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ク ロ い ハ コ  作者: 家紋 武範
総理と瓦礫篇
109/202

第109話 総理、三つ目の願い

 それをホワイトボードに持って行く。上部にはクリップが用意され、そこに挟み込んだ。スイッチを押すとバックライトが光る。それは人体のスキャン画像だった。


「これは私の体内の画像です。大腸、肺、胃、胆嚢、リンパ腺へとガン細胞が転移しています。医者にもよく立っていられると褒められたものです」


 安倍(あべの)総理の体はボロボロだった。すでに末期ガンにおかされていたのである。いつ意識不明なってもおかしくない状態だった。しかしまだやらなくてはいけないことがあるとの思いで、気力だけで戦っていたのだ。


「私からの代償はこれです。体中にはびこるガン細胞。これを全て提供します」


 その瞬間、黒い箱に意味不明な文字の羅列が始まる。それを安倍(あべの)総理は微笑みながら見ていた。そしてしばらく経つと黒い箱に読める文字が流れ出す。


『叶えられました』


 黒い箱から、安倍(あべの)総理へと赤い光が伸びる。それは全身を照射。それが終わると今度は黒い箱は天井を突き抜けて空へ。そしてそこから回転し、日本中へと白い光を放った。

 黒い箱はゆっくりと祭壇の上へと降りてきた。安倍(あべの)総理はそれを笑顔で迎え平伏した。


「お見事です。ありがとうございます」


『wwww』


「これで、国民の血税を復興に向けられます。スピーディーに日本は復活するのです」


『しかし、それはあなたの政敵が邪魔をするでしょうwwww』


 黒い箱は嘲る。安倍(あべの)総理もそれに笑った。そして口調が変わる。


「全てお見通しか。芦屋道治や市民団体、隣国密偵。子ねずみがチョロチョロと政治の邪魔をしてくれる」


『願い事を言って下さい』


 安倍(あべの)総理は、内臓が完全に復活した。見事な健康体。今度はそれを提供し、これから政敵を葬っていくだろうと黒い箱は考えた。しかも人々から支持がある人間はやはりいい。パワーが違うと感じた。この人間を手放す気など──ない。


 安倍(あべの)総理は黒い箱を掴んで、祭壇に置かれていた桐の箱に押し込んだ。


『こんなに丁重にして下さらなくとも私なら大丈夫。なんでも願い事を叶えますよ』


 その言葉に安倍(あべの)総理は妖しく笑う。


「いや。もう結構」


『? ? ? ? ?』


 黒い箱は安倍(あべの)総理が何を言っているか分からない。それに体が完全に失わない限り、自分と縁を切ることなど出来ない。または黒い箱自身が見限るか、所有者が誰かに贈るか──。


『桐の箱にしまったとしても私無しで願いは叶えられません。きっとまた箱を開けることでしょうwww』


「いや。キミ無しでも芦屋を消す方法など知っている」


『まさか。暗殺など賢い人間のすることではありませんよ。すぐに足がつく。そこへ行くと私は──』


「意味が分からないか? 顧客リストに私の名前と似た名前はなかったかね? 安倍清陸(あべのせいろく)。もっともそんなリストがあるかは知らんが」


 黒い箱は、思い立って内部データの過去の利用者のリストを調べる。それはコンマ一秒もかからない。


安倍清陸(あべのせいろく)……。安倍晴(あべのせい)──。まさか!』


 安倍(あべの)総理の目は黒い箱を見下していた。汚いものを見るような目。ゴミ屑をみるような──。


「私は古代から帝に仕えた陰陽師の家系でね。家には代々一族に伝わる古文書があるのだよ。私は幼い頃からそれを見たものだ。そこに君のことも書いてあった。もっとも“玄医函(くろいはこ)”という名前だったがピンと来た。特徴が書いてあり、使い方も注意もハッキリされている。箱は内臓を求めてくるが与えてはいけない。イボやタコなどを与える。時には腫瘍や膿疱などの病巣を与えるといいとね。先祖はそれによって不思議な力を手に入れた。そして先祖たちで回し続けたのだが、ある時政敵に贈って失ったのだ」


