第196話 戦いの場
オートモードとなった鈴村バスターマンは、アシヤギーンを抱いて人気のない山のほうへと飛ぶ。
芦屋もさるもの、なんとかこの戒めをほどこうともがくものの、オートモードのバスターマンはそれを許さない。情などないのだ。
しかし芦屋も気付いた。
これはヒホリント星人との約束の場所であると。
約束の場所は、芦屋の隠れ家から36キロメートル圏内。芦屋のゴーグルに、圏内を示すエリアガイドが現れる。それはほんの数キロメートル先である。
これはしめたとアシヤギーンは思った。このままバスターマンが捕らえられれば目的は完遂だ。こんなに強くとも、ヒホリント星人の捕縛網には敵うまいと考えたのだ。
だがオートモードのバスターマンはアシヤギーンを放り出し、蹴り付ける。
アシヤギーンは、空中から一気に地表に叩きつけられてしまった。
やはり恐ろしいほどの力。ヒホリント星人やラドキォー星人を追い払った力だとアシヤギーンは思いながら、埋まった土の中から這い出た。
しかしそこにはすでにバスターマンが立って見下ろしている。アシヤギーンは腰が抜けそうだった。
バスターマンはアシヤギーンの襟首の部分を掴み上げる。アシヤギーンにはなす術がない。
だがよく見てみると、バスターマンの胸はふくよかに膨らんでいる。曲線も女性そのものだ。
やはりこれは、バスターマンの彼女なのだろうと思った。そして女性ならば泣き落としに弱いのではないかと。
「わああああ、すいません、すいません」
詫びの言葉だがバスターマンの折檻は止まらない。この怪人を殲滅しようと動いている。バスターマンは拳を振り上げてグルグルと回した。
しかし──。
「止めて!」
バスターマンの手が止まる。鈴村きゃんの言葉にオートがストップし、掴み上げたアシヤギーンを地面へと優しく置いて解放した。
鈴村の目の前のゴーグルの左下にガイドのきゃんが現れた。
『どうしたの? オリジナル。今は殲滅のチャンスよ?』
「だって、だって謝っているもの」
『相手は怪人。なにかを企んでいるわ』
「でも無抵抗なものを攻撃するなんて……」
アシヤギーンは鈴村のバスターマンの前にひれ伏した。
「どうかどうかお許しを。ほら、この通りです」
アシヤギーンの必死の謝罪。しかし内心は違う。
はじめは弱かった。そして今何かと会話のようなものをしている。ということは、体の制御を何かに任せているのではないかと思ったのだ。
その何者かとの交信を止めさせれば、甘く弱いだけのバスターマンの彼女なだけだ。そうすれば簡単だ。音速で彼女を抱えて約束の地まで飛んでしまえば、バスターマンは捕獲される。そうすればヒホリント星人との約束がかなう。
「すいません。つい出来心で。どうかどうかご容赦を……!」
乞い縋るアシヤギーンに鈴村は情にほだされてしまった。
「分かったよ」
「そうですか。ありがたい!」
そこにガイドのきゃんが話しかける。
『ちょっと。オリジナル。じゃあオートを切るっていうの?』
「うん。だって反省してるし」
『オートから、手動に切り替えると、次にオートにするまで時間がかかるよ?』
「うん。大丈夫でしょ。じゃ私は英太さんのところに帰るね。心配だし」
『はいはい。じゃ主導権はそちらに渡すね』
「はーい。ありがとー!」
アシヤギーンには分からない二人の会話が終わった。鈴村バスターマンは、アシヤギーンのほうを向く。
「じゃ、これ以上悪人にはならないでね」
そういって鈴村バスターマンは大空へと飛ぶ。しかしもたついている。空中で犬かきのような格好だ。
アシヤギーンはしめたと思った。これは先ほどの弱々しいバスターマンだと。
アシヤギーンは力を込めて大地を蹴り、鈴村バスターマンの腰にタックルする。
「ちょ……!」
鈴村の言葉がむなしく空へと置いてきぼり。鈴村の体はヒホリント星人の捕縛網へと連れられてゆく。
「わああああ! なに? なに? なに?」
アシヤギーンは勝利を確信して笑う。
「ふっふっふ。もうすぐヒホリント星人が網を張っている場所にたどり着く。そこにいけばお前は力を出しようがない。そしたら俺はヒホリント星人と約束を果たしたことになるのだ!」
『あっそう』
ピタリ。約束の地まであと数メートルの位置。しかしアシヤギーンが押せども引けどもバスターマンを約束の地まで押し込めない。
「な? どうなってる?」
『残念。現在のバスターマンはオートモードの真っ最中。あんたの出方を見たかったから一時的に手動に切り替えただけ』
そういって、バスターマンはアシヤギーンのブレスレットへと手を伸ばす。すると、バスターマンの手の中にブレスレットだけが残り、変身を解かれた芦屋は地上へと落下する。
だがそれほど高い位置ではなかったので、死にはしなかった。
『なるほど。ブレスレットにハッキングしてデータを取り込んでみて分かった。これがヒホリント星人の捕縛網ね』
鈴村の目にも、延々と目の前に赤いエリアが広がっている。
『まあいいわ。そこに飛び込まなきゃ捕まることはないもんね。さあオリジナル。帰るわよ』
「え? でもあの人は?」
『さあ? 目が覚めたら勝手に帰るでしょ』
鈴村きゃんはオートモードのバスターマンに引っ張られて病院へと向かっていった。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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