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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
総理と式神篇
186/202

第186話 恋ばな

 さて少しだけ時間は遡る。


 そこは鈴村きゃんの病室。そこには黒い箱によって産み出された鈴村きゃんのコピーである成田きゃんがいて、鈴村の手を握っていた。


「はい。今日はこれでおしまい」


 と言って成田きゃんは一息。自分が親である黒い箱から遺伝した超能力を鈴村きゃんに使っていた。

 それは鈴村きゃんの急性白血病を押さえ込む力。完全に治癒はできない。それは黒い箱でなくては出来ないのであろう。

 しかし鈴村きゃんは徐々に回復し、自力で食事も取れるようになってきたし、わずかながら歩けるようになっていた。


 そしてこの瓜二つな二人は和解して仲良く話すようになっていたのだ。


「赤ちゃん元気?」

「うん。もう少しで生まれる」


 そう言って成田きゃんは大きなお腹を擦る。それを見た鈴村きゃんは笑顔で質問した。


「へー。旦那さんいい人?」

「うん。でも今は事情があって離ればなれなんだ」


「そうなんだ。早く一緒に暮らせるといいね」


 そんな気遣いのある言葉。成田きゃんは旦那である成田隆一の写真を見せる。


「どう? カッコいいでしょ?」

「……そうねぇ」


「あ。返事遅れた」

「いや好みは人それぞれだし」


 二人は同じなのだ。だが好みが違う。それは成田きゃんには元々成田隆一を、愛する気持ちが植え付けられているから。


「あんたは? どんな人が好き?」

「私はねえ──」


「筋肉質で男らしい人でしょ?」


 もちろん成田きゃんは知っている。なにしろ本人のコピーだ。自分に隆一がいなかったら、そんな男を好みにするのは分かりきっている。

 鈴村きゃんはモジモジと照れながら答える。


「そうなんだ……。前にテレビの取材で前世が見える占いの先生に言われた。私は江戸時代の高級娼婦でその時馴染みだった富豪の力士みたいな男とその時結ばれなかったから、今生で結ばれるんだって」


「運命の人ってヤツねー」

「そう!」


「そうって、それを信じるのもアレだし、運命の人って思うのも行き過ぎつーか。会ってもピンと来ないでしょ。多分」


 一途に占いを信じる鈴村きゃんに対して成田きゃんは呆れる。元々同じ鈴村きゃんから分かれたもう一人のきゃん。しかし俯瞰で鈴村きゃんを見てみると、なんとも滑稽な部分が多いのだ。


 そこに鈴村きゃんの母親が血相を変えて入ってきた。


「た、大変よ! ふっちゃん!」


 ふっちゃんとは鈴村きゃんの本名である「伊藤ふく」からの愛称である。母親のみがそう呼ぶのだ。

 彼女は急いでテレビをつける。この特別な個室ではイヤホン無しでもテレビをつけることが許されていた。


 テレビには国会の様子が写し出されて、芦屋議員が他の議員たちに詰め寄られている場面。それだけでは鈴村きゃんも成田きゃんも何がなんだか分からない。鈴村きゃんの母親がいきさつを話す。


「この芦屋議員が、またまた凶悪な宇宙人を地球に誘い入れたのよ! 今の日本は宇宙人の大砲に狙われているの! あと十時間で日本に砲撃するんだって!」

「ええ!?」


 二人は叫んだ。ようやく前のラドキォー星人からの瓦礫が無くなって平和へと進もうとしているところだったのに。

 またもや凶悪な宇宙人の侵略だ。二人ともどうすることも出来ずにテレビに釘付けとなった。


 テレビのアナウンスでは、安倍(あべの)総理が対策を考えるために官邸へ戻ったと官邸の映像が写し出されている。


 人々はこぞって国際空港を目指して大渋滞の大パニックだという話。

 政府は何をしている、自衛隊は何をしているとの批判もあった。


 その時、緊急放送で内容は一変した。画面は大空に向けられ、煙を上げるものものしい宇宙船が様々な角度から映し出されている。

 そして、ロケに出ているアナウンサーから歓喜の声がテレビのスピーカーから流れてきたのだ。


「皆さん! バスターマンです! バスターマンが来てくれました!」


 カメラは最大望遠で小さなバスターマンの活躍を映している。

 鈴村きゃんは吹き出した。


「なーんだ。特撮? お母さん、脅かさないでよ」


 そう。鈴村きゃんはバスターマンを知らなかった。彼女は今まで昏睡状態だったので、バスターマンを知らない。成田きゃんは彼女に説明する。


「なに言ってるの! この人は現実のスーパーヒーロー! 私たちのために戦ってくれているの!」

「え!?」


 その時、バスターマンの強烈な一撃。ものものしい宇宙船にバスターマンの持っていた砲筒が突き刺さり、貫通していた。

 宇宙船は大きく傾いて火を上げる。宇宙船は目眩ましの煙を噴き出してバスターマンの元から去っていった。


「皆さん! ご覧になられたでしょうか? バスターマンの鮮やかな勝利です! 宇宙人からの脅威は去りました!」


 回りから歓声が聞こえ、鈴村きゃんの母親と成田きゃんから安堵の溜め息が漏れた。

 鈴村きゃんは二人に質問する。


「ねえねえ。あれってロボットなの? なに? スーパーヒーロー?」


 二人は笑顔で「そう。スーパーヒーロー」と答えた。


 その間、テレビの中継は別のカメラに移り、安倍(あべの)総理の前にバスターマンが降り立つところだった。

 彼は総理に敬礼し、総理は彼を激励しているようだ。


 アップに映し出されるバスターマンを見て、鈴村きゃんは頼り甲斐のあるヒーローに胸をドキドキさせていた。

※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。

※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。

※感想を書かれる際には、政権に対する批判などはご遠慮願います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『私は江戸時代の高級娼婦でその時馴染みだった富豪の力士みたいな男とその時結ばれなかったから、今生で結ばれるんだって』 なっ!なんだってぇーーーー!
[良い点] 江戸時代で、高級娼婦で、富豪の力士!? やるな、占い師!
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