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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
しろイたま篇
119/202

第119話 悩み

 そして次の日。11時32分、マスクとサングラスをつけ変装しているきゃんが遅れる形で千葉駅内のデテールカフェで二人は再会した。


「よ。早いね。やまさん」

「まーな。ヒマなんだよ今」


 二人でコーヒーと軽めのランチを注文。鈴村きゃんとはこんな風にゆっくりランチなど出来なかったなと迎山は苦笑した。


「なに笑ってるの? 佐川さんのこと?」

「ちげーわ。それよりお前、昨日は余計なことを……」


「だってあのサソリはホントに引いたんだもん。やまさんがサソリになった感じがしてキモかった」

「はいぃーっ!? オレはお前のためを思って」


「ねー。ホントに優しいやまさんなのにね。女の子ってヒドいよね」

「コイツ……」


 迎山は目の前に置かれたコーヒーを一口すすりながらきゃんを睨んだ。きゃんはそれに微笑み返す。


「ありがとね。やまさん。鈴村きゃんもそう思ってるよ」

「キモいってか?」


「そう」

「ブッ」


 思わず口に含んだコーヒーを拭きだしてしまいそうになる。きゃんはすでにおしぼりを胸の前に広げてガードしていた。


「……いいストッパー持ってんじゃねーか」

「まーねー」


「──鈴村は」

「うん」


「心残りなかったかな──?」

「それは……分からない。途中で私たち分かれちゃったし」


「分かれた?」

「そう。鈴村きゃん、18歳の時までの記憶は共有してるけど、それ以降は鈴村と成田、別々の人生。でも鈴村きゃんは、恋もしたかったし、旅行にも行きたがってはいたよ」


「そうか……」

「そう。でも仕事も好きだったよ。精一杯、一生懸命、楽しみながら仕事した」


「そっかぁ」

「それも、やまさんのおかげ」


「──そうか」


 迎山はきゃんの顔を見る。きゃんも真剣な顔をして、それを崩して笑った。


「やまさんは、どこから私のこと分かったの?」

「それは──。実は変なものを手に入れてね」


「え? まさか!」


 途端に前のめりになるきゃん。


「それって願いを叶えるって──」

「あ、そう。よく知ってるな」


 きゃんは顔をしかめた。きゃんは勘違いしたのだ。迎山は黒い箱を手に入れた。そして、体の一部を欠損して願いを叶えたのだと。黒い箱に、鈴村きゃんと同じ体、同じ記憶を持つものがいると言われたのかも知れない。きゃんは眉を吊り上げた。


「ダメじゃない! そんなもの使っちゃぁ!」

「え? あ、ああ。スマン」


 迎山は思った。たしかに苦労もしないで願いを叶えたことはいけないことだと。しかしなぜきゃんはそれを知っているのだろうと不思議に思った。


「どうしてアレを知っているんだ?」

「──それは……。私はそれに作られたの。旦那を愛するためにそれから産まれて……」


「え? あ──」


 そういえば白い玉は、クローン人間だと言っていた。自分にも作れるとも。しかし悪魔の子だと言っていた。きゃんは白い玉に作られたのであろうかと思考が定まらなかった。


「あれは私のお母さん。それにあれは持ち主を破滅まで追い込むの。死ぬか、誰かに渡すまでつきまとわれるよ」

「いや、自分で出て行くと言っていたよ」


「自分で? おかしいな……。でも私に渡して、お母さんとは縁を切った方がいい。私は肉親だからいいけど」


 きゃんの言葉。お母さん──。白い玉は自分のことを“おばちゃん”と言う。たしかに女性だ。


「私の旦那は前の使用者。私をガンから救うために命を犠牲にしたの。それは人の肉体を奪って願いを叶えるのよ。私の悩みはそれ。私を生み出し、最愛の夫を奪った悪い母親に会いたいの。それに私は、お母さんに叶えて貰いたい願いがあるのよ。無理矢理にでも夫を返して貰う」

「あ、ああ、そうなのか。ちょうどいい。まだ家にいる」


 いる──。迎山は人のようにいう。あれを普通の人が人間のように感じるなどおかしいことだときゃんは思ったが、早々に母である黒い箱に会いたくなった。


「それじゃ行きましょうか?」

「そうだな」


「言っときますけど、妊婦に手を出したらただじゃおきませんからね」

「お前をそんなふうに思ったことはないっ」


「ま。失礼しちゃう。日本中の男の子が憧れてるっていうのに」

「そういう自惚れが子どもなんだ」


「きーっ! 私の担当だったクセに佐川さんのほうがいいって言うのね?」

「それは──、ノーコメントで」


 少し拗ねたきゃんを連れて、迎山は自身のアパートへ。ドアを開けると、すぐにキッチン。少し前に冷蔵庫があり、その上には白い玉。

 それは人間が居眠りをする際に船を漕ぐように前後に動いていた。


「さ、入れよ」

「はーい。おじゃましまーす」


 そのきゃんの声に反応してか、白い玉はまるで顔をこちらに向けるかのように半ば反転した。


「やまさん、お母さんは──」

「ああ、冷蔵庫の上にあるだろ。白い玉」


「し、白い玉?」


 きゃんは驚いて声を上げると、白い玉はまるで憎しみを込めるかのように声を重く発した。


「来たね。悪魔から産み出された忌み子。神はお前のような不自然に産まれたものを決して許さない。今、私がここで殺してやる」


 白い玉は空中にふわりと浮くと、高速できゃんに向かって襲いかかってきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。 ここで、ここで「待て」なのですか!? 続きはもしや来週!? きゃんちゃーーん!!
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