第192話 正体バレ
ヒホリント星人の巨大ロボットを倒してから数日が経っていた。
バスターマンこと長井英太は、鈴村きゃんの病室にお見舞いに来ていた。
二人は互いに自分のことを話し合い、さらに親密になっていたが鈴村きゃんは自身の病状を明かした。
「……え? 白血病……?」
そして鈴村きゃんから自身の病名を聞かされ真っ青になっていた。そして涙を落とす。
「ああ、英太さん。泣かないで」
「だって、だって悲しすぎるよ。君はまだこんなに若いのに。ヒドイよ。何てことなんだ」
そう言う英太の手を握って、鈴村きゃんは笑顔を向ける。
「でもね英太さん。私は同じグループのメンバーと活動してきて青春を楽しんで、今はこうして好きな人が側にいてくれる。それだけで幸せだわ。最後のその瞬間まで諦めないつもりなの」
力強い鈴村きゃんの言葉に、英太は涙を拭いた。
「そうだよね。わかったよふっちゃん。俺もできる限り、君の側にいるよ」
そして二人は見つめ合う。英太は鈴村きゃんの肩へと手を伸ばして引き寄せる。そしてもう片手を握りあったまま、初めてのキスをしたのだ。
「わっ! ビックリしたあ!!」
という男の声に、二人は顔を離して声のほうを見る。そこには二十代後半の男で英太は知らない。鈴村きゃんは毛布で顔を隠した。マネージャーの迎山だった。
迎山は怒った顔をして病室にずかずかと入り込む。英太はすかさず鈴村きゃんに抱き付いてこの知らない男から彼女の身を守ろうとする。
迎山の後ろには成田きゃんもいる。彼女も英太を見て驚くが、英太も彼女を見て驚いた。
「え? ふ、ふっちゃんが二人!?」
鈴村きゃんの本名の愛称である、ふっちゃんと呼んだので、迎山は詰め寄る足を止める。
成田きゃんは、英太へと近付いた。
「初めましてー。きゃんちゃんの友達で成田きゃんと言います。彼女のそっくりさんで物真似チームも組んで歌って踊ってます。ひょっとして彼氏さんですか?」
それに鈴村きゃんは毛布を少しだけ下げ目だけを出して英太を見る。
英太は大きな体に似合わず、もじもじしながら答えた。
「そ、そうです」
その答えに成田きゃんはニッコリと笑い、ささと鈴村きゃん側に寄りその手を取った。そして力を送り始める。
「じゃ邪魔しちゃ悪いから早く終わらせようか」
といつもの治療をしようと鈴村きゃんに言うと、彼女も笑い返す。迎山は英太へと笑いかけ、コーヒーでも奢ろうと自動販売機コーナーへと連れ出した。
◇
成田きゃんは、鈴村きゃんの手を握りながら言う。
「うーんなるほどね。あれは運命の人って感じ」
「やん! 分かる?」
「分かる。ビッと来たもん。まあ私が隆一に出会った感覚と同じかな?」
「へー……。ちょっと、奪わないでよ?」
「なんでよ? 私には隆一しかいないし」
そう言って二人は顔を見合わせて笑った。
「こりゃ本気でお母さんを探さないとね」
「きゃんちゃんを産んだ人? お医者さんなの? 本当に白血病を治せるの?」
「まあねー。まあ最低な母親だけど」
「ふーん。でも期待していいのかな?」
「探せるかどうかは不安があるけど、なんとかなると思う。親子の絆が必ず巡り会わせてくれるよ」
「そうなんだ。こりゃ頑張って生きないと」
「そう。頑張れ、頑張れ!」
「ところで今日はなんでヤマさんと二人?」
「ああ。治療に力使うとお腹減るから、なんか奢らせようと思って。あと足だね」
「……ホント。性格まで私そっくり」
「そりゃそうでしょ。あなたは私。私はあなただもん」
「前にも聞いたなあ。そのわけをいつか教えてくれるんでしょ?」
「そうね。病気が治ったら」
「ふふ。楽しみ。英太さんはどこまでいっちゃったかな?」
「ふーん。英太さんっていうんだ。聞かせて。彼のこと」
「うん。いいよ」
鈴村きゃんは、英太がバスターマンだということを伏せながら話始める。その頃、英太は迎山に連れられて自動販売機コーナーにいた。
そこは扉はないものの、壁で四方を囲まれており、入り口は片側だけ。自動販売機が左右に配置され中央には背もたれのないソファー。迎山と英太以外の客はいなかった。
迎山は英太の好みも聞かずに微糖のコーヒーを買って、それを英太に渡そうと手を伸ばす。迎山の顔は笑っていてもその目は笑っていない。
英太はコーヒーを受け取ろうと手を伸ばしたが、迎山はコーヒーをするんと落とし、英太の手首を掴んでひねる。
「痛ァ!」
痛くて立ち上がる英太の手首を捻りながら後ろに回って腕を捻りあげる関節技をかけたまま壁に押し付けた。
「い、痛! 一体なんです!?」
「うるさい! 私は鈴村のマネージャーで迎山という。アイツが弱っているときに近付く悪い虫め! どうやってアイツの側に近寄った!」
「ち、近寄ったもなにも俺たちは好きあってるんです!」
「ああそうかよ。私はなァ、鈴村が中学生の頃から見ている。生意気だし、わがままだし、まだまだ子供で危なっかしい。正直、手に負えなくて匙を投げたくなることも多々あった。だがアイツをここまで育てたのはこの私だ!」
「あ、あなたもふっちゃんのことを?」
「違う! アイツに恋愛感情などない。できの悪い妹みたいなもんだ。だからこそ近付いてアイツをたぶらかそうとするなら容赦はしない。職業はなんだ。どこで働いている?」
「い、いや、今は働いてなくて……」
「ふざけるな! それでどうやって鈴村の面倒を見ていくつもりだ! 鈴村の稼ぎに期待しているのか!?」
まるで結婚の挨拶に行ったら彼女の父親に言われているようなセリフだった。英太は困ってしまった。
「い、いや、働いてないというか、国のために働いているというか……」
「何を言ってる! 夢みたいなこと言いやがって! 本当に鈴村の幸せを考えるなら今すぐ帰れ!」
迎山は英太を締め上げながら凄む。その時、英太の捻っている手首とは逆のほうにゴテゴテした銀色のブレスレットを見つけた。
「なんだこりゃ? その歳でヒーローごっこかよ!」
そして迎山は、ブレスレットの光るボタンを押す。迎山は思ったのだ。そしたらオモチャが『へんしーん』とでもいうのだろうと。そしたら笑ってやろうと。
しかし、英太の体は光だしバスターマンへと変身した。バスターマンのパワースーツにより、腕も手首も数倍に膨れ上がったために、迎山が捻る手は掴んでおれず自動的に外された。
英太は苦笑しながら迎山のほうに向き直って変身を解除する。迎山はあまりのことに尻もちをついてしまった。
「誰にも……言わないでくださいよ?」
「あ、あなたは……ば、バスターマン? あの……私……あなたの大ファン……です。握手してください……」
迎山は転んだまま手を差しのべる。英太は迎山の手を握って握手しながら体を起こしてやった。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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