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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男とキャバクラ篇
4/202

第4話 豪遊

 悠太は店に戻る。すると男性スタッフは驚き、若干やましさがある顔をした。


「ゆ、ゆうさん、お忘れ物ですか?」

「いや吞み足りなくて、もう一度吞もうと思ってね。ルカはいるかな?」


「あ、ちょ、ちょっと、他のお客さんのヘルプに入ってまして……」

「ヘルプならいいだろ? こっちの席に連れてきてくれよ」


「あ、はい。ちょっと待ってください」



 しばらく待つと、スタッフに指示された別の女の子が二人来た。


「アユミでーす。はじめまして~」

「カレンでーす。少しの間、いていいですか~?」


 悠太は眉をつり上げた。先ほど大枚を(はた)いたにも関わらず格下の扱いを受けている。指名したルカを早く連れて来いという気持ちだった。


「あれ? ルカは?」


「ルカさん、もうすぐ来ますよ~」

「ゆうさん、テンション上げて行きましょ! うぇーーい!」


 女の子たちは強引に隣に座り込んで身を寄せてきた。

 普通なら悪い気はしないが悠太はルカに一途だと意思の表明をしたく、両手で彼女たちを押して自分から少し離した。


 女の子たちも物わかりがいい。自分より数歳年上であるこの男を少年のような純情さだと心の中で嘲笑した。しかしそんな思いはおくびにもださないまま身をつけずに盛り上げた。


 ルカは別の席に指名されていた。ヘルプではない。彼女にぞっこんなのは悠太だけではないのだ。大金を使ってくれる太い客は他にもいる。

 それを時間をずらして来店させ上手く回していた。したたかな女だ。

 店側もそれを上手く取り繕ってやり込める。ただ、今晩の悠太の行動はイレギュラーだったようだ。




 ──ここは魔女の館だ。




 男たちを酔わせるのは酒だけではない。照明。雰囲気。ドレス。髪。顔。体。言葉──。それに酔わされていく。


 男性スタッフはルカをこっそりと呼んだ。


「ルカさん。またゆうさん来てるよ」

「え。マジ?」


「マジです。さっきいい気持ちにさせたから家に帰ってまたお金持ってきたのかも」

「分かってるよ。いい感じに待たせといて」


「了解──!」


 男性スタッフとルカはそれぞれの持ち場に戻る。

 そんなことを知らない悠太の席は二人の女の子によって華やかに彩られていた。


「ゆうさん、いただいてもいいですかぁ~?」

「いいけど、薄く作れよ? うっすく!」


「やだぁ~。ゆうさんイジワル~」

「さっきドンペリ頼んでたじゃないですか~」


「あ、カレンは(ミネ)だけ。決定」

「ああん! ウソですよ~」


 悠太は仕方なく、二人と安酒を呑んでいた。二人の女の子たちもなかなか上手で悠太も徐々に楽しい話しで盛り上がり始めた。


 その時ルカが来た。悠太の楽しそうな様子を見てショックそうな、悲しげな顔をしていた。悠太はバツが悪く立ち上がってルカを迎え入れる。ルカの手を引いたが足に力を入れて抵抗した。


 悠太は傷つけてしまったと思い、慰めや言い訳を言いまくった。


「ルカ……。座ってよ」


 ルカはそんな悠太に顔を向けていつもの笑顔を浮かべた。


「なーんて。いじけたフリ。ゆうさんビックリした?」


 悠太はホッと胸をなで下ろす。


「ビックリしたよ~」


 二人で笑いあいながら席に座るとルカは悠太の行動を当然不思議に思う。先程あんなに豪遊したにも関わらず戻ってくるとは。稼ぎもそれほどいいわけではないだろうに。どういうことだろうと聞いてみた。


「ゆうさんどうしたの? 忘れ物しちゃった?」

「まさか。キミに会いたくて」


 二人は真っ赤な顔をして照れあう。席にいた二人の女の子は席を立った。


「ふふ。お邪魔様。じゃルカさんよろしくお願いしまーす」

「ゆうさん、ごちそうさまでした~!」


「はーい。ありがとー」


 二人の女の子たちは席を立って靴の音を鳴らしながら去って行った。ルカは悠太の膝に置いてある手を取って指を優しく揉む。その自分だけの秘密な行為を悠太は嬉しく感じていた。


