壊れた物語製造機
少年は物語を書くのが好きだ。
自分の頭の中に思い描く世界を、文字を使い再構成していく。1つ1つの言葉を慎重に選び、自分の見たい世界をパズルのように嵌めていく。全てのピースが上手く嵌った時、物語は別世界の入り口になり、現実を忘れ、違う世界を見ることができる。
……少年は自らが望む物語を書き続けた。
やがて少年の周りには様々な物語が溢れていた。
友情。恋愛。ファンタジー。推理。SF。ホラー。
幸せな気持ちになった。少年は自分が作る物語が大好きだった。
やがて少年は自分の作る物語を他の人にも知ってほしくなった。
自分が作った中でも選りすぐりの物語を紙に綺麗な読みやすい字で書き直す。
笑ってくれるかな?感動してくれるかな?どきどきしてくれるかな?
少年の心は高まっていく。
少年は書き直した物語を友人達に配っていった。
感想を聞くのが楽しみだ。皆楽しんでくれるといいな。
少年の心は高まっていく。
次の日、友人達から声を掛けられた。
「面白くないから途中で読むのやめちゃった。ごめんね」
「俺も!俺も!なんか眠たくなった」
少年は戸惑う。
「私は最後まで読んだけど……つまんなかった」
「これいらないし返すね」
少年の心はぼろぼろになっていく。
自分の書く物語は面白くないのだろうか。
信じられない。信じたくない。
少年は町に出て自分の書いた物語を配り歩いた。
自分の書く物語はきっと面白い。……きっと面白い。
少年は自分に言い聞かせながら配っていく。
次の日、少年の物語はゴミ箱に捨ててあった。
少年の心が傷ついていく。
他人の評価によって傷ついていく物語。
物語が苦しいと叫んでいる。
少年は泣いた。
「ごめんね。傷つけてしまってごめんね。……もう物語を書くのはやめるよ」
少年は物語を書く理由を見失っていた。
物語も泣いていた。
少年が泣いていると、一人の少女がやってきて、ゴミ箱の中から少年の物語を取り出し、黙ったまま読み始めた。
少女が物語を読んでいる時間は永遠に思えた。
やめてくれ。やめてくれ。
少年は心の中で叫んだ。
これ以上物語を傷つけないで。
「誰が書いたの……?」
少女の急な問いかけに少年は戸惑う。
言葉が出ない。自分が書いた物語なのに、自分が書いた物語だと言えない。
息が詰まる。
呼吸が苦しい。
「あなたが書いたの?」
少年は少女の問いかけに対し、小さく頷く。
「すっごく面白い。続きはないの?」
少女の反応に少年は驚いた。
自分の書く物語でも面白いと言ってくれる人がいることに。
少女の言葉は暗闇を照らす光に思えた。
少年は詰まりながらも言う。
「ま、まだ続きは書いてないんだ」
少女が残念そうな顔をする。
「続きができたら読ませてね?」
「……わかった」
少年は思った。
自分の書く物語を楽しんでくれる人が一人でもいるのなら、その人のために書けばいいのだと。
少年は物語を書き続けた。