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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男と正義の味方篇
21/202

第21話 正義の味方参上

 黒い箱……。それは願いを叶える箱。だが、願いを叶える代償に、肉体の一部を差し出さなくてはならない──。




 夜11時。夜の暗闇。通りには人の姿もだいぶ少なくなっていた。その通りを少しだけ左に曲がる──。

 石の門がある広い公園。日中は子育てをする親子でごった返すこの場所も、真夜中では人の姿は多くない。

 しかし芝生のある広場の真ん中で空手着を来たガタイのいい若い男が鍛錬をしていた。


「シ! シ! ウシ! ウシ! ハ! ハ! エエイ!」


 この時間だ。観客と言えば街灯の周りに飛ぶ虫だけ。男の日課だ。もうすでに2時間ほど一人で鍛錬している。激しい動きに疲れた彼は青々とした芝生の上にどかりと横になって倒れた。


「ハァ! ハァ! ハァ! ハァ! ハァ!」


 汗だくで、息を切らしている。呼吸が落ち着き、大きく息を吐き出した。


「よし。もう、ワンセット行っとくか!」


 男は起き上がろうと大地に手を付くと、左側だけ高い。男がそちらに目をやると、男からすれば小さい黒い箱があった。


「なんだ? こりゃ」


 拾い上げると、黒い箱は静かに光って表面に文字が現した。


『この箱はあなたの願いを叶える箱。使い方は、願い事を言う→その代償に箱はあなたの体の一部を頂きます。あなたの体がなくなれば願い事は終了です』


 男はその文字に驚き、黒い箱の画面にむしゃぶりついた。


「願いを叶える! 願いを叶えるだって!?」


 男は辺りを見回し、空手着の懐にそれをしまい込んで足早に帰って行く。

 今度、黒い箱を手にしたのは長井(ながい)英太(えいた)という男であった。


 帰っていった場所は英太の小さな部屋。古いアパートのサビだらけの階段を上った二階。狭く汚い。カーテンもないので、畳が焼けていた。貧乏暮らしだと思われる。

 そんな中、英太は丁重に黒い箱を小さいテーブルの上に置いた。


「どんな願いでも叶えてくれるのか?」


 英太の問いに黒い箱は光った文字で答えた。


『もちろん。ただし、体の部品によっては叶えられないかもしれません』


「そーか。そーか」


 英太は、スケッチブックを取り出し、それを黒い箱の前に開いた。そこには彼が書いた絵がかいてあった。ものすごく精密に書かれたロボットのようだ。

 正面を向いた姿。斜め横、横、後ろ。顔の拡大図、手のひらの拡大図。そして、腕にゴテゴテした細身のブレスレット。


「オレは、ヒーローになりたいんだ。このブレスレットのボタンを押すとこれに変身する。これはパワースーツだ。カラーリングは銀を基調として他に赤と青。カッコイイだろ?」


『www』


「ん? どういう意味だ? インターネットか? パソコン持ってねぇから分からねぇな」


 英太は構わず説明を続けた。


「パワースーツに着替えると、オレは通常の一万倍の力を出すことができる。丈夫さも一万倍。そして悪を倒すんだ! どうだ? できるか?」


 黒い箱は応えた。


『代償は?』


「さぁ、そこが相談だ。なぁ! オレはヒーローとして活動するわけだから足とか腕とかは失いたくない。ピンピンとした体で戦いたいんだ。逆に何が必要だ? 言ってくれ」


 英太のテンション高めの回答に、黒い箱はいつもの文字が出る場所に、右、左と白い光を走らせた。


『腎臓1つで対応できます』


「なんて読むんだ? なにぞう? 心臓か?」


『じん臓です。人間に二つある臓器です。一つ失っても生命に異常はありません』


 英太は大して考えもせず手を打ってニンマリと笑った。


「そうか。じゃ、それでやってくれ!」


『叶えられました』


 英太の腕に白い光が伸びる。そこには英太が絵で描いていた通りのゴテゴテした銀色の細身のブレスレットがあった。


「おーすごい!」


 次に、英太の腹部に赤い光が伸びる。そして、それは一瞬で消えた。


「ん? 今のでじん臓は消えたのか? そうか」


『願い事をどうぞ』


「いや、もう充分だ。変身!」


 英太は腕のブレスレットのボタンを押した。男の体は光に包まれ、たちまち体にパワースーツが装着された。


 英太は自分の体をじっとりと眺めた。足元、足、腰、腹、腕──。

 手のひらを見てみる。鏡へと走り全身の姿を見る。どれをとっても完璧だ!


「すげぇ! すげぇ!」


 英太は構えて、ずっと考えて続けていた変身ポーズをとった。


「神が裁けぬ悪を倒す! バスターマン参上!」


 黒い箱には絶えず『www』と光文字が流れている。そんなことお構いなしに英太は部屋の窓を開けた。


「さぁ! 夜のパトロールに出発だ! とぅ!」






 ズッドン!



 激しい落下音。英太は地面と衝突した。英太はすぐに二階に上がってきて、箱に叫んだ。


「なんで飛べねぇんだよ!」


『飛ぶ? 飛ぶとは聞いておりません』


「なに!? オレ、言ってなかったか?」


『はい』


「──飛べるんだ……。常識だろ? ヒーローは変身すると飛べるの! 最高で……そうだな時速300kmでる。いいか?」


『wwwwww』


「……とにかく、そっちのミスだ。飛べるようにしろ」


『叶えられません。代償は?』


「なんだと?」


『こちらのミスではありません。代償を言ってください』


「なにぃー! クソ! じゃぁ、いいよーだ!」


 黒い箱の回答に英太は拗ねて変身を解き、布団に寝転んだ。





 次の朝。英太は仕事に向かう。警備の仕事。時給は1500円。それが英太の生活だ。仕事をして夜はトレーニング。

 その仕事に行く途中、女の子が道で泣いているのが見える。

 ヒーローたるもの困ったものは見捨ててはおれない。英太は膝を折って女の子に訳を聞いた。


「どうしたお嬢ちゃん?」


 女の子は黙って空を指さすと、そこには赤い風船が飛んで行っていた。普通であれば手が届かない。

 普通であれば──。

 しかし、英太には特別な力があるのだ!


「お嬢ちゃん! ちょっと待って! ちょっと待って!」


 英太は女の子の前から立ち上がり、誰もいない路地裏に入る。人がいないことを確認した後でブレスレットのボタンを押した。


「変身!」


 あっという間に英太の身にパワースーツが装着された。


「神が裁けぬ悪を倒す! バスターマン参上! とお!」


 英太は風船目掛けて高くジャンプする。しかし、すぐに地面に足がついた。


「……飛べないんだった」


 風船はむなしく雲の間へ消えてしまった。

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