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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
男とアイドル篇
13/202

第13話 彼女をつくる

 黒い箱──。それは願いを叶える箱。だが、願いを叶える代償に、肉体の一部を差し出さなくてはならない。




 ダイエットをしていた女、富永瑞希の部屋は無人となって数日が経っていた。入院してしまった彼女はもうこの部屋には戻って来れないだろう──。

 そんな彼女の部屋にベランダから男が忍び込んでいた。瑞希がいなくなったから金目のものを盗んでしまおうという悪心かと思われたがそうではない。彼は真っ直ぐに冷蔵庫の上を見上げていた。


「へー。これが願い叶える箱!」


 その箱はうっすらと光を放ち、文字が流れていた。


『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』


「なんだ? ダブリューがいっぱいならんでるな。スリープしてるなら『zzz』だろうに」


 黒い箱は瑞希を嘲笑していたのだ。忍び込んだ男はそんなことを知るよしもない。

 男が箱に手を伸ばしその文字を見ていると、別の文字が流れだした。


『──この箱はあなたの願いを叶える箱。使い方は、願い事を言う→その代償に箱はあなたの体の一部を頂きます。あなたの体がなくなれば願い事は終了です』


 その文字を見てニヤリと男は笑う。


「はいはい。なるほど。そーゆーことなのね。じゃ部屋に戻ったら」


 男は納得して、それを手に取りながらまたベランダをつたって自室に戻って行った。




 男は女の隣人、成田(なりた)隆一(りゅういち)だった。隆一は毎日裸になって体重計に乗る瑞希をベランダから覗き見していたのだ。


 しかし、いつしか興味の対象が変わっていた。


 黒い箱──。隆一は思った。


 隣人の瑞希は神様だと言っていた。突然、肉が出てきたり、冷蔵庫が出てきたり、すごく高そうな時計まで。金も出て来る、なんでもできる箱。


 隆一は瑞希が入院の為にずっと留守をしているのをいいことに箱を盗んだのだった。


 自室に戻ると隣人の瑞希に習って冷蔵庫の上に黒い箱を置く。隆一の部屋は殺風景と思いきや、カラフルな色に染められていた。


 そこら中にポスターが貼られている。特定のアイドルグループだ。それぞれの色の衣装を着用している女性アイドルのポスターが部屋を騒がしいものとしていた。


「さてさて、じゃぁ、願いを叶えてもらいましょう!」


 箱は文字を流して答える。


『どうぞ』


 隆一は本棚から写真集を取り出し、箱に見せるようにページを開いた。箱から白い光が照射されてスキャンされ、その結果を文字に出してきた。


『わんわん探検隊 鈴村きゃん』


 鈴村きゃんは今をときめく5人ユニットの“わんわん探検隊”と言うアイドルグループに所属している。隆一の部屋には彼女のグッズであふれかえっていた。


「そうそう。彼女をオレだけのものにしたい。オレだけの彼女を出してくれ」


『代償は?』


「そーだな。隣の富永さんみたいに脂肪とってもらいますか!」


 そう言って小太りな腹をポンと叩いた。


『Ai$09ちちちフフ55*#。いr瓶むら?#$FP!936◆そたフフ★溢蟹VuKaqスッ6』


「なんだ? 壊れちゃったか?」


 黒い箱の不可解な文字にそう言い放つと、小気味悪いトゥンと言う音の警告音が鳴った。


『21%しかできません。代償を追加しますか?』


 21%。やはり難しいものなのだ。しかし希望がある。追加してもいいのだ。隆一は失ってもいい体の部品を頭をひねって考えた。


「そう言えば親知らずが痛かったんだ。それも代償に入れられる?」


『入れられます』


「じゃ、親知らず追加」


 すると、またも警告音。


『30%しかできません。代償を追加しますか?』


 そりゃそうだ。内臓よりも低くてもしょうがない。体のいらない部分。普段考えないことに隆一は頭を悩ませた。


「尾てい骨……。そういえば尾てい骨は尻尾もないからいらないって聞いたな。尾てい骨はどうだ?」


トゥン


 警告音が鳴った。


『42%しかできません。代償を追加しますか?』


 あと半分強。難しい。内臓は怖い。しかし思い当たる節があった。


虫垂(ちゅうすい)は?」


『54%しかできません。代償を追加しますか?』


 半分を越えた。もうすぐだ。もうすぐ鈴村きゃんが自分のものになる。隆一は知らず知らずに笑みをこぼしていた。


 しかし、あと46%。


 思い返してみれば、自分の兄は胆のうを手術で取ってしまっていたことを思い出した。肝臓で代用できるらしい。それを対価に加えることにした。


「胆のうは?」


『75%しかできません。代償を追加しますか?』


 一気だ。一気に跳ね上がった。やはり内臓はすごい。


 しかし、やはり内臓だ。

 鈴村きゃんを作るには大事な内臓を差し出す必要がある。本当は嫌だが方法が無い。隆一は次のものを提示した。


「腎臓の片方」


『100%できます。叶えてよろしいですか?』


 到達だ。隆一のテンションはマックスとなった。


「いいです。叶えて下さい」


『叶えられました』


 箱から、真っ直ぐに隆一の前に光が伸びて行き、それは等身大の光の筒になった。グルグルと回転し“シルシル”と音を立てながらその光の中はやがて人の形になって、じょじょにその姿を現した。



 鈴村きゃんだ──!



 彼女は裸で、目を閉じていた。そして完全に形成されると、隆一の胸にドサっと倒れ込んだ。


 隆一は出てきた裸の鈴村きゃんの柔らかい肉体に感動し、悦びの表情で抱えていた。すると箱から赤い光が隆一の体に伸びて、全身を照射する。

 男は驚いて目をつぶった。違和感を感じる。


 夢のようだ。脂肪がすっかりなくなって痩せている。全身が軽い。おそらく内臓が無くなったためだろう。少しばかりゾッとしたが喜びが勝った。


 鈴村きゃん──。

 これは自分のものなのだ。そして自分のことを好きなのだ。


 今は目を閉じている。眠っているのだろうか?


 隆一は彼女の頬を指でつついた。

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