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僕の音楽世界

作者: 堆烏
掲載日:2015/09/14

タララ タララ タッタッタ タラ 

タララ タララ タッタッタ タラ

タララ タララ タッタッタ タラ 

タララ タララ タッタッタ タラ


タラタラタラッタ タ タ タ 


これが、僕の人生だ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



もちろん、朝も音から始まる。


ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ


目覚ましの音。まだ眠いというのに、その眠りを妨げる。

そして、うるさい目覚まし時計をバシッと叩き、また夢の世界へと思いを馳せる。


そんな隣人の一騒動が、僕にとっての毎朝の目覚ましだ。

アパートの壁が薄いことは、プラスに利用しないとね。



「むにゃむにゃ。。。。。。!朝・・・ぎゃああああああもうこんな時間だにゃあああああ。」

数時間後、隣の部屋からはいつも賑やかな音楽が奏でられている。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


隣人の叫び声を遠くから聞きながら、僕、神田基弘は自転車に乗って学校につく。

高校の3年間もあと数週間で終わる。

大学の生活なんて想像もできないけど、

きっと楽しいところなんだろうなって思いながら受験勉強の日々が続く。

正直、行きたい大学は特になかった。

でも、大学には行っておけ、という親の言葉と、この大学だけは入りたくない、という希望があった。

まぁ、勉強は特に苦じゃないって本当にお得だ。


「よぉ神田。毎日毎日勉強で飽きねえの?」

「黒墨。引退したくせに部活に顔出すの、いい加減止めときなよ。後輩がかわいそうだよ。」

「俺の部活だし、俺の後輩なんだから誰も文句はねえだろ?」

「はいはい。受験終わってる人は気楽でいいね。」


推薦で大学が決まってる黒墨疾風は野球部のキャプテンをしていた。4番ピッチャーの最強の部長だった。

実は、僕が行きたくない大学ってコイツが行く大学。

同じ部活ってだけで絡んでくるだけならいいけど、黒墨はヤケに僕に絡んでくるから困る。

『野球帽の殺人鬼』で知られる黒墨と知り合いだなんて思われたら、大学生活がまともなモノにはならない。


「じゃあ、僕は教室に行くよ。」

「おう、じゃあ、大学で待ってるぜ。」

「行かねえってば。」


志望校の欄を勝手に変えようとするな。


「いーや。お前は絶対俺と同じ大学に来るって。」


肩にバットを担いで、手に持ったグローブをヒラヒラさせながら、黒墨は後ろ向きに手を振った。

4番とでかでかと背中に書かれたユニフォームを眺めながら、僕は本気で勉強しようと決心するのだった。



その時、

風が音を奏でる。


弾丸の調べ。

僕はとっさにしゃがむ。


と同時に、


さっきまで僕の顔があった空間を、硬式野球ボールが通り過ぎて行った。

後ろから悲鳴が聞こえる。

どうせ、この流れ弾が誰かにあたったのだろう。ナムナム。


片手にバット、片手にグローブ。後ろを向いていたはずの黒墨は、

投球後のピッチャーの如き姿で、僕を見据えていた。


「相変わらず避けてくれるねぇ。鈍ってないようで嬉しいぜ。」

