第195話 オートモード
アシヤギーンは、鈴村きゃんに覆い被さっている英太のシャツを掴んで後方の壁へと投げ飛ばす。
英太は壁に激突して、崩れた壁に埋まった。
アシヤギーンはそれを見ながら、舞い上がる煙の中、鈴村きゃんを手探りで掴み横に抱えた。そしてそのまま空へと飛び上がる。
上空に笑いながら舞い上がって、ヒホリント星人との約束の場所へと向かう。
「はっはっは! すごい力だ! これさえあれば思うがままだぞ!」
しかし横に抱いた鈴村に違和感がある。まるで女性とは思えない腰。先ほど痩せ細って見えたものとは違う抱き心地に、アシヤギーンは目を向ける。
そこには銀を基調とし、赤と青のカラーリングであるバスターマンがいる。
アシヤギーンは思わず手を放した。
「う! 貴様、バスターマン!?」
しかしバスターマンと化した鈴村は一時的に気を失ったようで、そのまま地上へと落下していく。
しかし落下中に気がついたようで目を開ける。そこは見下ろした地上。ずんずんと落下していく。鈴村は叫ぶ。
「きゃあああああ!!」
だが落ちたくないという思いが鈴村を空中に舞い上げ、大空を滑空し始める。
鈴村きゃんは何が何だか分からない。自分の手を見てみると、見覚えのある細い指はない。体には固められたパワースーツ。
あの時、英太は自分の腕に何かを嵌めた。そして言った。「変身」の言葉を。
鈴村きゃんは、空中で呆然としていたが、そのうちにガッツポーズを取る。
「きゃああああ!! すごい! 私、バスターマンになったってこと? わあーい! お外久しぶりー! それに空を飛んでるうー!」
そして両手を広げて空中を飛ぶ。まるでむささびのように。
しかし、右腕から目へとレーザーの赤い光が届く。鈴村きゃんはそちらに目をやると、ブレスレットの一つのボタンが激しく点灯している。
「えーと……。押せってことかなぁ?」
鈴村がボタンを押すと、空中に自分の胸像が浮かぶ。しかし現在の自分ではない。少し若い自分。それが眉を吊り上げて言葉を並び立てた。
『ちょっとお! なにをぐずぐずしてんの? 敵がいるのにずいぶん悠長じゃない』
「え? あ、ああ、これってガイドの私かあ」
『そうよ。英太さんはあんたを守るために今は生身なのよ? そこをあのアシヤギーンに狙われたらどうすんの?』
「ひえーー! あわわわわわ」
その時、背中に衝撃。鈴村きゃんの体は地上へと墜落してゆく。
「はわわわわーー!!」
それはアシヤギーンの攻撃だった。背中への蹴り。さらに追い討ち。落ちてゆく鈴村へと、スピードを付けてドロップキックだった。
鈴村は、急速に迫り来る地面と衝突し、地面にめり込んだ。
そこは市街地で歩道の真ん中だ。歩いていた人がくぼんだ歩道にバスターマンの姿を見つける。
「え? ウソ。バスターマン?」
「そうだ。バスターマンだ」
「でも曲線がオンナ、オンナしてね?」
群がる観客の中で鈴村は体を起こす。だがそこにアシヤギーンが舞い降りて、鈴村の頭を蹴り付ける。鈴村はまたしても大地に寝転ぶ形になってしまった。
アシヤギーンはそれを見て腕組みをして呟く。
「なんだ。相当弱いぞ? 黒い箱は俺の百倍の力といっていたが……。まああれはよくウソをつくからな。しかし、こんな弱っちいのがあのバスターマンだと? これなら人質どころか連れていくのも簡単そうだ」
アシヤギーンは、鈴村のバスターマンへと手を伸ばす。鈴村きゃんは起き上がって、その手を弾いた。
アシヤギーンの弾かれた手。激痛だ。思わず手を押さえる。
「クソ! やっぱり強いぞ!?」
「わーお。全然痛くない。これがバスターマンの力なのね」
「こ、この形状。いつものバスターマンじゃない。そうか。あの病室にいたあの男。あれが本物のバスターマンなんだ。恋人の危機にブレスレットを付け替えて変身させたのか。考えたな」
アシヤギーンは飛び上がって、先ほどの病院へと向かう。鈴村きゃんはきょとんとしていた。
「ど、どうしたんだろ?」
そこにガイドが説明する。
『バカね。英太さんを人質に取って、交換条件にあんたからブレスレットを外させようとしてるのよ。知恵が回るわね。さっさと英太さんを助けにいくのよ!』
「そ、そうなんだ!」
鈴村きゃんは、大地を思い切り蹴る。すると、蹴りすぎたのか遥か上空まで。
「きゃわわわわわーー!!」
『なにやってんのよ!』
今度は下に戻りたいと思うと、体の向きが変わって地上のほうへ。しかし速すぎる。
「きゃ! きゃ! きゃあああああ!!」
『もう! バカ!』
鈴村きゃんが止まりたいと思うと、空中で急ブレーキ。なにもしていないのに相当疲れている。それもそのはず。鈴村きゃんは病人だ。どうしていいか分からず空中で泣き出してしまった。
「どうしたらいいの? このままじゃ英太さんが」
『仕方ないわね』
「え?」
『今までのバスターマンの戦闘データから形成されたオートマチックにすることが出来るわ。こっちが勝手にあんたを操る。どう?』
「え? オート?」
『そう。あんたはなにもしなくていい。見てるだけ』
「そ、そうしてくれる?」
『オーケー。オートモード切替』
途端に鈴村きゃんの体は、グンと引っ張られる。空中をまるで直進するジェットコースターのように。
「はーわわわわわわ!!」
『はいはい。叫んでてね~』
あっという間にビルの間をすり抜けて、アシヤギーンの背中に。そのまま飛び付いて別の方向へと体を向ける。
「う! バ、バスターマン!?」
「きゃああああ!!」
『このまま人のいない山のほうに行くわよ。戦闘しやすいようにね』
しかし、バスターマンの向かったほうは芦屋の隠れ家のほうであったのだった。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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