第197話 満身創痍
空中を切り揉むように、オートモードのバスターマンは空を急ぐ。途中でインビジブルモードにして姿を消し、病院には障害物を通り抜けるモードを使って、最終的には自ら変身を解いた。
見覚えのある病院の自動販売機コーナーに鈴村きゃんはパジャマ姿で立っていた。
「ウソ……」
と独り言を呟く。オートモードの安心感と速すぎる動きにしばらく硬直。
今までの体験を思い出して、そこから逃れられたことに安堵のため息をつく。
「そういえば英太さん!?」
鈴村きゃんが、自動販売機コーナーから飛び出そうとすると、目の前に呼吸器を付けられストレッチャーで運ばれてゆく英太の姿。
それを心配そうについてゆく鈴村の母親。鈴村きゃんは驚いて母親を捕まえた。
「お母さん!」
「ああふっちゃん! 無事だったのね! あなたの病室、また壊れてて英太さんが壁の下敷きになってて、今は意識不明なのよ!」
「え……?」
鈴村きゃんは固まった。そしてストレッチャーがエレベーターへと消えるのを見ていた。
鈴村きゃんは、またもや病室が移動となった。見つめるのは英太に付けて貰ったブレスレット。
これのお陰で自分は死なずにすんだ。しかし英太は──。
会いたい。看護士を捕まえて聞くものの、病室は教えられないと答えられる。無事かどうかは、とりあえず無事との回答でホッとした。
鈴村きゃんの病状も動き回ったせいで芳しくなく、発熱してしまい、そのまま寝込むこととなった。目を覚ますと、心配そうな母親の顔がそこにあった。
「英太さんは……?」
「あんた! 自分の病状が悪いのに人の心配してるんじゃないわよ。お母さんね、ふっちゃんが寝てる間に成田さんに連絡しておいたわよ。すぐに来てくれるって! もう、しばらく出歩くのは禁止ね!」
母親に叱られた。しかし、鈴村きゃんの中には、成田きゃんなら英太の傷も治せるのではないかとの思いが芽生え、彼女の到着を待つことにした。
幸いなことに、すぐに成田きゃんは来てくれた。鈴村きゃんの母親は、気が散らないように席を立った。
成田きゃんから握られる手により、鈴村きゃんの病状も回復してゆく……。
「は──……」
「どうやらよくなったみたいね。なに? 歩き回るようなことでもあったの?」
「あの。きゃんちゃん?」
「どうしたの?」
鈴村は意を決して、今日あったことを話した。成田きゃんは驚いていたものの、鈴村から見せられるバスターマンブレスレットにて確信する。
英太は黒い箱の持ち主だったことを。
「つまり、英太さんの傷を治して欲しいってことね。分けないわよ」
「ホント? でも病室が分からないんだ」
すると、ブレスレットのガイドボタンが点滅する。鈴村きゃんは、それを躊躇なく押すと、そこにはガイドの鈴村きゃん。
三人のきゃんが勢揃い。成田きゃんも驚いた。
「ウソ。すごい」
『あんまり驚かないね。一番冷静そうだわ。ま、あんたは秘密にしたいみたいだから黙っておくけど。バスターマンの病室は外科の8階。836号室よ。さ、早速行きましょ。私も元の場所に戻りたいしね』
と、英太の元に行くことを促す。しかし鈴村きゃんには色々と心配があった。
母親が戻ってくるのではないか? 病室に入れるのか? 英太は本当に無事なのか?
『大丈夫。この病院内は全てスキャンしてるわ。母は待合室の週刊誌に夢中になってる。あと24分は読み終らない。バスターマンの部屋の出入りは激しいけど、今からあんたたちのスピードでたどり着く頃から4分の間、誰も入ってこない。その間に実行するのよ』
鈴村きゃんも、成田きゃんもそれに大きく頷いた。
鈴村はブレスレットを握りながら進み、成田きゃんはその後ろを追う。
やがて8階の836号室。丁度看護士が出てきてナースステーションに戻っていくようだ。
覗いて見ると、計器の音のみ。寝ている人物以外、誰も気配がない。ここから四分なのだと、二人は足音を立てずに入り込む。
英太は痛ましい様相だった。身体中に包帯が巻かれ、管が何本も付けられている。顔も包帯で固められており、呼吸をさせるための管が出ていた。
二人とも胸が潰される思いだったが時間がない。
成田きゃんは左手を取って握る。鈴村きゃんは右手を取ってその手首にブレスレットを嵌めた。
ガイドが点滅する。鈴村が押すと、ガイドから一言だけ。
『ありがとう』
それだけだった。しかし思い溢れる内容だ。鈴村は微笑んだ。
「こっちも終わったよ」
途端に、むせ込む英太。目を覚ましたのだ。二人はここに留まりたかったがそうもいかない。
すぐに病室を出ると、看護士が戻ってきたが、看護士もまた病室を飛び出していった。
「先生! 先生!」
それを聞いた二人は 微笑みあった。しかし成田きゃんは言う。
「でもね。完全には治せない。それはきゃんちゃんと同じ。細かいところと意識不明は治せたけど、肋骨と左腕の骨折は残ったままだからね」
「うん。でも大丈夫。ありがとうね、成田さん」
「はー、お腹減りすぎ。帰りにヤマさん呼んでなにか奢らせようっと」
「うふ。やっぱりそっくり」
「まーねー」
二人は途中で別れ、それぞれの場所へと帰った。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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