「あの高さはボールだよ。キャッチャーの河口にまた怒鳴られるよ?」

ストライクゾーンは心臓か腹部だったな、とケラケラ笑う黒墨。違うわ。


我が高校の野球部の退部率は僕の代で70%。きっと、理由と彼らの末路は知らない方がいい。


「後輩殺したらまた停学喰らうだろうから、ほどほどにしなよ。」

「あと数週間しかねえんだ。そんなもったいないことしねーよ。」


僕は呆れた顔で、彼は満足そうなニヤニヤ顔で、同時に呟く。


「ほいじゃまた。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


教室に入るととっても安心する。

いつもの顔ぶれ。ともに受験を闘う仲間たち。


「おはよ、神田っち。」

「うぃー。」

「神田。外騒がしいけどまた何かした?」

「あー。僕じゃないけど黒墨がね。」


適当に挨拶しながら窓際の席に着く。

隣の席には石田。前には富田さん。

石田は机に突っ伏して唸ってる。


「富田さん。石田のやつどうしたの?」

「私もよく知らないけど、過去問が解けなくて辛いんだってさ。」

「あるあるだね。」


朝礼のチャイムがなる。席はまばらに空いている。

推薦組や、就職組。私立大学受験一本組はもう来てはいない。

富田さんの隣の席も空席だけど、ソイツは遅刻だ。

なにより、僕が一番知ってる。


一時限目の授業の途中、遅刻魔、夏帆はやってきた。

「夏帆が来るよ。」

「相変わらず凄い耳だな。」

「アイツのドタドタ音は格別にうるさいからね。」


数十秒後。


「せんせーい!おっはよーございまーっす。遅れちゃいました~。。。。。てへっ。」

「てへっ。じゃない。早く座れ。」

「・・・・はーい。」


席に着いた夏帆は、すぐさま後ろを向き、小声で僕を責めた。


「なんで起こしてくれなかったのぉぉぉぉ。」


「いやあ、一回目の目覚ましで起きてるのかと思ったんだ。」

「あ、そうなの?」

いやあ、それは嘘なんだ。


「水上。着いて早々授業放棄か。後ろ向くな。ついでにこの問題解け。」

「あ、はーい。19π/37でーす。」


「・・・・正解。」


夏帆はただの天才だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


放課後は基本教室に残っている。

受験生として勉強をしないといけない、適度に不真面目な僕もそう思わざるを得ない時期だった。


僕と夏帆は同じアパートに住んでいて、部屋も隣同士。

そういうこともあって、すぐ話すようになったし、一緒に帰ることも多い。


「夏帆・・・・頼む。この問題のヒントくれ・・・・。」

「はいはい。頑張れば解けるって。これ最大のヒントで近道ナリ~。」


むう。

居残っている僕を待ってくれているのは嬉しいけれど、少しくらいは手伝ってくれても、とは思う。

隣を見ると案の定、石田は机に突っ伏して唸ってる。


そろそろ頃合いかな。

これ以上の勉強はちょっと集中が持ちそうにない。


「帰ろっか。」


僕の発言に対する石田の飛び起きっぷりは見事だったが、その後の石田の片づけっぷりも素晴らしかった。


ちなみに、一番片づけが遅かったのは、問題が解き終わるまで周りの声が聞こえないくらい集中できる富田さんだった。よほどの難問と戦っていたのだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「もうちょっと早く出ればよかったかぁ。」

