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鋼鉄のマナコ  作者: 烏山 修司
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出世欲とアンドロイド

これは、僕が記す物語ではあるが、僕が主人公の物語ではない。僕が自分の人生において何ができるか、そんな思春期的な悩みをこじらせた結果、このおハナシを残そうと思い立った、ただそれだけのことである。そんな訳で、読者の皆々様も、そんなに身構えずに読んで頂ければ幸いだ。

日常をほんの少しだけピリッと愉快にする、そんな香辛料になることを祈って。

    ーーーー 赤川 吾郎 、 20XX年 ーーーー



第1話 出世欲とアンドロイド


さて、まず語りたいのが、僕に取っても始まりであり、彼ら、つまりこの物語の主軸の二人との出会いともなったお話だ。あれは確かーーーーー


*****************

第1節 


「あーあ、今月もピンチだなー・・・。」

通帳をチェックして、僕、赤川吾郎は独りごちた。いくら都内の最低賃金が他の県より高いからといって、東京でかかる生活費は馬鹿にならない。賃金が高い分、家賃やガス代などなどがかかってしまうのだから仕方ないか、と自分に言い聞かせながら今日からのバイト先に足を向ける。

純喫茶・マキナ。三軒茶屋駅からほど遠くないところに店を構えるこじんまりとした喫茶店だ。たまたま前を通りがかった時、アルバイト募集の表示が出ていたので応募したところ、採用されたのだ。以前から珈琲関係の仕事をしたかったこともあり、少し楽しみでもある。別の理由も、あるにはあるが・・・


「こんにちはー・・・。」

レトロな作りの扉を開けると、これまたレトロな作りのカウンターとテーブル席が広がっていた。カウンター席に座っている男女が一組と、カウンター内でなにやらガラス器具をいじっている大男がひとり。

「・・・いらっしゃい。」

・・・クマだ。カウンターの中にいる男を一言で表すとクマ、だった。

一瞬僕が驚いていると、

「ご注文は?」

と大男が訊いてきた。

「あ、そうじゃなくて僕は」

「おいおい、そんな無愛想だから客が少ないんだぞ、マスター。」

僕が話そうとすると、カウンターに座っていた女性がいきなり口を開いた。

「悪いな、これは生まれつきでもう治んねえんだ。」

「ご主人の愛想の悪さは何かの先天性のご病気なのでありますか?」

今度は女性の隣に座っていた男が口を開いた。

「そうだぞデウス。マスターの病名は先天性クマ型無愛想モテナイ症候群という。」

僕を置いて勝手に進行していた会話にあたふたしていた僕も、女性のその言葉に思わず吹き出してしまった。

「すまねえな、ウチの常連が五月蝿くて。別にお客さんのこと忘れてたわけじゃないんだぜ。」

「あっ、いえ、僕、今日からここで働くことになってた赤川です。すいません、言うの遅くなっちゃって。」

「なんだ、そうかい。それじゃ早速だけど、俺が店長の嘉納かのうだ。エプロン貸すからカウンターに入ってくれな。まずは基本的なことを教えてやる。おっと、手を洗う時はちゃんと手首まで洗うんだぞ。」

「え、あの、お客さんいらっしゃいますけど、いいんでしょうか。」

「あぁ、いいんだよ、こいつらは。ほとんど昔馴染みみたいなもんでな。」

「そ、そうですか・・・」

見てみると確かにカウンターに座って珈琲を飲んでいるその男女は店に慣れた様子で落ち着いている。なんというか、実家にいるような、そんな落ち着き方である。改めて観察してみると、男女とも歳は20代ほどで、どちらも端正な顔立ちだ。原宿あたりを歩けば男女1セットでお声がかかるのではないだろうか。

「んん、どうした青年、私の顔に何か付いてるか?」

「あっ、いえ。ただ、ちょっと二人とも美男美女だな、って思って。」

「青年、人の価値とは、何を思い、どう行動し、どんな結果を出したのかで決まる。みてくれなどその時代時代によって評価基準が変わる曖昧模糊としたモノでしかない。さほど重要なことではないのさ。」

と、人差し指を立てて、まるで講義をするかのようにその女性は言った。

「まあ、」

と続ける女性。

「言われて悪い気はしないがね。」

なんだ、この人、まんざらでもないんじゃないか。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私は黒峰久里くろみね くりという。で、こっちのデクノボウがデウスだ。」

「黒川さん、ですね。覚えました。そちらの方は・・・外国の方なんですか?」

”デウス”という名前からして、少なくとも日本人、ということはないだろう。最近の親たちのネーミングセンスからいくと、ひょっとするとひょっとしてしまうかもしれないが。

「いや、デウスは純正の国産だぞ。」

「そうですね、ワタシもそう記憶しています。」

暫く角砂糖を積み上げていた男、いや、デウスが、7個目の角砂糖に差し掛かろうとしながら口を開く。

「じゃあ、デウスっていうのはあだ名か何かなんですか?」

国産、という響きにわずかな違和感を抱きながら訊くと、

「いいえ、ワタシの名前は確かにデウスですよ、赤川さん。それより、手の指と指の間にまだ雑菌の影が見えます。もう一度丁寧に洗ったほうがよいのでは?」

とデウス。

「そんな、デウスさん。人間に雑菌なんて見えませんよ。見えたらマサイ族もびっくりですよ。」

「何を言っている、青年。」

と、黒峰は欠伸を一つすると、続けてこう言った。

「デウスは、私が開発したアンドロイドだ。」



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