第198話 ピンチ!
英太は病院のベッドの上で目を覚ました。多少痛みがある。医者も看護士も驚いて「奇跡」と言っていた。
まずは即死でもおかしくない状態だったようだ。頭も強く打っており、危ない状態だったが、今は数ヵ所の骨折だけ。驚異の回復力だと喜びの声を上げていた。
しかし英太は、自身の右手首にブレスレットがあることに気付き、鈴村きゃんは危機から脱し、成田きゃんの噂の力で治療したのだろうと想像がついた。
次の日。簡単な検査のあと、院内なら散歩してもよいとのことで、早速鈴村きゃんの病室を訪ねた。病室は移動になっていたものの、鈴村の母親に声をかけられ、連れていかれたのだ。
病室のなかでは鈴村きゃんが待っていた。二人は笑顔で再会したのだ。そして互いの病状を気遣いあった。
一時間ほど一緒にいて、英太は病室に戻る。平和な日々だった。そんな日が四日続いた。
四日──。
英太が入院する前の日には、鈴村きゃんはバスターマンとなってアシヤギーンと戦闘した。
その日から五日。
つまり、ヒホリント星人と芦屋が約束した刻限。ヒホリント星人が攻めてくる日だったのだ。
いつもの何気ない日常。しかし、フヨフヨとなにかが漂う小さい機械音が東京上空から聞こえた。そして、地上が影でおおわれる。
人々は気になってその方向を見上げると、未確認飛行物体が三つ。二つは先日日本を襲った巨大ロボットとなった戦艦と同じ形。もう一つは、その二倍はある弩級の戦艦だった。
人々は恐れて建物の中や地下へと潜り込む。激しく鳴らされるサイレン。
その時国会は、ラドキォー星人襲来時に破壊されたライフラインの復旧の議論と、先日海に落ちたヒホリント星人のロボット調査の予算について話し合いをしていた。
その席上にいた安倍総理にすぐさまヒホリント星人襲来の報が入る。
安倍総理は、国会を中断させ、緊急対策を練るべく総理官邸へと戻る。
それと時を同じくして、ヒホリント星人の三隻の戦艦は東京上空にて合体して、巨大ロボットとなる。
それが地上へと降り立ち、破壊活動を始めた。
遠方にレーザー光線を飛ばすと、着弾地点は爆発炎上する。それは隣県にまで到達した。
また、巨大な足で移動し都市を粉砕する。またもや日本に甚大な被害を被害をもたらす宇宙人の侵略である。
総理官邸。安倍総理が自分の執務室に入ると、そこにはヒホリント星人の指導者ダーの3D映像がすでに立っていた。
『やれやれ、安倍くん。君は指導者の立場にいて、国民を逃がそうとしなかったのかね。これから我々が破壊活動して、ここの国民が亡くなられても、私はなんの哀れみも感じない。全て君の責任だよ』
「君は、ヒホリント星人の指導者でダーと言ったか。まったく、こちらに責任転嫁とは恐れ入った。宇宙にも法があるならば、君は人のものを奪う無法者だろう」
『それは違う。強いものは弱いものから譲られて当然なのだ。君たちも弱い動物の肉を食らうだろう? それに動物が不平を漏らしたからと言って善処するのかね?』
「問題のすり替えは止めて貰おう。私には同族を守る使命がある。そのために、君たちを攻撃する!」
『ふっ。またバスターマンかね。我々とて何度もやられるわけにはいかん』
そこまで言うと、ダーは一方的に通信を遮断する。安倍総理はスマホを取り出し、バスターマンこと長井英太の番号をタップした。
その時、英太は鈴村きゃんの病室で談笑していた。しかしそこに、外から中から警報が鳴り響き、院内放送で宇宙人襲来のアナウンスが流れ、全ての人は院内に留まるようにとのことだった。
英太は急いで立ち上がるものの、骨折した肋骨が痛み、苦悶の表情を浮かべる。さらに左腕はギプスで固められ、首から吊られていた。
鈴村きゃんは立ち上がった英太に驚いて思わず止めた。
「え、英太さん、行くの? ダメよ、そんな体じゃあ!」
「いや、ふっちゃん。俺以外誰もあれに対応出来ないよ」
そこに、英太のスマホが着信を知らせる。見るまでもなく安倍総理だ。英太は顔を引き締めてそれを取る。
「はい総理。バスターマンです」
『うむ。何度もすまない。またもやヒホリント星人の襲来だ。我々は君に頼るしか方法がない。迎撃を頼みたい』
「はい。お任せください」
『うむ。頼りにしている。二度も我々の勝利だった。相手には備えがあるかもしれない。一度遠巻きに向こうの出方を見ることも大事だ。君を失ったら我々は座して死を待つほかない。くれぐれも注意してくれたまえ』
「はい!」
英太は通信を切る。鈴村きゃんはそれを心配そうに見ていた。そんな鈴村に英太は微笑みかける。
「心配いらないよ。ふっちゃん。パワースーツがあれば、俺は誰よりも安全なんだ」
「そ、そうかな……。でも気を付けて、バスターマン」
「うん。変身!!」
英太は鈴村の目の前で変身する。たちまち英太は光に包まれ、バスターマンの姿となり、包帯やギプスは弾けた。
左手はだらりと下がる。パワースーツに包まれたが、骨折は治ったわけではないのだ。
それにも構わず、英太は病室の窓を開けて飛び出した。
バスターマンが大空を飛ぶ。ヒホリント星人の巨大ロボットまでひと飛びだ。
テレビカメラが、すぐにその姿を捉える。
『皆さん! バスターマンです! バスターマンが来てくれました!』
日本国民はバスターマンの到着にテレビの前に釘付けとなった。
そんなバスターマンの目の前に、大きな指導者ダーの姿が空中に写り出す。ヒホリント星人からの通信だった。
『やあバスターマン。君には手痛い攻撃を何度も受けた。我々は君に復讐するよ。その方法を友人の芦屋が教えてくれた』
「な、なんだと!?」
『君は強い。我々の技術では勝ち目がない』
「だ、だったら今すぐ宇宙へ帰れ!」
『ふふ。それは正攻法では勝てないという意味だよ。君はまんまとこのモニターの前に立った。頭はあまり良くないようだな』
その時。バスターマンは、辺りを網のようなもので囲まれていることに気付く。それは光の網で、徐々に狭まりやがて檻のような形になった。
「ああ!!」
『はっはっは。君は白兵戦が得意だが遠距離攻撃はからきしだ。そうされるとなにも出来まい。同胞を殺された恨みだ。私も君の同胞を、君の目の前で皆殺しにしなくては気が収まらん』
ダーがそう言うと、ロボットの腹部が開き、そこには輝く短い砲塔がある。しかし巨大なエネルギーを感じる。バスターマンは叫んだ。
「やめろ!!」
『ふふふ。止めるわけないだろう。紹介させてもらうよ。これは我がヒホリント星人の誇る最強ロボット、プリンス・ジャック。中央の砲塔は星一つ破壊するレザー光線を撃つことが出来る。まあ星を傷付けないよう出力は絞るが、これを照射すれば地上は焼けて君たちは全滅するというわけだ。小気味良い。はっはっは!』
ダーの高笑い。それを日本国民はテレビの前で震えながら見ていた。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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