第181話 贈り物の羊羹
数日前──。
それはいつもの日常であった。芦屋道治議員は国会で成果も上げれずに歯噛みする毎日だ。
そこへ荷物が届いた。送り状には“羊羹”と書いてある。送り主は甘味屋の名前らしきもの。
「“栄梨庵”か? 支持者から贈り物か」
芦屋議員は最初それを開けなかった。テーブルの上に置いて、くつろいでいたのだ。
そのうちにふと甘いものが食べたくなって、まずはお茶を入れた後で冷蔵庫を開ける。しかしそこには甘いものがなかった。
「あ。なんだよ。あれ食べちゃってたか」
先に調べようとしない気質が徒となる。国会の質問も似たようなものだ。思い込みで質問をして逆襲を受けたり、自分も同じようなことをやっていたり。
しかしそんなことに気付きもしないし、気にもしていない。そういう気質でなくては議員など難しい。
安倍総理もバスターマンに言った。「普通の精神力ではやっていけない世界だ。どこか壊れていないと」と。つまり芦屋議員もどこか壊れているのであろう。豪快と言えば聞こえはいいが、余り誰のことも気にならないのだ。
芦屋議員は冷蔵庫を閉めてため息をついた。甘いものもなくお茶をすするかと机に行こうとするとテーブルに支持者からの贈り物であろう荷物。
「たしか羊羹だったな」
芦屋議員は箱を手に取って封を開けると、そこには黒い色のもの。それを羊羹だと勘違いした。
「なんだ。包装もされていないじゃないか!」
そう言うと、黒い箱に光る文字が現れた。
『この箱はあなたの願いを叶える箱。使い方は、願い事を言う→その代償に箱はあなたの体の一部を頂きます。あなたの体がなくなれば願い事は終了です』
次々に現れる光る文字をただ眺めた。そしてポツリ。
「なんだァ。羊羹じゃないのかァ」
それはそれは苦々しく、残念そうにつぶやく。さらに送り状をもう一度確かめ、悔しそうにダンボールをたたむと資源ゴミへと押し込んだ。
そして黒い箱を掴んで燃えないゴミの袋の前に立つと、黒い箱はバイブレーション機能のついた携帯用機械のように震えたのだ。
芦屋議員はもう一度その箱を見ると、また箱は光る文字を表示していた。
『羊羹なら毛先ほど私に下さればお出ししますよ』
とのこと。芦屋議員はそれをオモチャだと思っていたので、箱の表示する文字に軽く答えた。
「はいはい。じゃそれでお願いしますっと」
『叶えられました』
その途端、白い光がなにも盛り付けていない皿へと伸びる──。
そこには黒い羊羹が生えるように出て来て盛り付けられた。
続いて赤い光が芦屋議員の指先へと伸びる。それはホンの一瞬で消えた。
芦屋議員が光の当たった場所を見ると、指に生える毛の先端が細くなく切り取ったようになっていた。
もう一度羊羹を見る。毛先を見る。そして箱を見た。
『願い事を言って下さい』
「な、な、な、なんだこれは! いや待てよ? これって地球外からの贈り物じゃないのか? 我々の科学力を超えた地球外生命体が、それらを信じる私のために贈ってきてくれたんだ! いいぞ! ひゃっほう!」
思わずその場で大きくガッツポーズをとって小躍り。そして先ほど興味もなく資源ゴミへと捨てたダンボールを引き抜いてもう一度送り状を見た。
「送り主、送り主! “栄梨庵”!? えいりあん。それってエイリアンじゃないか! やっぱりだ!」
これは送り主である安倍総理のイタズラ。そう書けば芦屋議員は意味もなく喜び、正常な判断が出来なくなるだろうと子どもでも疑いそうなことを書いたのだ。しかし芦屋議員には十分に効果があった。
地球外生命体を信じる芦屋議員は、それを宇宙人からの贈り物だと思い込んだのだった。
「ああ、ありがとうございます!」
芦屋議員は天に向かって叫び、箱のほうへと視線を落とす。
「ああ、つまらない願い事を言ってしまった。せっかく願いを叶えてくれるのに」
『あなたの体の部品で叶えられるだけの願いを叶えて見せますよ。さあどうぞ』
舞い上がっていたが少しだけ考える。
「体の部品……。つまり羊羹では毛先で叶えられた──。何かしらとられると言うことですね」
『その通りです』
「確かに、リスクもなく願い事なんて叶えるほど甘くはないですよね。宇宙の共通通貨でも持っていれば別なのかな……? うーん」
芦屋議員は自分なりの答えを出そうとしたが未知なるものへ答えが出せるわけがない。しかし彼は勝手に納得した。
「なるほど、つまりそう言うことか。なるほどなるほど──」
地球外生命体や宇宙の考えは計り知れない。だが自分は選ばれし者だ。体は通貨だ。それで箱から便利なものを買うのだ。宇宙人はそうしているのだろうと納得したのだ。
『願い事を言って下さい』
「こんな素敵なプレゼントをしてくれた宇宙人にお礼を言いたい。会って話をしたい」
『叶えられません』
そう。素敵なプレゼントをしてくれた人は政敵“安倍総理”である。会わせることは簡単だ。
だが黒い箱の中の内部的なロックがかかった。前の持ち主を教えることは出来ないのだ。
幸か不幸か、芦屋議員はそれに勘違いした。
「なんて奥ゆかしい贈り主なんだ!」
『www』
その言葉に黒い箱は僅かに笑ったようだった。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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