんはとてもいやな予感がした。臭いが一層キツくなったからだ。


 この臭いの元の部屋。一体何があるのだろうか。


 きゃんが恐る恐る扉をあけると、虫のワーンワーンという羽音が聞こえた。


 少しの隙間から覗くと、たくさんの遺体だ。腐って真っ黒になっているもの、新しいものもある。全員女性だった。


 きゃんは吐きそうになったがこらえた。

 酸っぱいものが何度もノドを突き上げた。


 そして、怒りと悲しみが襲った。


「あの野郎、祈ったっていってたッ! とんでもないサイコ野郎なんだわ! 鈴村きゃんを治す為に罪の無い人を! 力の弱い女性を! 許せない!!」


 どうあっても逃げなくてはいけない。そして、警察に言わなくては──。


 きゃんは、二階の探索を続ける。幾朗が閉めた祭壇のある部屋を開けた。


 真っ暗だったが、壇上がわずかに光った。


『きゃん?』


「え? お母さん?」


 母親との再会だった。きゃんは思わず駆け寄った。黒い箱はきゃんに向かって文字を流し始める。


『馬鹿な娘。さっさとお逃げな』


「何言ってんの! お母さん! あの男に能力を何か与えたのね!?」


『私の趣味。あんたにとやかく言われる筋合いはない!』


「バカ!」


『あんたは大馬鹿』


 きゃんには言い争っているヒマがなかった。急いで黒い箱を掴んだ。


「一緒に逃げよう!」


『やなこった』


「え?」


『大事なお客さんと商談中なんだから。帰るなら一人で帰んな』


「でも、どうやって?」


『待ってな』


 黒い箱は少し浮いて回転しながら光を乱射した。この家の全てをスキャンしたのだ。そして、その回答を光の文字で現す。


『アンタの体で通れるのは玄関のドアだけだね。カギを開けて逃げな』


「う、うん」


 きゃんは玄関まで走った。でも、男が言っていた。外からカギをかけたと。それでも開くのだろうか?


 玄関にたどり着いた。ドアノブをひねったが──。


 ──開かない。


 不思議な構造のドアだった。外からカギをかけられると、中からは開けられない。幾朗が家の中にいる際は、内側のチェーンをかけているのだろう。


 きゃんは祭壇のある部屋に戻った。


「お母さん! 開かないよ!」


 しかし、母からの返答は冷たいものだった。


『あっそ』


「あっそって……。娘を助けようと思わないの?」


『あいにく、そういう気持ちは持ち合わせてないもんでね』


 黒い箱は文字を現した後、機械的に文字を表示した。


『願い事をどうぞ』


 きゃんは呆れた。まさか母がこんなときまで助けてくれないのかと。


「もういい……」


『あっそ。娘だからサービスしてあげるのに』


 それでもきゃんは母である黒い箱の力を使いたくなかった。そんな人間になりたくない。


 自分の部品を失って願いを叶える等、正しい人間がすることではないという考えだった。


「あの男に、どんな力を与えたの?」


 黒い箱に『www』と文字が流れた。


『生け贄を捕まえるのに騒がれないようにしたいんだとさ。左手が体に触れるとしびれて動けなくなるwwwww』


「え?」


『だけど、時間制限がある。3時間ほどでしびれがなくなる』


「そうなんだ……」


『わけの分からない悪魔崇拝のヤツだよ。私を悪魔の贈り物だとさwwwww』


「それは、当たってるでしょ」


『wwww wwwww』


 まるで腹を抱えて笑っているようだ。その様子にきゃんはため息をついた。


「どうしよう……?」


『さぁね。自分は鈴村きゃんじゃないって言えば?』


「でも、そう言っちゃうと何をされるか。今まで何人も殺してるんでしょ? ひょっとして私も……」


 きゃんがつぶやくと箱は激しく点滅するのできゃんは何ごとかと驚いた。


「な、なに?」


 すると黒い箱は一拍おいてから文字を表示し始めた。


『──そうかもしれないねぇ。じゃ、じゃぁさ、大人しくあの男の妻になったら?』


「そういうわけには行かないよ! 隆一のことしか考えてないのに!」


『──馬鹿な娘』


 黒い箱は聞き分けのない娘だとため息をつくように見えた。もうそんな母と話していられない。きゃんは最初の部屋に戻り、カーテンを開け電気を点けベッドに座った。

 改めて明るくなった部屋を見てみると、普通にいい部屋だ。水槽にはチカチカと光るクラゲが動いている。回りには黒い色の家具で統一されている。それも、高そうだと一目で分かった。


 しかし、そんなこと考えているヒマはない。幾朗は帰って来る。

 一生懸命逃げることを考えた。


「お母さんは全然あてにはならない。玄関から逃げるしかないんだわ。それに、殺された人達の無念も晴らしたい。──あの男、鈴村きゃんにべた惚れだったわ。きゃんになりきって、男を持ち上げて、それで逃げるチャンスを狙うしかないよね」


 きゃんはそう考えたら行動は早かった。掃除機を見つけて、部屋や廊下を掃除しはじめたのだ。

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