「ん?基弘、何か言った?」

「何も言ってないよ。」


何も、言ってない。何も聞こえてない。

それでいい。分からなくていいんだ。


「いやぁ、今日の問題は全部手ごわかったなぁ。俺っち全力出さねえとやばかったぜ。」

「あんた最初っから力抜けて唸ってたでしょーが。」

「あれは、力を貯めてたんだよぉ。」


石田は帰り道になると明るいおちゃらけキャラに戻る。

本人曰く、学校で勉強することは苦痛のようだ。

ちなみに、家でも勉強はしていないようだ。全く。


「石田君。ちゃんと学校では勉強真面目にしないとダメだよ~?」

「遅刻魔にゃあ言われたくなかったんだが・・・・。」

「うぐぅ・・・・。」

「というか夏帆。お前が一番真面目に勉強してないだろ。」 

「基弘まで私を責めるなんてっ。ひどい。」


もちろん、自称他称天才の夏帆は、ひどいなんて思ってもいないだろうけれど。


そんなこんなでいつもの十字路。

「じゃあまた明日ね。」

富田さんが言う。同じ方向に石田が続く。二人並んで右に曲がる。

「うん。ばーいばーい。」

夏帆はまっすぐ進む。本来は僕もそっちの方向に進む。本来は。

「ちょっと書店寄ってくから、僕はこっちで。」

左に曲がる僕。

「あ、じゃあ私も。」

「いや、だめ。」

「ひどい!」ついて来ようとする夏帆は全力で止める。

「参考書は一人で選びたいし、夏帆に見られたくない買い物もあるからさ。」

「うーわ。基弘サイテー。見られたくないってうーわ。男の子はコレだから。」

どうせエッチな本とかでしょ、とかブツブツ聞こえてくる。ツライ。

ジト目で見てくる夏帆から視線を逸らす。

「まぁ、すぐ帰るから。」

「ったく、早く帰ってきなよー。」


僕と夏帆の言葉が重なった。音が重なった。お互いにっこり笑う。

僕と夏帆はそこで別の道を行く。



さて、ここからだ。

音は少しずつ、大きく揺れてくる。

静かに、それでも徐々に速く、音は近づいてくる。

僕はため息をつく。

ため息って、こんなに白く黒かったっけ、と。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


冬の夜は暗闇が訪れるのが早く、寒さも増してくる。時刻はまだ午後の6時を少しまわったくらい。

視界は暗くなっていく。そういう道を選んでいるからだけど。

もちろん、書店なんてこの先にはない。静かな暗い住宅地があるだけ。

僕にとって、静かな場所なんてこの世には存在しないけど。


刹那、一瞬、瞬間、音、無音から背後、100m後方、標高30m、ビル、右利き、男性、ライフル、角度、即座、狙い、己、当たる、右肩、空気、摩擦、落ちる、0.05秒、回避、可能、


はい。まぁ余裕だよね。


自分の左足で右足を蹴り、体勢を崩す。同時に身体を左にそらす。道路に火花が散ってすぐ、銃声が聞こえた。


こけた。痛い。まぁ、しょうがないか。

すぐに立ち上がり、すぐそばの角を右に曲がって、しゃがみ込む。ここはライフルの死角。

でも、終わらないよね。


左に曲がらなかったのは、3人隠れていたから。右には2人。やりすごすにはこっち。

しゃがんだ僕を殴りつけようとする大男には足払い。

もし、蹴りだったらジャンプして飛び蹴りの旋律。僕はこっちの音の方が好みだったのに。

大男の後ろには拳銃持ちのヤクザ風。自分の後ろからは拳銃持ち2人とナイフが1人、か。

流石に荒れるよ。これ。


大男の腹を殴りそのまま盾にヤクザ風に突進。避けるところに回し蹴り。

後ろから弾丸の風の音。でも黒墨よりは遅い。かわして大男にあたる。

これで一人、アウト。こんなところか。


一目散に走る。ナイフ1人と拳銃2人は正直無理だから。

そんなに死にたいわけでもないし。


右へ。左へ。止まって左。


タン、タタタン、タン、タ、タ、タ。

駆ける。駆ける。駆ける。

呼吸の乱れはない。リズムに狂いはない。音に間違いはない。

こっちの方向には、敵の音はない。


パチパチパチパチパチ。


敵の音はない。はずだった。

響いたのは拍手の音。


「見事です。数日前から勧誘してるのに断り続けている方がいると聞いて見に来たのですが、いやはや。」


逆光でよく見えない。背丈は分かる。


「黒墨君はすぐに応じてくれたのですが、なぜ我が学園への推薦入学を断るのです?

 授業料タダ。将来も確定。エリートコース。勉学そこまでは不要。必要なのは」


「殺人鬼のガキたちから生き残るスペックってこと?嫌だよ、黒墨みたいなのがゴロゴロいる大学は。」

僕は首を振る。死ぬのが怖いとかじゃない。別にその大学でも上手くやっていける自信はある。

ただ、その音楽は僕の求める旋律とは違う。


静かなのに獰猛で

一瞬なのに荒れ狂い

壊滅なのに享楽な


そんな旋律。そんな戦慄。そんな世界は


「僕の居場所とは違うからね。誰だか知らないけど、低調にお断りさせていただきます。」

アップテンポは僕の趣味じゃない。ソプラノよりもテノールだ。


「もし断り続けるのでしたら」

ほう

「お友達に危害を加えようと」

口を開くな。

「思ったので・・・す・・g。」

黙れ。


「・・・っっっ!」


「僕の音の世界には君はもういらない。帰ってくれないかな。急いでるんだ。」


「がぁはぁ・・。な、んの、っっ!・・用事・・・です、・・か・・・ね・。」




もはや眼中に入れる必要もないな。

首を抑え苦しそうな人影を振り返ることもせず、僕は


「夏帆が待ってる」


家に帰るんだ。



暖かくて透明な

清らかで繊細な

まっすぐで純粋な

そして、とても聡明。


また面倒事に巻き込まれている僕

気づいても気付かないふりをして、僕を待っててくれる夏帆

それと、まぁ石田とか富田さんとか。


そんな世界の音が僕は大好きなんだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふぅ。やっとまともに声が出るようです。」

