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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
しろイたま篇
113/202

第113話 結成

 警察の取調室。といってもただの注意なだけだ。きゃんは間接的な道路交通法違反ではあるものの、初めての路上ライブということで、すぐさま釈放。なにより警察官もホンモノのきゃんと思ってしまい、役得で拘束したのだ。


「スイマセンね、お巡りさん。たぶんおひねり重くて運べないと思ったから~。もしよかったら一緒に数えて貰えます?」


 ギターケースに山盛りのお金と、バイト女子から受け取ったお金の袋。デレデレの三人の警察官は職務そっちのけで小銭を数え、きゃんはお札を数えた。時間は30分ほど。


「すごーい。61万1508えーん!」

「あの……ホントにきゃんちゃんじゃないんですか?」


「そうです~。名前はきゃんですけど、成田といいます。既婚者のそっくりさん」

「す、すっげぇ。一緒に写真撮ってもいいすか?」


「いいですけど、一人一人はダメですよ? 旦那ヤキモチ焼きなんで」

「も、もちろん! でもいいなぁ~、旦那さん。そっくりさんとはいえ、きゃんちゃんを抱けるなんて」


 きゃんはすかさずその警察官を指差す。


「あ。この人、セクハラしました」

「こらぁ村井!」

「あ、ごめんなさい」


「ダメ。罰としてみんなで小銭をお札に両替すること」


 机の上に広がった山のような小銭。署員を集めて出来るだけ紙幣へと両替した。

 その後、きゃんは最寄りの駅まで送って貰った。そこから重い金を持って移動も出来ないのでタクシーで移動。支払いは小銭で済ませ千葉県にある成田家へ帰った。


 そして、SNSのアカウントを作り、自分は今日渋谷でゲリラライブを行った鈴村きゃんのそっくりさんだとつぶやいて寝た。

 次の朝、SNSを確認するとフォロアーが4000を越えていた。100も集まればいいと思っていたのに、想像以上。昼には8000を越えたので、改めてつぶやいた。


「鈴村きゃんちゃんのカヴァー曲をやってます。次ストリートライブするときは、SNSでつぶやきますので応援よろしく!」


 とすると、リツイートが伸びる伸びる。

 そこには昨日バイトをした女子たちも。そっくりさんで残念だけど、また協力したいとのこと。

 偽物を批難する声もあるものの、大半は好意的だ。一度見てみたいとの声も多数。これは計略通り。

 これでわざわざ渋谷に行かないで、千葉のいずこかの駅前でストリートライブすればいつもよりも収入が見込める。それに、わんわん探検隊の歌でも歌えることが楽しかったので、聞いて貰える人がいるのはとてもいいことだと思った。




 61万円はいい元手だ。成田家の近くにアパートを借りた。成田の家族を完全に遮断しない。ほぼ一緒にいて、夕食を共にしたら帰って風呂に入って寝るといった感じ。これには成田の家族も、隆一がいなくては窮屈であろうと賛成した。そのためにプライベートの時間は増えた。

 SNSでつぶやいてストリートライブを行うと相当の人だかりが出来て稼ぎも良かった。渋谷の女子たちもボランティアで遊びに来てくれる。友だちも連れて来てくれる。産まれてから仲の良い友人は出来たことがない。鈴村きゃんの記憶の中にはたくさんの友人やわんわん探検隊のメンバーがあったが、こうして女子トークをするのは経験したことがなかった。


「あれ? この子……」


 その女子の中に一人の女の子を見つけた。


「あなた笙野うぅに似てるって言われない?」


 わんわん探検隊のメンバーの一人、笙野うぅは一番年少の17歳。周りの女子たちは似てないと言う。


「いえー。言われませんよ。うぅちゃん好きですけどね。歌真似も出来るし……」

「似てるよ~。ちょっとメイクさせて」


 きゃんは彼女の髪をいじってツインテールにする。続いて可愛らしいメイク。たちまち彼女は笙野うぅのそっくりさんに変身した。


「ほら出来た」

「こ、これが私?」


「うーん。やっぱりそっくりだよ。うー子ー!」


 きゃんは、鈴村きゃんが笙野うぅにするように抱き付いた。名前の呼び方も鈴村きゃんが笙野にするのと同じ呼び方。抱き付かれた女の子は思わず赤くなる。


「そうだ! 一緒に歌ってみない?」

「マ?」


 きゃんはギターをとって彼女の顔を見ながら歌い出す。


「らんらんらー。はい、一緒に」

「らんらんらー……」


「声はそう似てるわけでもないか。でも自信持って歌って!」

「らんらんらー」


「そう。いいよ!」


 まだストリートライブは始まっていないものの、すでに人だかり。きゃんも立ちあがった。


「うー子。ほら歌って!」

「うー子じゃないですけど」


「いーの。私もきゃんなんだから!」

「はい!」


 見ていた女の子も手拍子を始める。仮のうー子も、ノリ始めて振りを付けて歌い出した。合わせてきゃんも振り付けながら歌う。


 バイト女子たちもそれを囃して盛り上げ、観客からおひねりをねだった。


 その夜、二人舞台の動画をSNSに投稿すると、高評価連続。

 そこにメッセージが届いた。中をみてみると知らない女性からだった。


『初めまして! 突然メッセージ送ってスイマセン(>_<) いつもライブムービー楽しみにしていますが、本日の動画に笙野うぅちゃんそっくりな子が! とっても感動しました。実は私もメイクと角度によっては琴沢わんちゃんに似てると言われてます。歌も一人で活動していますが、芽が出ません(TT) よかったら一緒に歌って見ませんか? まずは会ってお話ししたいですがどうでしょう?』


 軽い気持ちで仲間の女の子を急遽ライブに入れてみたが、それによって新たなメンバー候補。きゃんは面白くなった。元々、鈴村きゃんの記憶も持ち合わせている。仲間と楽しく歌ったステージの記憶。それをやってみたくなったのだ。


 琴沢わん似の女の子と会うと、人のよい人で妊娠中のきゃんを気遣ってくれた。歌も一人で活動していると言うとおり、本人より上手なくらいだった。喜んで一緒に歌うことを決めた。これでメンバーは三人となった。


 それならばいっそのことと、SNSで笛咲くぅん似の子と、鼓島をん似の子を募集すると、近隣からそれに応じるメッセージが届いた。


 きゃんと、うー子、わん似の子とで面接をして、そっくりさんによるコピーアイドルを結成。

 ライブハウスにて活動をすることにした。

 なにしろ本物そっくりのきゃんがいるのだ。周りはどうでも人気は高く、チケットも完売であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがはきゃんちゃんだよな〜 わんわん探検隊のそっくりさんのライブも すごく盛り上がりそうですね。 スクランブル交差点でのライブも伝説のライブと言われるようになりそう。 これからが楽しみで…
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