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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男とキャバクラ篇
3/202

第3話 君のために

 それから二人で同時にルカの店に入る。彼女は一度奥に引っ込んで肌の露出の多いドレスに着替えて出てきた。


 早い時間だからか、あまり客もいない。二人は奥の目立たない席に座っていつものようにお酒を飲みながら楽しいおしゃべり。


 そこに男性スタッフが来て、彼女を呼んだ。悠太はこっそりと二人が行った方に歩み出て覗いてみると、なにやら叱られているようだった。

 彼女が暗い表情でこちらに向かってきたので慌てて席に戻って座った。


「ごめんね~。ゆうさん。ちょっと軽いミーティングだった」

「…………」


「あれ? どうしたの? 怒った?」

「……なんの話だったの?」


「え? やだ……。だから軽いミーティングだっただけだよ」


 悠太はグラスをテーブルに置くと静かな店にコトリという音が響く。


「そんなに信用できない? 怒られたんだろ?」

「え? えー。……ウン」


「どんなこと?」

「……ウン。ルカ指名してくれるお客様、ゆうさんしかいないから、売り上げなくて……。……ゆうさんにもっと高いお酒進めろって」


「……やっぱり」


 ルカは自分と席に着いているにも関わらず呼び出しての叱責。それは悠太自身がそれほど豪遊しないから、ボーイもなめてかかっての行動だと受け取った。


「でもさ、もういいんだ。どうせ辞めちゃうんだし」

「どのくらい足りないんだよ」


「え? ……でも、そんなんでもないよ。もうちょっとヘルプ頑張ればいいくらいだし」

「じゃ、高い酒飲むか? 行ってみるか?」


「え? やだ〜本気にしたの? ゴメン。ゆうさんのこと騙したんだ。……ウソだよ~」


 ルカは愛らしく、桃色の舌をペロリと出しておどけて見せたが、悠太の表情には決意があった。


「ルカ。ドンペリだ」

「え……。は、はい」


 ルカは、男性スタッフを呼んで悠太の注文を伝えると男性スタッフは嬉しそうな顔をして戻って行った。


 しばらくすると、男性スタッフが大声を張り上げた。


「ハイ! ドンペリ入りまぁぁ~す!」


 その声で「わっ」と湧く店内。他の女の子たちも席から立って華々しく拍手している。

 運ばれた酒は二人の前に置かれ、そこだけゴージャスなオーラが漂っていた。


「……ルカ、初めてだから注ぎ方わかんないんだけど」

「……マジ? まぁ、普通に。オレも初めてだし」


「え? ゆうさんも? よかったぁ。じゃ次までに練習しておくってことで。今日は普通に」

「ウンウン」


 その後、ワインも頼んで二人は二時間ばかり楽しく酒を呑んだ。時間が来ると男性スタッフが伝票を持ってきた。見ると15万円だった。

 悠太は、すました顔をして財布から現金を取り出し、男性スタッフに渡すと彼は飛び上がらんばかりに驚いたあと、それを受け取りとても嬉しそうな顔をしてお礼を言った。


「ありがとうございまぁす!」


 大きく頭を下げ、さらにルカにも「いいお客様だな」と言うような目配せを送る。ルカも目をパチクリさせていたがようやく言葉を発した。


「うえー。……ゆうさん、お金持ち……。正直払えるのかドキドキしてたぁ~」

「ふふ。まーねぇー」


 悠太が席を立つ。男性スタッフがルカの他に客が着いていない女の子を数人連れてきて悠太を丁寧に店先まで送らせた。こんなことは今までされたことがない。大輪の花の花道。大勢に頭を下げられ悠太は気持ちよく意気揚々と家路についた。


 部屋に帰ってすかさず、息を飲みながら黒い箱に抱きついた。


「胆嚢は? 日本円でいくらだ? いくらもらえるんだ?」


『Ai$09ちちちフフ55*#。いr瓶むら?#$FP!936◆そたフフ★溢蟹VuKaqスッ6』


 おなじみの光文字──。しばらく待つと新たな文字が表示される。


『516万円です』


 悠太の胸が大きくドキリと鳴る。


 516万円はやはりすごい。金額でどれだけ重要な器官か分かったような気がした。しかし、無くても他の臓器で役割を補えると聞いたことがある。悠太は意を決した。


「日本円で516万円欲しい」


『代償は?』


「胆嚢だ」


『Ai$09ちちちフフ55*#。いr瓶むら?#$FP!936◆そたフフ★溢蟹VuKaqスッ6』


 長い光文字の羅列。このパターンは叶えられるパターンだ。しかし、この間が悠太にとってはヒドくイヤな時間に感じられた。


『叶えられました』


 箱から白い光が伸び悠太の前に積み重なる札束。その後はおなじみの赤い光が腹部に当たる。悠太はその部分を守るように押さえて少し身をよじる。だが終わったように光はフッと消えた。


 これで胆嚢はなくなってしまったのだ。目の前にある500万を見つめる。引き換えだ。二度と戻らない内臓。それの対価。


 体の見えない部分だから別にいいと思ってたが、とてつもないいやな感覚。いわゆる身を削るとはこのことだ。文字通りだと、激しく後悔した。しかしもう失われたものは戻らないのだ。

 悠太はもうしない。体を削って金を得るなんてことをと誓い、押し入れを開けてダンボール箱の中に黒い箱を乱雑に放り投げて蓋をした。

 もう見たくない。使いたくないと言う意思の表明だった。


 そして出て来たお金のうちから200万円を取り出し、それを見えないようにキレイな箱に入れてさらにラッピング包装し、またルカのいる店に戻って行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 身体の一部を引き換えに……凄くヤバ一部香りがプンプンです! この先を読み進めたら、さらにゾクゾク出来ると予想! どんどん読みたくなる素晴らしい作品に巡り合いました!
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