いやいや、残念。

黒墨君を筆頭として、あの高校にはスカウトしたい子が多かったのですけど。


「不死鳥には脅しが効いたのですけど」

脅すことすら封じてしまうとは、恐ろしい子なのに勿体無い。


さてと、じゃあ次の子に


「ちょっと待てや」



神田にとっては聞きなれた音。

『野球帽の殺人鬼』が硬式野球ボールを放つ瞬間の音、その前の予備動作の音。

肩の音、指の音、殺気の音。空気の音。


神田なら話しかけられる前に気づくだろう。その弾道。速さ。威力。

全てを音として認識し、全力で避けるだろう。

神田ならば。


「??・・・!」




夕闇が完全に闇と化した真冬の夜。

1つの生首が宙を舞う。


「てめぇ、あれだろ?あの学園の理事長ってやつだろ。」

『野球帽の殺人鬼』は生首に話しかける。


「がはぁ。そうだね。分かってるなら殺さないでほしかったものだよ。」


しゃべる生首は彼の動揺など誘えなかった。


「ったく。前殺した理事長もお前も本体じゃねえのか。早くお前に会いてえところだ。」

「怖いことを言わないでくれ。コレも本体だし、そう何度も殺されては身体がもたんよ。」

「まぁそれはどうでもいいんだがな。」


首をコキコキ鳴らしながら、黒墨は笑う。

目は笑ってない。


「てめぇ、勝手にうちの部員に手ぇ出してんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ。」

「説得力があるな。私はもう死んでる。」

「その身体も生首もあと数分だろ?」

「そう。いたわってくれ。」

「ばーか。」


ケラケラと笑う黒墨。血を吐きながら笑う理事長と名乗る幼稚園児。


「言いたいことは以上な。じゃああとは死んどいてくれ。」

漆黒の闇に消える『鬼』


「全く、俄然興味が湧いてきたところに釘を刺されてしまったか。」

余談だが、黒墨のバッドには釘はささっていない。

釘バッドは、他の部員のトレンドマークであるからだ。


「惜し、いが、わ、たしの、物語には、彼は、出てこないか。残・・・ね。。。ん。。・・・・。」

タン、タタ、タ、タタタ、タンタン、タタッ、タタタタン。タ・・・タ・・・タ。

神田ならこう表現しただろう。


世にも珍しいしゃべる生首は、全機能を停止した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お帰り~。」

アパートの近くまで歩いていると、夏帆が曲がり角から飛びついてきた。

「外は寒かったんじゃないか?早く中に入ろ。」

「今暖まってるから大丈夫~。」

抱き付いてから離れないので、しばらくはこのまま。


夏帆はめったなことでは抱き付いてこない。

ここまで心配させたのは久しぶりだ。


黙って頭を撫でてやる。

誰にも聞こえなくても、僕には聞こえたから。

夏帆の泣き声が。


抱き付くときは泣き顔を見られたくないとき。

怒った時ではなく、心配で胸が張り裂けそうなとき。


彼女の心臓の音が聞こえる。

鼓動は踊り、喚き、次第にゆっくりとなり、落ち着いたメロディを奏でる。

それとは異なり、僕の心臓は不定期に高鳴る。

落ち着かせても、鎮めても、唯一コントロールできない。


冷たく暖かい冬の夜空を見上げて、呟く。

「やっぱり夏帆には敵わないや。」

この呟きは僕だけの音。


夏帆の音で眠りにつき、夏帆の音で起きる。

それが僕の毎日。



タン、タタタンタンタン、タン、タンッ♪

こういう人生も悪くない。













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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常だと思ってたから途中からの展開に驚き。全体的に読みやすかったです。 [一言] 今後の展開あれば期待。でもここで終わるのも綺麗な気する
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