『だ、だったら、まだ手元に置いておくといい。私は戻ってきたのだから』


「うるさい!」


 安倍(あべの)総理は桐の箱を閉じようとする。


『くぬぅ……! あの一族! 私としたことが! 一族の心の深層を読ませぬという願いがまだ! 気付くべきだった! 口惜しや──』


 安倍(あべの)総理は最後まで光る文字を見ずに桐箱に蓋をした。それをさらにダンボール箱に入れてガムテープで閉じた。そして用意していた宅配のシールを貼り、秘書に出してくるよう頼んだ。


「総理、これを芦屋先生に?」

「そうだ。中身はお菓子だよ。昔の友を労おうと思って。ただ私からだとアイツも嫌がるかもしれない。適当な差出人にしておいた。では頼むよ」


 そのラベルには『羊羹』と書いてあった。秘書は重さもそんなものなので納得した。


「は、はい。総理のお心の深さを知れば芦屋先生も変な行動に出ませんのに」

「いやいや。政治には対抗勢力が必要だ。芦屋くんならいい敵だ」


「はい!」


 秘書はそれを持って出ていった。安倍(あべの)総理はその背中を妖しく笑いながら見ていた──。


「心の弱いものはすぐ破滅してしまう。箱は使いようなのだ芦屋くん。君は上手に我が国のために使えるかね? それとも自分のため? ふふふ。先が読めるな──。君のすることなど分かってる。だからこそ、式神(バスターマン)を用意したんだ。ふふふふ」


 安倍(あべの)総理の言葉は小さくて、誰にも聞き取ることが出来なかった。







◇ ◇ ◇




 日本からキレイに瓦礫が消えた。国民は喜んだが、誰も政治のおかげだとは言わなかった。しかし、内閣の支持率は徐々に回復傾向に向かっていった。

 心配ごとを消すように、ライフラインの復旧も開始され、日本に元気な電気がつき始めた。




 その頃。奥多摩の山中で──。


『うんしょ。うんしょ。よっこいしょ!』


 中年の女性の声。それとともに地面が枯れ葉を分けて盛り上がる。


『ふー。もう少しで出られるわ。よいしょ。よいしょ』


 ぽこ──。


 土の中からプラスチック素材のような物体。それが土の中から現れて犬のように体を振るって土を払う。

 それは白い色をしていた。

 白い玉だ。


『ふー。やっと出れたわ。おばさん、空気が美味しくてビックリしちゃったよ~。それにしても、あの悪魔の箱め。まだ人間の弱みにつけ込んで悪いことしてるのかしら? まったく。ゲスね。この天使の玉ちゃんが、あいつの悪事の邪魔をしてやるわ。ふんだ!』


 おしゃべりな白い玉はそういって、坂を転げ出す。黒い箱は文字しか表示できない。しかしこれは話すことが出来るようだが、文字を表示することは出来ないようだ。


 ころころと、街を目指して白い玉は進んでいった。


 求めるものを捜して──。

●式神とは:式とは操ること。神は鬼神や魔人の類い。陰陽師が使役した。人前では鳥や童子の姿をしている。総理は芦屋議員に黒い箱を贈ったが、どんな風に使おうとも自分には強力な式神(バスタードマン)がついてるぞと言っているのです。

 この話は後に公開する「総理と式神篇」に続きます。



【予告】

山中から現れた白い玉は神の使いか?

玉は代償も得ずに願い事を叶えていくが、成田きゃんに魔の手が伸びる。


次回「しろイたま篇」


ご期待ください。





※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。

※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。

※感想を書かれる際には、現政権に対する批判などはご遠慮願います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安倍総理かっこええーー! 見事な使い方! そしてあの子孫だったとは! これは続きが楽しみで仕方ない!
[良い点] …………!!! ぎゃ、逆転…! ぎゃふん。
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