第185話 支持率の回復
その頃、芦屋議員は全国放送のテレビにアップになっていたが、顔から冷や汗を吹き出し、与党議員から囲まれていた。問い詰められていたのだ。
今まで味方だった野党議員たちは、誰もなにも言えない。なにか信頼できる言葉が出るかを期待して待ったが、それは一つも出なかった。
曰く、友好的だと思っていた。知らなかった。なにも知らない。呼んでもいいとおっしゃったのは総理だ。
問い詰められる言葉に、ヒホリント星人の何も知らないと総理への責任転嫁。
つまりただここに侵略者を誘導しただけ。みんな頭を抱えてヒホリント星人から与えられた残りのタイムリミットをどうするか考えた。
芦屋は隙を見て逃げ出したが、テレビクルーに阻まれ議場から出ることが出来ない。
しかし、テレビクルーが叫ぶ。
「バスターマンが宇宙船と交戦してるぞ!」
と、みな国会議事堂を出てその様子を見ようと駆け出す。芦屋議員はこれ幸いとそれに紛れて逃げ出した。
それは遥か上空だが、肉眼で見えるほどの巨大な宇宙船だった。しかしあちらこちらに煙を噴き出して小さなバスターマンから必死で逃げようとしている。
バスターマンは両手に大きな砲筒を振り回して、宇宙船に打撃を与えている。そこが爆発して炎上する。おそらく、我が国日本に向けられていた主砲であろう。それをへし折って武器としているのだ。
宇宙船は主砲をへし折られ、別の攻撃方法で国会議事堂に攻め入らんとしたのかこちらに来たものの、バスターマンの攻撃でなす術なしの状況で右に傾き、左に傾きだ。
地上にいるものたちは、バスターマンに大きく声援を送った。
その声が届いたのかバスターマンはますます張り切って宇宙船を攻撃する。
その内に宇宙船は地上に攻撃することを諦めたようで、噴煙を撒き散らしてバスターマンに目眩ましを行い、空の彼方へと消えていった。
バスターマンは国会議事堂前に着地するようなので、みんなそれを迎えに行く。
バスターマンが降りた場所には安倍総理がいるところで、総理もにこやかにそれを迎える。バスターマンは総理に敬礼した。
「我が国を狙う宇宙船を追い払いました!」
「ありがとう。バスターマン」
そう言って二人は固く握手する。
つまりこうだ。ヒホリント星人より攻撃の予告をされたとき、総理は官邸への移動中にバスターマンこと長井英太へと連絡していたのだ。
すなわち、地球を狙うヒホリント星人の宇宙船を撃破して欲しいとの要請だ。バスターマンは快くそれを受け入れた。
その二人の様子に記者が訪ねる。
「あのう総理。バスターマンとはお知り合いで?」
総理はバスターマンとの握手を止めてバスターマンの背中をポンと叩く。
「ああ我々は前から友人なのだ」
バスターマンも照れながら記者へと答えた。
「今回のことも総理から要請があったものですから」
その言葉に回りは沸き立った。
突然の宇宙人の侵略。全然時間がないなかで、安倍総理は被害なしで窮地を救った。総理とバスターマンに対して大歓声が送られたのだった。
そのうちに安倍総理はバスターマンの背中に手を回して後ろを向かす。そして耳元でささやいた。
カメラには二人の会話が分からないが二人の新密度が分かった。バスターマンも安倍総理の言葉に驚き笑っているようだ。その会話の内容とはこんなものだった。
「黒い箱はもはや私の手元にないよ」
「え? 総理、どこにあれを?」
「いやそれは秘中の秘だ。機会があったら教えよう。しかし君が以前に心配していたものは私の手元にはなくなったから心配には及ばない」
「ああそうなんですね。総理。よかったです」
というものだったのだ。
◇
先ほどまで国会は芦屋議員優勢だった。しかし芦屋は逃げてしまい、さっさとどこかに身を隠してしまった。
芦屋の党で力があるものは金矢議員だけだったので、彼が代表の代理となったが、記者や国民につつかれ、精神的疲労を理由に入院。
野党共闘で集まったものたちは、芦屋の責任を被せられるのを怖がってさっさと離れ、与党で中立だったものも元に戻った。
安倍総理の政権は、支持率64パーセントと一気に跳ね上がり、解散どころかライフラインを整える法案は次々と決まっていった。
◇
芦屋議員はどこに行ってしまったのだろうか?
彼は協力的な支持者を頼って田舎の小屋に身を隠していた。そこは回りに民家などない。支持者のおかげで食料には困ることはないが、絶望である。自分はこのままでは這い上がれない。テレビでは連日連夜、安倍総理とバスターマンを誉める内容。芦屋議員の消息掴めないということ。侵略者を率いれたのは、まさに外患誘致罪であるとの論説である。
外患誘致罪とは、外国を率いれて攻撃させたもので日本の中で最も罪が重い。その刑罰は死刑のみである。
岡太一官房長官も、テレビ放送にて「確かに外患誘致罪であろう」と言いきっていた。芦屋はすでに国会において議員を除名されていた。
自分は日本のためになるであろうと思っていたのに、なぜこんな目にと持ってきた黒い箱を睨んだ。
「全然友好的じゃないではないか! あれは侵略者だ! 見ろ私を! もはや日本に身の置き所がない!」
それに黒い箱は文字を表して答える。
『その状況はお気の毒ですが、確かにあの宇宙人は友好的。相手を尊重して一方的に攻撃など仕掛けなかったでしょう?』
「確かにそうだが、あんなものは友好的とは言わん!」
『人間だって家畜と共存共生などという言葉を使います。それと同じです』
「は、はあ?」
その話の途中だった。芦屋のいる部屋の中に3D映像にてヒホリント星人の指導者ダーの姿が現れた。
「あ、あなたは!」
芦屋は一言叫んで腰を抜かして震える。ダーはそんな芦屋を睨み付けた。
『君の友情を信じたらこの結果だ。我が方は甚大な被害を受けた』
「な、なにを仰います。騙したのはそちらだ。まさか侵略者などと私は知らなかった! そのおかげで私は築き上げた信用を失い、日陰の生活となってしまったんですぞ!」
『こちらを批判するのは止めてくれ。こちらは君の友情を信じて被害は受けたが、我々は君を恨んではいない。しかしあれは何かね? 君の星の技術力は大したことはない。兵器は骨董品だし、貧弱そのもの。我々に負けはなかったはずだが?』
指導者ダーの一方的な言葉に芦屋は震えたが、この恐ろしい生命体に逆らえばどうなるか分からない。芦屋は仕方なく答える。
「あれは地球のスーパーヒーローでバスターマン。どうやら我が政敵の安倍総理の友人らしいです」
『ふむなるほど。ではそれほどたくさんいるわけではないのだな。一人だけならばまだ勝ち味はあるはずだ』
「え? ま、まだ侵略するおつもりなのですか?」
『人聞きが悪いな。我々は安住の地が欲しいのだ。それには地球人は邪魔なのだ。だが君は別だ。我々の友人だからな。我らが地球に住んだ暁には、君には富貴の座を与えることを約束しよう。だから我らを裏切るな』
そう言って指導者ダーは一方的に通信を解除。芦屋はただ震えるしかできなかった。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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