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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
しろイたま篇
114/202

第114話 悪魔の子

 きゃん率いる、わんわん探検隊のものまねチームが結成した。

 鈴村きゃんは成田きゃん19歳。

 笙野うぅは渋谷女子のすももと言う17歳。

 琴沢わんは佐川と言うアーティスト志望の26歳。

 笛咲くぅんはかなでと言う専門学生20歳。

 鼓島をんは金森と言う大学生21歳。


 みんな顔はそこそこ似ていると言った程度。声に関しては佐川以外はそれほど似ていない。

 しかし、きゃんはホンモノだ。振り付け、ノリ、声。それは全てホンモノ。客はそれに引っ張られてホンモノのわんわん探検隊と錯覚する。しかも、今は見ることの出来ない鈴村きゃんだ。もうこれは鈴村きゃんであると勝手に脳が変換してしまっていた。


 ライブハウスでのライブは満員。渋谷の女子たちはチケット販売を手伝ってくれた。

 売り上げは上々。

 チームオフの日、きゃんはいつものように一人でストリートライブに励む。チケットも売る。仲間たちとステージ衣装を作る。全ては生まれ来る赤ん坊のため。

 渋谷女子に教えて貰い、集客のため、広告費を得るために、無料動画サイトへとライブの映像を登録し配信した。





 鈴村きゃんのマネージャーである迎山は、鈴村きゃんの現在の姿を見て、生きる気力をさらに失い惰性で行動していた。

 朝起きて、ろくに髪もセットせずに出勤し、退勤時間にさっさと帰って酒を飲んで寝る生活。


 冷蔵庫の上に置かれた白い玉は、まるで母親のように声をかけ続けた。


『おかえり。酒ばかりじゃなくご飯も食べなさいよ。おばちゃん心配だよ』

「──ありがとう」


 惰性。ただの惰性。

 白い玉にそう言われてもベッドに倒れ込んでスマホをいじくって寝るだけ。その日は、無料動画サイトで昔のわんわん探検隊のライブ映像を見ていた。


「鈴村──」


 懐かしげに目を細めるものの、病室の鈴村きゃんの姿がフラッシュバック。迎山の一度緩んだ口もへの字に曲がる。


 ふと──。

 見ている動画の下に、次の動画候補がある。そこにはサムネイルいっぱいの鈴村きゃんの歌っている顔。


 しかし……、見たことがないステージ衣装。自分はマネージャーだった。全ての衣装は把握していた。この手作り感満載の衣装はなんだ? 似ているがそれだけだ。安っぽい衣装。しかし鈴村きゃんの顔はホンモノだ。

 迎山は頭にクエスチョンマークを浮かべながらその動画をクリックした。


「いっくよー! わん探メンのみんな! さぁ盛り上がっていこー! Hi! Hi! Hi! Hi! Hey! Hey! Hey! Hey!」


 声。腕のあげ方。ノリや盛り上げかた。どれをとっても鈴村きゃんだ。センターに立って、小さなライブ会場を走り回っている。

 しかし、アコースティックギターを抱いている。鈴村きゃんはギターは弾けるものの、ライブでは弾いたことがない。

 そして周りに立つメンバー。似ているが違う。


「な、なんだこれ──」


 鈴村きゃん? 間違いない。寸分違わない。迎山は冷蔵庫の上へと手を伸ばし、玉に動画を見せた。


「こ、これなんだ? なんだと思う!?」


 白い玉は黙った。そして唾棄するように言った。


『ふん。アンタの意中の人に似てるだけさ。悪魔が産み落とした悪魔の子。鈴村きゃんのクローン人間さ』

「クローン……人間?」


『神が忌み嫌う存在さね。関わるとろくなことがない』

「で、でもクローン人間って?」


『はっ。だから言ったじゃない。悪魔が産み落としたって。悪魔はこの世の秩序を好き勝手に変える存在。見返りを求めてそのエネルギーでこんな悪いことをする』

「悪魔だって? そんなものがいるなんて信じられない」


『いるよ。天使の私だっているじゃない。ま、悪魔なんて私の力には敵わないけど? 試しに私もクローンを作ってみようか?』

「え? い、いや──」


 願っていない。迎山は願わなかった。

 しかし玉は勝手にムキになっている。あちらに出来るならこっちだって負けていないという感じが見て取れる。


 空中にたちまち水の塊が出来て浮いている。ボコボコと気泡をたてながら。続いて全体に赤い線が出来てくる。あれは血管だ。水の塊に張り巡らされていく。しかし、なかなか手足のようなものが出来ない。

 迎山が玉に目をやると、どす黒いマーブル柄がゆっくりと動いているようだった。


 ばしゅ──。


 音とともに迎山の体に生暖かいベトベトした液体がはりつく。そして臭い。先ほどまで空中に浮いていた水の塊はなくなっていた。その残骸はそこら中に散らばっていたのだ。


『はぁはぁはぁ……』

「な、なんだよ、これぇーーっ!」


 迎山にはりついたのは人間になりかけた物体。白い玉は肩で息するように大きく喘いだ。


「くそっくそっ! 気持ち悪い!」

『はぁはぁ、分かった、分かったぁ。後で片付けるぅ!』


 白い玉は癇癪をおこしたように叫ぶと、力を振り絞って勝手に冷蔵庫に飛び上がって割り箸の格子に鎮座して黙ってしまった。力を使い果たしてしまったのだ。

 迎山は腹が立ったがこのままにしておくわけにもいかない。ボロ布で液体を拭き取り、シャワーを浴びた。

 そして考える。あのクローン人間とか言われる鈴村きゃんのそっくりな人物。それに会ってみようと。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ええええええええ〜〜 この白い玉のオバハンって大迷惑な存在じゃん。 人間になりかけの液体を浴びるなんて最低。 クロイハコの方が何百倍も優秀だよな。 作りかけた途中で力を失うなんて恐ろし…
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