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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男と正義の味方篇
26/202

第26話 正義の犠牲

 虚像である鈴村きゃんの言葉を受けバスターマンは背中をバネにして飛び上がり、見事に大地に着地した。


「ありがとう! キミの歌に元気づけられた!」


 バスターマンは再度構え直す。その様子にデビルジャックはうろたえた。


「うぬ! まだ立てる力が残っていたのか!」

「デビルジャック! お前の悪行は今日限りだ。これで決める!」


 バスターマンは天高く飛び上がる。地上に小さくデビルジャックが見えた。


 必殺技だ!


 バスターマンが投げられた槍のように、放たれた弓矢のように足を構えて蹴りをくりだす!

 その足はデビルジャックの体を突き抜け大爆発!


 バスターマンは身を翻して飛び上がり空中からその様を見ていた。


「ハァ! ハァ! ハァ! か、勝った!」

『おめでとう! バスターマン!』


 バスターマンは照れながら頬を掻いて、虚像のきゃんにお礼を述べた。


「ありがとう。キミのおかげさ」

『すごいね。デビルジャックの動力は原子炉だったの。ものすごい核爆発。もう近隣の土地は生物は住めないわね』


「……え?」

『面白かったね! ヒーローごっこ!』


「は? ヒーローごっこ?」

『ごっこじゃん。自分で作った敵と戦って自分で倒す。私もガラにも無くノリに乗っちゃったよ』


 バスターマンは地上を見下ろした。

 真っ赤に焼けた大地。20km四方程めちゃくちゃだ。

 バスターマンを追い回していたヘリや戦闘機も墜落して飛んでいるものは鳥もいなかった。


 たしかにヒーローごっこだ。巨大な悪の化身を倒したかった。悪の組織を壊滅したかった。しかしそんなものはどこにもない。

 この真っ赤に焼けた大地は自分が作ったもの。自分の欲望が作り出した世界。

 こんな……。こんなハズではなかった。


 そんなことはお構いなしに虚像の鈴村きゃんは楽しげに煽った。


『さぁ! バスターマンの次回の敵はなんなんだ? 地底人が作ったロボットか? 宇宙から来た侵略者? それとも海底に潜む大怪獣? さぁ、代償をどうぞ!』

「…………」


『あり? どうしちゃったの?』

「これ、現実なのか?」


『もちろん! バスターマンが悪を倒しました! すばらしい! エクセレント!』

「いや、街が壊滅」


『うん。そうだね。そんなの問題じゃないよ。悪を倒すのが目的なんだから』

「どのくらい、人が死んだんだ?」


『あ〜。20万人くらい? 人が集中してるところで戦ったし。デビルジャックの核爆発で避難場所に逃げた人にもとどめー。みたいな? いわゆる未曾有の大惨事。経済もめちゃくちゃ。復興もままならないだろうね。でも、将来ここはバスターマンが戦った記念の地とかって言って観光地になるよ』


 バスターマンはようやく頭を抱えた。ここにはたくさんの人が住んでいた。

 その人は瓦礫に埋もれてしまったのだろう。自分たちに踏みつぶされたのだろう。炎で焼かれたもの。煙で窒息したもの。

 学生も親子も余生を送る老人も産まれたばかりの赤ん坊も──。


 やっと分かった。自分の正義が独りよがりだったことを。これは正義ではない。ただのヒーローごっこだったのだ。


「なぁ。オレの命を使って、ここを元通りにできるか?」


『え? 叶えられません』

「……え?」


『無理でしょ。無理無理。たった一つの命で20万の命と復興なんて虫がよすぎるよ』

「な、なんとかならないのか?」


 黒い箱からの信号で作られた鈴村きゃんは画面の中で深くため息をついた。


『まったく。人間ってものは分からないね。まぁ。善処しましょ。Ai$09ちちちフフ55*#。いr瓶むら?#$FP!936◆そたフフ★溢蟹VuKaqスッ6』


「な、なんだ?」

『……そうだね。じゃ、命と引き換えに1日半前に戻しましょう。それならバスターマンの被害にあった人は誰もいないよ。時間軸をいじるくらいわけない』


「そうか。じゃぁ、それで頼む」


『叶えられました』


 バスターマンの体が完全に停止した。そのままゆっくりと地上に落ちて行く。時空が歪んで時が巻き戻されてゆく。

 落ちてゆくバスターマンへ赤い光が照射され、地上に体が到達する頃にはまったく姿が消えてしまった。


 そして、そこには無傷の街があり、青葉の街路樹の下を人々は何事も無く歩いていた。





 バスターマンであった英太の部屋では黒い箱がほのかに光っていた。誰も見ていないのに、そこに文字が流れている。


『街は何事もなかったように復旧した。だがその影にバスターマンの活躍があったことを、人々は誰も知らない。 www www』


 黒い箱は楽しそうに、ヒーロー映画のナレーションのように締めた。

時間がさかのぼる。黒い箱はそこにもあった。

箱を手にしたのは大音楽家だった。


次回「ルーイと英雄篇」


ご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「バカ! 無人の村じゃ意味がないだろう! もっと街で暴れさせろ!」 ↑ 自分の欲を満たすためにマッチポンプで大虐殺! 最もたちの悪いタイプの無自覚の悪って感じで、かなり皮肉の効いたお話だ…
[一言] 世界を救おうと思った男が、『自分がいなくなることで世界を救った』という結末が切なく、かつ面白かったです。
[良い点] ママが楽しそうで何よりです…(涙)。 この黒い箱は人の欲望を増大させるのか、思考を狂わせるのか。 英太はもともと、もう少し考えたほうがいい人物のようですが。でも、けして悪人というわけでは…
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