表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
総理と式神篇
200/202

第200話 変貌

 バスターマンは電磁網を抜けて目を丸くする。何しろ、目の前に自分と同じヒーローの姿があるのだ。

 しかも曲線から見て女性。


「あ、ありがとうございます。あなたは?」

「私? 私はバスターティンクル!」


「バスターティンクル!」

「バスターマンの援護に来た、謎の美少女よ」


「へースゴイ! 助かります!」


 バスターティンクルは、バスターマンの横に並んで、素早く腕を絡ませながら恋人繋ぎをした。

 バスターマンはあせる。


「あの……。彼女います」

「なにいってんの、私よ!」


「……? え? ふっちゃん?」

「そうだよ。バスターマン! さあ! 目の前の敵を倒しちゃおう!」


「お、おう!」


 バスターマンの心に沸き上がる興奮。助けに来てくれたのは自分の恋人が変身した姿。

 そこに、自衛隊の戦闘機が編隊をなして現れた。


『バスターマン。私です。高木二等空佐です。バスターマンの救援を命じられましたが、少し遅かったようですね』

「た、高木さん!」


『手を繋いじゃって、恋人さんですかあ?』

「え、ええ。まあ……」


 照れるバスターマンに高木二等空佐は続ける。


『いやいいですね。私にも妻がおりまして、子どもも娘が二人。早く帰りたいものです!』

「いやいや高木さん、それフラグですよ。戦闘中にやめましょう」


『あ、そうでした! さあバスターマン。援護させてください。いつもの調子でよろしくお願いいたします』

「はい!」


 バスターマンは左腕が使えない。しかし、そちら側にバスターティンクルが寄り添って飛ぶ。


 二人は雨のようなレーザー光線をくぐり抜け、巨大ロボットの右足へとたどり着く。

 バスターマンはそれに手を掛ける。左腕はただ当てるだけ。そこにバスターティンクルがそれを支えた。


「いくよ!」

「うん!」


「せえーの!!」


 巨大ロボットはぐらつく。バランスを失ったように。それもそのはず、右足の制御が効かず持ち上げられて行く。

 巨大ロボットはふらついて背中を地面に倒そうとしたところで、その背中は大地に着地しなかった。

 すでに背中にはバスターマンとバスターティンクルが音速で回り込んで支えていたのだ。

 巨大ロボットはジタバタともがいている。腹部のレーザー兵器は空を向いていた。これでは地上を焼くことができない。


「さあこれを海まで運ぶよ」

「ええ。バスターマン!」


 二人の戦士は大地を蹴って海のほうへと向かう。最終決戦の場所へ。





 その頃、安倍(あべの)総理は頭を抱えていた。未だにバスターマンが攻勢に出たことに気付いていない。そこに、岡官房長官が慌てて入ってきた。


「そ、そ、そ、総理」

「どうしたのかね、岡くん。戦況はどうだ?」


「そ、そ、そ、それが……」

「なにかね、早く言いたまえ」


「バスターマンは、別のバスターマンに助けられ、反撃を開始しました」

「おお、そうかね! 素晴らしい」


 そして安倍(あべの)総理は考える。

 バスターマンは黒い箱に願って変身できるようになった。新しいバスターマンもそうなのだろうか、と。

 現在の技術力ではあのようなヒーローを作ることは難しい。やはり箱の力なのであろうと考えていた。


「そ、総理……、あれは……?」


 考えているところに岡官房長官の声だった。見ると執務室のドアがゆっくりと開く。

 しかし、そのドアにかけられた手には針金のような毛が生えている。爪も鋭く長い。

 それはのっそりと現れる。身の丈二メートル半もある、大きな怪物であった。

 それを睨み据える安倍(あべの)総理とは対照的に岡長官は震えながら腰を抜かす。


「そ、そ、そ、総理……」

「岡くん。君は別の部屋に逃げたまえ」


「し、しかし……」

「心配するな。私なら大丈夫だ」


「そ、総理も逃げてくださいよ」


 岡長官は、這いつくばりながら別のドアから出る。安倍(あべの)総理は怪物へと向き直った。


「それで? そんな格好になってこれからどうするというのかね、芦屋くん」


 芦屋と言われた怪物はピクリと肩を動かす。その怪物の姿は、昔話に聞く『鬼』の姿そのものであった。





 時間は少し遡る。

 バスターマンとなっていた鈴村きゃんに倒された芦屋は、地面を這いつくばって自分の隠れ家を目指していた。

 変身を解かれ、地上に衝突し肋骨は数本骨折し、左足も骨折していたが、生き残れてはいた。

 なんとか隠れる小屋へと帰り、黒い箱に痛みを消し、これからどうすれば良いかの案を聞くつもりだったのだ。


 しかし体は痛む。這いつくばりながら野生の獣に恐れ、ただ一心に生きることを願って進んだ。


 その間、芦屋の中に渦巻くのは憎悪であった。バスターマンに邪魔された。ヒホリント星人に脅された。そして安倍(あべの)総理にバカにされた──。

 彼の中にはいつも安倍(あべの)総理がいたのだ。もう少しで勝てるところだった。もう少しで安倍(あべの)総理を見下せた。

 しかし今はどうだ。泥と草の中を這いつくばって日本中が自分の敵だ。


「くそ……、くそ……」


 沢の水を飲み、ただただ悔しさと共に自身の身体を引きずる。


 芦屋は、小屋までたどり着く必要はなかった。いつの間にか山中に黒い箱を掴んでいた。


『願い事を言ってください』


「おお……! これは……!」


『www www』


「復讐を……! 呪いを……」


『www……!!』


安倍(あべの)……清陸(せいろく)を……」


『www これは面白い』


 芦屋の体は変貌していた。恨み骨髄に達し、生きるために極限状態にあったからかもしれない。それは人ならぬものであった。


 芦屋は自ら、人を捨て恨みを抱いたまま『鬼』へと化したのだった。


 黒い箱はそれを見て、ただ笑うだけであった。


『kakakakaka。──もう叶えられません』

※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。

※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。

※感想を書かれる際には、政権に対する批判などはご遠慮願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