第202話 初代
さてバスターマンとバスターティンクルである。
二人は海上に、ヒホリント星人の巨大ロボットである、プリンス・ジョンを運び終えていた。
二人の掲げられた両手にはプリンス・ジョンの背中である。
プリンス・ジョンはジタバタともがいているが、今からバスターマンたちの攻勢である。
「ふっちゃん。必殺技を使うから、手を離して、ロボットから離れて欲しい」
「で、でもバスターマンの左腕は動かないのよ?」
「なあに。大丈夫だから心配しないで」
二人は大きく頷き合う。
バスターティンクルは、プリンス・ジョンから手を離して、危険のない場所に陣取る。
バスターマンは力を込めてプリンス・ジョンを片手で放る。
当然巨大なプリンス・ジョンはそれほど高くは放りあげられなかった。
しかしバスターマンには絶好の間合いだったのだ。
バスターマンはその場所から宙を蹴って右足を前へと出して、まるで弾丸のようにプリンス・ジョンを蹴った。
「バスターキーーック!!」
それはプリンス・ジョンの内部に飛び込み、プリンス・ジョンの腹部にある必殺兵器を突き破って外に出た。
プリンス・ジョンは内部から爆発を始め、連鎖的に攻撃していなかった場所まで爆発炎上を始めた。
バスターマンは、バスターティンクルの場所へと飛び、彼女を守るように抱き締めた。
「勝ったね」
「ええ」
プリンス・ジョンの爆発は続き、所々にある指令を送るような場所が次々と壊れて行くのが分かる。
先の巨大ロボットの時もそうだが、このヒホリント星人は敗けと悟ると逃げ腰となる。
戦闘機や脱出用の飛行機が飛び立つのが分かった。
しかし、逃げたものも上司から叱責されたのか、戻るか逃げるか躊躇しているところを味方から撃たれて海に落ちるなどという同士討ちがおきていた。
おそらくこうだろう。
友情にかまけて責任転嫁をするのが得意な民族だ。逃げるものに対してそのような情に訴えたり、腹立ち紛れに殺しあったりしているのだろう。
完全な内部瓦解である。
そのうちに大空に巨大なヒホリント星人の映像が浮かぶ。それは指導者ダーの姿ではなかった。
『地球の諸君。私は新しい指導者クラーである。我々は罪人ダーを指導者より更迭する。だから母船を見逃して欲しい。我々は元々平和を愛する民族なのだ。今まで通り宇宙を旅することにするよ……』
しかしその言葉の途中で、映像は乱れ爆発したように見えた。宇宙に大きな光が見える。それはヒホリント星人の母船の爆発であった。
指導者ダーは完全な敗北と、自身が追放され地球で死ぬこととなったことを悟り、民族を巻き込み母船を自爆させたのだった。
そして巨大ロボット、プリンス・ジョンも同じく爆発した。それが指導者ダーの決断。死なばもろとも。
ヒホリント星人の絶滅である。
◇
百里基地より援護に出た戦闘機たちは、ヒホリントのロボットが海に沈むのを確認した後、バスターマンたちにお礼を言って基地に帰っていった。
バスターマンとバスターティンクルも手を繋ぎあって空を飛んで帰って行く。
「助けに来てくれてありがとう、ふっちゃん」
「ふふ。手を繋いだときの英太さんの驚きかた。思い出したら面白いわあ」
「おいおい、からかうなよ。しょうがないだろう? 誰か分からなかったんだから」
「ふふ。でもとっても誠実な人だって分かりました」
英太はパワースーツの中で赤くなった。
「ところで、どうやって変身を?」
「この前、英太さんが私にバスターマンブレスレットをつけて変身させてくれたじゃない?」
「うん」
「あの時のアシヤギーンの変身ブレスレットよ。持ち帰ってたの」
「い? あの怪人の?」
「そう。このブレスレットはその人のヒーローイメージになるんだって。だから私はこのビジュアルよ。アシヤギーンはあんな怪人みたいになったのは、元の人の醜悪なイメージだったんだわ」
「なるほど、そうなのか……」
「これからもサポートするよ。バスターマン」
「ありがとう!」
英太は心の中で思った。バスターマンブレスレットと形状が同じなブレスレットだ。おそらくそれも黒い箱から作り出されたのだろう、と。
ともかく凱旋である。バスターマンはバスターティンクルを連れて安倍総理へと報告に総理官邸へと向かった。
二人して総理官邸へ降り立つと、安倍総理と岡官房長官、たくさんの記者が笑顔で待っていた。
バスターマンは安倍総理へと勝利とヒホリント星人滅亡を伝えた。安倍総理は喜んでバスターマンと握手をした。
「ありがとう、バスターマン。君のお陰でまたまた地球は救われた!」
「いえ、当然のことをしたまでです」
そう答えるバスターマン。回りの笑顔。しかしそれは好奇の笑顔である。
「ところで、元祖バスターマン、そちらの二代目はどなたかな?」
「いえ総理、それは……」
それに記者たちも質問する。
「初代バスターマン。二代目は女性ですがどういう関係で?」
バスターマンは両手を振って否定した。
「いえ、元祖とか、初代じゃないです。こちらはバスターティンクル。私の……そのぉ……恋人です」
と照れながらの言葉。バスターティンクルも頬を押さえて照れていた。
「そうですか、バスターティンクル。何かお言葉を」
「どういった経緯でお付き合いを?」
「バスターティンクルさんはおいくつですか?」
記者の興味はバスターティンクルに向きまくりだ。それをバスターマンは守るように抱く。その姿にも回りはワッと沸いた。
「も、もういいでしょう。本日はこれで」
バスターマンは自分とバスターティンクルのインビジブルボタンを押すと二人の姿はフッと消える。
突然消えた二人に記者たちは辺りを確認するも見つけられるわけがない。
安倍総理は心の中で、後でバスターマンに二人の仲を直接聞こうと思う気持ちが沸いていて、終始笑顔だった。
バスターマンはバスターティンクルを抱いたまま空へ飛び上がり、病院のほうへ。
「ああ面白かった!」
「面白くないよ。声でふっちゃんの正体がバレるだろ?」
「あー、あるかも」
「バスターティンクルは出来れば今後は登場しないほうがいいかもなぁ~……」
「なんでよ? ちゃんと援護するよ?」
「いやあ、病状が落ち着いたらね……。危険だし」
「あ、そっかあ~」
二人は長い間ベッドを開けていたし、英太に関してはギプスを壊していたので、しこたま怒られた。
しかしこうして地球の危機は去り、平和が訪れたのである。
この後、支持率が大幅に伸びた安倍総理の政権は国会にて困難だったライフライン復旧のための予算と、防衛のための予算をすんなりと決めることが出来た。
全ては安倍総理の思惑通りだったのである
◇
そして黒い箱。
それは山中より人の多い都市部に向けて転がり出す。表面には『www』という光る文字を表示しながら。
新しい客を求めて──。
【次回予告】
白い玉は、黒い箱に復讐を誓う。自分は選ばれたものという意識が強い。
そんな中、虐待を受け放置された幼児を見つける。白い玉は親身になって子どもを助けるのであった。
次回『白い玉とネグレクト篇』。
ご期待ください。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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