第106話 公邸侵入
バスターマンこと長井英太は、安倍総理との約束の日、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
バイトはきっかり定時で終わった。その時間までヒマだったのだ。
「くぁ~……。総理大臣か~。緊張するなァ~。政治なんか興味なかったし、なんか聞かれたらどうしよう。分かりませんっていうか。正直な方がいいよなぁ」
ひとりごとを言っていると、変身ブレスレットのガイドボタンが点滅している。英太にしてみれば願ったり叶ったりだ。ちょうど誰かと話したかったのだ。
ガイドボタンを押すと、3Dのきゃんの胸像が現れ、話し出す。
『はいどーも! コントロールセンターの鈴村きゃんです! こんにちわん。あなたのハートに首輪をつけちゃう。どうしたの? バスターマン。緊張なんてらしくないじゃない』
「だって、嬉しいやら、怖いやらだよぅ」
『やだー! かわいいー!』
「やめろよぅ。恥ずかしぃ~」
虚像のきゃんは英太をからかう。英太は真っ赤な顔をして顔を隠した。
「スーツとか持ってない。こんな格好でいいのかなぁ」
『なにいってるの。変身するのに』
「あ、そうか」
『復活して、いろんな機能がついたのに説明してなかったよね』
「そうなんだ。消えれるって? その……インビジブルボタン?」
『そう。オレンジ色のボタンを押すとボタンは点灯します。その状態だとバスターマンは他の人からは見えなくなります。でもバスターマンからは自分の姿が見えてるの。周囲の人の目をごまかす機能なのよ。ちなみにカメラにも写りません』
「なるほど。そりゃ便利だね。一度押しだな」
英太はオレンジ色のボタンを確認した。
『続きまして濃い紫のボタンは押しっぱなしにするとその間だけ壁をすり抜けることが出来ます。押しっぱなしにしている間はボタンは激しく点滅しています』
「このボタンだな。隣の薄紫のは?」
『薄紫のボタンは、縦の壁をすり抜けることが出来ます。天井や床。地中に潜る際は離すと身動きとれなくなるから要注意』
「なーるほど。これならどこにでも侵入できるな」
英太は新しい機能に喜んだ。
『それから、私たちはもう黒い箱から完全に独立しています。ここにいる私もバスターマンも黒い箱に影響を受けません』
「え? きゃんちゃんも?」
『そうだよー。私はブレスレットの中のコンピュータによって作り出されています』
「こ、これ、コンピュータが入ってるんだ」
『分かりやすく言うと……って感じね。今の人間の科学力では解明できないけどね』
「すげぇや!」
『でもバスターマンは、このブレスレットを悪用しないよね』
「もちろん。正義のタメさ」
きゃんは手を叩いて喜んだ。
『それでこそ、私のバスターマン! でも政府に使われそうで怖い』
「いや。総理もいってたよ。戦争とかには絶対使わないって。俺を利用したりしないってさ」
『どうだか~。政治家は信用できないよ』
「よさそうな人だったよ。それに感じたんだ」
『なにを?』
「やっぱり、この人は日本を動かす人なんだって」
きゃんは呆れた顔をしたが、その顔は徐々に笑顔になる。それがバスターマンなのだと知っているから。
ブレスレットのきゃんには政治に関しての知識はない。バスターマンの機能、能力はガイド出来るが他の知識は鈴村きゃんの持ち得る知識が埋め込まれているだけなのだ。
時間が来て、英太はアパートの部屋の中で仁王立ちになりながら、ブレスレットの変身ボタンを押した。たちまち英太の体は光だし、そこにはバスターマンが立っている。
バスターマンはいつものようにポーズを決めた。
「神が裁けぬ悪を倒す! バスターマン参上!」
セリフも決まった。しかしガイドボタンが激しく点滅している。バスターマンはどうせきゃんが笑うだけだとボタンも押さずに窓から空へと飛んだ。
闇夜はバスターマンを隠す。しかし何かに撮影されてはたまらないと、すぐにインビジブルボタンを押した。
「きゃんちゃんの話だとこれで消えてるんだよな。でも……公邸ってどこだ?」
やはり、ガイドボタンは激しく点滅した。
バスターマンはそれを押す。
『なによぉ! 勇ましい割にダメダメじゃん!』
「きゃんちゃん。公邸はどこだろう」
『しょうがない。バスターアイにランドマークが出るようにしたよ』
そう言うと、英太の見ている景色に、光る矢印が出て建物を指している。
「なるほど! あそこだな!」
バスターマンは自慢のスピードで空を舞い、あっという間に公邸の上空へとやって来た。総理官邸にも公邸にも灯りがついている。とりあえず安倍総理に言われた通り、公邸に入らなくてはならない。バスターマンは上空で薄紫のボタンを押しっぱなしにして、ゆっくりと下降していった。
バスターマンの体は屋根にぶつかることなく、通過していく。部屋の中に入り込んで辺りを見回すが人の姿はない。バスターマンはさらに次の階へと下降した。
そこはどうやら寝室のようだ。そこにも誰もいない。しかし見たことのあるオブジェ。バスターマンは小さなチェストの上に黒い箱を見つけた。
「げっ!」
『なんだ。バスターマンか。総理ならこの部屋にはいないよ』
「く、黒い箱だ。総理大臣の公邸に黒い箱──」
『wwww 相変わらず頭が悪いね。なんで総理がバスターマンの電話番号を知ることが出来たと思っているんだい』
「そ、それは──」
黒い箱だ。バスターマンは思った。安倍総理はこれを使ったのだ。だからこそ自分と連絡が取れるようになった。
ようやく分かった。しかしいけない。
箱を使ったものとして。これは破滅の箱だ。箱の中で何度も見てきた。これが人々を破滅に導く様を──。
安倍総理を止めなくては。
それが自分の役割かもしれないとバスターマンは思った。
※ここに登場する内閣総理大臣 安倍清陸は、第90・96・97・98代内閣総理大臣 安倍晋三氏とは一切関係ありません。
※これは娯楽作品です。政権批判や内外政策への提言など一切ありません。
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