第189話 バスターマン暗殺命令
ヒホリント星人の残党は海へと沈んで消えた。それを確認すると自衛隊の戦闘機はバスターマンの前で編隊を組んだ。そして高木二等空佐からの通信だ。
『ありがとうバスターマン! また我が国は窮地より救われた!』
「いえ。高木さんの助言がなかったら、ヤバかったです」
『我々はあなたに敬意を表します! では帰還します!』
そういうと自衛隊の戦闘機はバスターマンに敬礼を送りながら編隊を組んで基地へと帰還していった。
バスターマンも、一応総理の元へ行こうと官邸へと向かって飛んでいった。安倍総理はバスターマンがこちらに向かっていると言う報告を聞くと、官房長官を伴って外で迎えた。
その後、総理に報告をすると、記者たちに囲まれて質問責めにあった。
その様子はテレビによって全国へと放映されたのだ。
安倍総理とバスターマンの名声はますます上がった。
◇
そのテレビを見ながら歯噛みして悔しがるものがいた。
ヒホリント星人を地球へと招き入れた芦屋道治前議員である。今は日本に対する反乱である外患誘致罪にて全国指名手配中だった。
「そもそも私があそこにいるべきなのに、訳の分からないもののせいで!」
と黒い箱に八つ当たりするものの、黒い箱は『wwwww』と挑発するように笑うばかり。
「なんとかしろ! なんとかしろ! なんとかしろ!」
『願い事を言ってください』
と互いに平行線。今の芦屋は憎悪の塊だ。黒い箱もヒホリント星人も安倍総理もバスターマンも憎くてしょうがない。
もう黒い箱を見るのも嫌なのだが、これは捨ててもすぐに戻ってきてしまう。
そうこうしていると、またもや部屋の中に3D映像のヒホリント星人の指導者ダーが現れた。
それは眉を吊り上げて、まさに怒っているようだった。
『芦屋くん。まただよ。また我々は敗れた。こんな屈辱ははじめてだ』
「うっ。し、しかし……」
『友人である君は、我々にさっぱり協力してくれないのだな。あれは一体なんなのだ?』
「あ、あれは、私にも分かりません。名前はバスターマン。以前にラドキォーという宇宙人を追い払った実績のある地球のスーパーヒーローです」
『なに!? ラドキォーをだと?』
「ご、ご存知で?」
『この広い宇宙にラドキォーを知らぬものなどいない。文明は異常に高く、狂暴で冷徹な帝国だ。我らのように平和な民族とは大違いだ』
それに芦屋は苦笑いを浮かべることしか出来ない。
『そんなものが敵だなどと、まともに戦って勝てるわけがない。君にそのバスターマンの暗殺をお願いするよ。友人らしく、我らの願いを聞くべきだ。もしも友情を裏切れば絶交だぞ。約束は何よりも重い。君に期待しているよ』
そう言って、また一方的に通信を切ってしまった。
このヒホリント星人は、おそらく自分達の常識では友人とはそのように行動するべきものとの認識なのだろう。
あまりにも一方的な友情。いじめっ子がいじめられっ子をパシりに使うようなものだ。
しかし裏切りの制裁は怖い。
芦屋が黒い箱に視線を落とすと、いつものように文字を表示する。
『願い事を言ってください』
と──。
◇
入院中の鈴村きゃんは、バスターマンの正体を見てから胸をときめかせていた。
男性にこんな感情を抱いたことは初めてで、ベッドに横になったり起き上がったり。はたまた立ち上がって、数歩歩いたりと落ち着かないので、彼女の付き添いの母親は呆れて声をかけた。
「ふっちゃん、落ち着きがないわね。どうしたの?」
「え、いやー、そのー」
バスターマンが窓から飛び込んできたときは一人であったため、彼の正体を知っているのは自分一人である。それを母にも言えず、ましてや自分は死ぬ病なのに気になる相手がいるともいえない。
すると病室のドアがノックされる。まさかバスターマンではと笑顔で開けると自身のマネージャーである迎山だったので、露骨に顔色を変えた。
「なあんだ。ヤマさんかあ……」
「なんだとはなんだ。せっかくお見舞いに来てやったのに」
鈴村きゃんは、迎山に背を向けてベッドに横になって義務的に応対しようとしていた。
迎山はそんな鈴村きゃんの性格を知っていたので、それほど気にせずベッドの脇のパイプイスに腰を下ろす。
鈴村きゃんの母親は、そんな態度の娘をたしなめた。
「ふっちゃん。お客さんにそんな態度とっちゃダメでしょう? ごめんなさいねマネージャーさん。この子、あなたを気安い兄頼りしてるもので……」
「いえいえ。鈴村はたくさんのファンだらけで自分を出せる場所はご家族か私くらいしかおりませんので、ストレスの捌け口になるのは望むところです」
と胸を張る。事実そうなのだ。鈴村きゃんは迎山を頼っているので、その態度は家族と同じだといえよう。
きゃんは寝転びながら訪ねる。
「今日はデートじゃないの?」
「う。成田さんめ、余計なことばかり教えてるな」
「うふ。仕事ばかりで女の子とデートする暇なんてなかったもんね。わんちゃん似なんでしょ? その彼女」
「まーな」
「ねえ」
「ん?」
「結婚しちゃいなよ。今のうちに」
「ふ。まあそうだな」
最近の鈴村きゃんは、なぜか自分に希望がある。それは成田きゃんによって病状が回復しているからであろう。
“今のうちに”という言葉。
それは自分が白血病から治ったらまた忙しくなるという意味だ。迎山はその意味がわかって笑顔になった。
鈴村きゃんも共に微笑する。そして聞いた。
「ねえヤマさん」
「どうした?」
「恋っていいもの?」
「まーな。鈴村にもきっとそれが分かる日がくるよ」
「む。私だって19歳なんですけど? いつも子供扱いして」
「まあまあ、そうすぐムキになるから子供なんだ。危なっかしくてなあ」
「キー! 成田きゃんちゃんなんて18歳で結婚して子供だってお腹にいるのに、私だって恋くらいしてもいいでしょ?」
「な、なに? 鈴村、お前、好きな人いるのか?」
そう言われて耳まで真っ赤になる鈴村きゃん。
迎山は非常に狼狽した。
「ちょ。お前、誰だそれは。病院の先生? 看護師? おいおい、突っ走っちゃダメだぞ? 相手をよく見ろよ? 既婚者とか絶対ダメだぞ? はあ~お母さん、なにか知ってます?」
慌てて首を振る鈴村きゃんの母親。そして二人は多少眉を吊り上げて鈴村きゃんの顔を覗き込む。
鈴村きゃんは、両手を振って否定した。
「違う、違う! 変な恋とか危険な恋はしてない! 気になる人がいるだけ! なによ二人とも!」
鈴村きゃんは恥ずかしがって毛布を顔までかけたが、迎山はそれを強引に剥ぐ。
「す~ず~む~ら~!」
「キャー! ホラー!」
「お前、スキャンダルはすんなよ!? 世間の男なんてみんなお前に惚れてるクソ野郎ばっかだからな? お前と付き合えたらステイタスが上がるとかそんなヤツばっかだから! ああもうとうとう来る時が来たか。お母さん、コイツの身辺は気を付けてください。担当医とか、男の看護師とか、細かくチェックしてくださいよ、はあ~」
迎山は深く深くため息をつく。鈴村きゃんも母親も、迎山のことを年頃の娘を持つ父親のようで思わず笑ってしまった。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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