第108話 秘儀
安倍総理は寝室に入り、寝巻きに着替えてベッドに座ると、チェストの上にある黒い箱を取って話し掛ける。
「まったく。一体何人の血を吸ってきたのかね?」
『wwwwwwww』
「悪いヤツに渡ったら大変だと思うが、悪いヤツほど自滅が早いんだろうなぁ──」
『願い事を言って下さい』
「そう慌てるな」
安倍総理は箱をチェストの上に戻し、ベッドに入り込んで眠った。明日の戦いを想像しながら──。
瓦礫撤去は相当な時間と、税金を消費する。しかも一年や二年ではない。数年かかる。
それと同時に、破損した道路、用水路、ライフラインの復旧もしなくてはならない。あのラドキォー星人は日本を半身不随にするほど叩きのめしたのだ。
永田町周辺の瓦礫を、ヒホリント星人に祈って撤去してくれた……という芦屋議員の国民からの期待は大きく膨らんでいた。逆に内閣の支持率は低下。ラドキォー星人襲来前は50パーセント弱だった内閣支持率は今では20パーセント前半となっていた。
「支持率なぞ関係ないよ。それに新聞社によってパーセンテージが違う。参計新聞なら30パーセント弱だ」
安倍総理はうなだれる大臣たちに激励した。
芦屋に何ができるものか。という思い。
実際に瓦礫を消したのは自分が黒い箱に願ったからだ。ということは芦屋のハッタリ。それを信じてしまうものも信じてしまうものだと、安倍総理は腹の中で思っていた。
しかし、野党最大である皆主党は二つに分裂し、片方は芦屋の旗の下に合流。芦屋の政党は34議席となり、また小さな党であるが、2つの政党が共闘を決めた。これで43議席。
芦屋の思い通りになる議席が40を越えたのだ。
しかしそれでも安倍総理は余裕気だった。
バスターマンはテレビをみながらハラハラしていた。
「総理は大丈夫なのだろうか……?」
変身ブレスレットのガイドボタンが点滅するので、それを押すと、きゃんが眉毛を吊り上げて姿を現した。
『心配することなんてないよ。政治なんて誰がやっても一緒。バスターマンは悪を倒すことだけ考えてればいいの!』
「いや、でもしかし──」
きゃんもテレビに映る安倍総理を見つめた。
『大丈夫よ。この人は相当なタヌキだから』
「タヌキ?」
『人を化かすのが得意な人ってことだよ。バスターマンも騙されないようにね』
「う、うん。なぁ。きゃんちゃんも政治には詳しいのか?」
『あんまり──知らない』
「知らないんかい。じゃあ自分の感性で総理を信じていいんだよな?」
『──どうだろ?』
きゃんも分からないなら自分を信じるしかない。人との戦いには使わないと言ってくれた安倍総理。自分の目には国のために働く強い人に見えた。あんな風になりたいと英太は憧れを感じていたのだった。
国会議事堂の廊下で安倍総理とたくさんの議員を引き連れた芦屋議員がすれ違う。中には安倍総理を裏切ったものもいたが、彼は芦屋の権勢をかさにきて、安倍総理の前で胸を張った。
芦屋はすれ違いざま勝ったように安倍総理に言い捨てる。
「必ず政府の陰謀を暴いてみせます」
「例えば?」
安倍総理が瞬時に言い返すので、芦屋は立ち止まり、安倍総理の背中に叫ぶ。
「利権を貪ってるとか、自衛隊を軍隊化して他国に攻め入るとか、兵器のための人体実験しているとかですよ! 宇宙人の科学力を利用してるんでしょう?」
その言葉を受けて安倍総理も足を止めて振り返る。
挑発に乗ったら負けだ。芦屋はやすやすと挑発に乗る。野党だからそれもいいかも知れない。
だが政権を持つものはそんなことをしていられない。安倍総理は苦笑してまた正面をむき直した。
「そうですか」
そういって歩き出す。肩透かしを食らわせる安倍総理に腹が立ってさらに安倍総理へと叫ぶ。
「私が政権を取った暁には、その内容も引き継がれるのでしょう!? あなたたちの一党独裁の秘密を暴いてみせます!」
秘密。陰謀。
そんなものがあるなら日本中の瓦礫を、簡単に撤去できる。馬鹿なことをいうものが人気があるなどどうかしてると安倍総理はそのまま歩みを進めた。
「そろそろやるか──」
安倍総理は決断を込めた独り言をつぶやいた。
安倍総理は公邸に入り、服を着替えて寝室へと向かう。それは神主が着るような服。なにかの儀式をするような真剣な面持ち。片手には大きな封筒を持っていた。
寝室のドアを開けると廊下の灯りが寝室へと伸びる。それはチェストの上にある黒い箱を照らしていた。
『願い事を言って下さい』
「そうだな」
安倍総理は一人で寝室に祭壇のようなものを作った。檜の祭壇。その上に榊の枝を白い一輪挿しに挿し、ロウソクを灯す。三方に置かれた塩、米、酒。その中央には桐の箱の上に置かれた黒い箱。まるで神事のよう。
安倍総理の背中には大きなホワイトボード。バックライトがつく仕様になっている。そんな変なものを揃えて、総理は黒い箱へと跪いて祈りを捧げた。
『願い事を言って下さい』
「さすれば、ラドキォー星人によって積み重ねられた日本中の瓦礫を取り除いて下さい。かしこみ、かしこみ、物申す」
『代償を言って下さい』
安倍総理は大きな封筒を開け、中から黒いフィルムのようなものを取り出した。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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