「ごめんね? ゆうさん。意地悪なお客さんに捕まっちゃって」

「なにぃ? ルカにどんなことしたの?」


「んふふ。ダメダメ言わないよーだ。お仕事なんだから」

「んー。だな。オーケー」


 ルカはテーブルに置いてある安酒のキープボトルに手を伸ばして酒を作ろうとしたが、悠太はその手を押さえた。


「ルカ。ドンペリだ」

「え? ゆうさんマジですか?」


「マジ。マジ」


 彼女は手を高らかに上げて男性スタッフを呼んだ。今度の彼は席の前に跪く。

 悠太の格が上がったのだろう。金を落とす客はここでは貴族や王様の扱いを受けるのだ。


「ゆうさんがドンペリ呑みたいって」

「ああ、ゆうさんマジすか! ありがとうございまぁす!」


 悠太は喜ぶ男性スタッフを静止した。スタッフは一度目の来店で態度が悪かったことを咎められるのかと思い顔がこわばったが違った。


「ロゼね。ロゼ」


 ロゼは通常のドンペリより一等上だ。男性スタッフは飛び上がらんばかりに驚き叫ぶ。


「おおお! ありがとうございまぁぁぁす!」


 そういっておどけながら足早に引っ込んで行った。


「はは。おもしれー」

「すごーい! ゆうさん!」


 ルカは足をパタパタとさせた。自分の手柄のように。よっぽどうれしいのであろう。そんな彼女の姿がとても可愛らしかった。悠太は優越感に浸った。


 男性スタッフが大声で、酒瓶を高らかに掲げて叫ぶ。


「ピンドン入りまァァァァす!!」


 ピンドンとはロゼのドンペリだ。ピンクドンペリでピンドンと言うわけだ。店の中ではかなり格の高い酒。他の席に着いている女の子たちも歓声を上げて立ち上がる。

 男性スタッフの後ろについて三人の女の子がついてきて、一緒に跪いた。まるで王様と女王とその下僕たち。


 悠太の気持ちは最高潮に達してゆく。


 男性スタッフは二人の前にシャンパンを置いて丁寧にお辞儀をして去って行った。ルカは素直に大喜びをして手を叩く。


「うわーー!! すごい! マジですごい! 自分の席でピンドン来たの初めて!」


 喜ぶ彼女の前に男は例のラッピングされたプレゼントを置いた。


「あれ? 何ですかこれ」

「ルカにプレゼントだよ」


「えーー! プレゼント? 開けていいですか?」

「……いやダメだよぉ。家で開けて」


「えー。なんだろ」


 そう言って、手に取って重さを量った。耳元で振って音を確認したが何の音もしない。


「うーん。前に言ってたコミックの愛蔵版ですかね? いや〜それにしてはラッピングが大げさだしなぁ」

「ま、いいじゃん。あとで感想聞かせてよ」


「そーですね。楽しみにしてます。んふ!」


 二人は、また楽しく酒を呑んだ。途中、また高い酒を頼むと店内が大盛り上がりだ。

 他の客も相乗効果で女の子にいいところを見せようと高い酒を頼んでゆく。店内は華々しく盛り上がっていった。

 ルカに呼ばれて男性スタッフが嬉しそうに駆けて来る。


「はいはいはい。ゆうさん、およびで?」

「ゆうさんがフルーツ食べたいって」


「了解です! フレッシュフルーツ持って来マァース!」


 終始華やかな二人の王室はマイペースに豪奢な注文ぶりだった。


 いざ悠太が帰る段になると男性スタッフがうやうやしく伝票を持ってきた。

 23万8千円だった。ルカは驚いて「えー……」と小さく声を上げたが悠太は平気な顔をして財布から24万を出してルカの目の前を通過させる。


「釣りいいから」


 その言葉に男性スタッフはうれしそうに頭を下げてお礼を言った。


 ルカの足がソファの上でブランブランと動いている。嬉しさを体で表現しているのだ。悠太はそれを見るとなおさら嬉しくなった。


「……すっご〜い」


 彼女は小さい声を上げて悠太を見た。


「平気。平気」


 悠太はルカに笑いかけた。




 ルカはガッツポーズとると立ち上がり、凱旋した勇者のように声を張り上げる。


「ゆうさん、送って来まーす!」


 今度は、8人ほどの女の子が見送りに豪華な花道を作る。その間を悠太とルカは店の外まで腕を組んで歩いて行った。ルカは悠太に涙ぐみながら話した。


「ね。ゆうさん。今日はゴメンね? 無理させちゃって……ホントにありがとう! でも、ルカ今日は威張って店に戻れるよ。ホントに嬉しい。ありがとう! ……ねぇ。ゆうさん」

「え? なに?」


「……なんでもない。あとでメッセージ送るね。じゃ気を付けて……ね?」


 二人は名残惜しそうに別れた。悠太が振り返ると、その度に彼女は嬉しそうに手を振っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はキャバクラ行ったことないですが、他のキャバ嬢と楽しげに飲んでいたくらいで、傷付くような女が勤めていないことくらいは分かります。 お金が尽きなければ良いのかもですが、これはいかんですね!…
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